第13話 ストレート一本勝負

コタツの心地よい温もりと鍋からでる湯気。


程よく温もったリビングでは雑炊をたらふく食べた


茉梨がお気に入りの苺のクッションを枕にウトウトし始めた。


土曜の夜9時。


家族団欒するにはもって来いの時間帯。


・・・・にお邪魔している(茉梨以上に食事の手伝いはした)俺。


おばさんは空いた食器を運んで後片付けを始めている。


俺はというと、スルメイカを食いながら茉梨父とテレビに向かってどーでもいい突っ込みなんかしてみたり。


おばさんが掛けていった半纏を放り出して気持ち良さげに目を閉じる茉梨の足をつつく。


起きないことは百も承知で。


「寝るなら部屋行けって」


「・・・んー・・・」


やっぱりな・・・


俺は引っぺがされた半纏を再び茉梨にかけてやる。


その様子を見ていたおじさんが目を細めて笑った。


優しい父親の顔のまんまで茉梨と俺の顔を眺める。


こういう顔を見るたび、俺は何度も実感させられる。


父親の、底知れぬ愛情ってやつを。


この世でこの人以上におばさんと茉梨を愛している奴はいない。


そう断言できる。


世間の父親がみんなこうなら、非行に走ったり犯罪を犯すような人間は育たないんじゃなかろうか。


俺と父親との関係は、世間一般でいう家族のそれとは少し違っていて。


だから余計、このまっとうな父親が珍しく。


・・・そしてどこか、羨ましい。


父親(あの人)が超多忙な仕事人間だったせいか、ほとんど家族で過ごした記憶は無いし。


2人での生活になってからも、こういう団欒らしいことをしたことはなかった。


男2人で膝つき合わせてってのもなんだけど・・


まあ、いい感じでコミュニケーションは取れてるし。


我が家はこれで通常運転な感じ。


「振り回されて大変か?」


焼酎を一口飲んで、至極穏やかな口調で尋ねられた。


俺もいつかは、こんなふうにうまそうに酒を飲める大人になりたいと、素直に思う。


そして、この人に適当な嘘や誤魔化しは効かない。


俺は口に入れたスルメイカを飲み込んで言った。


「毎日にぎやかですよ」


そりゃあもう。


「ははっ。茉梨は、直情、直球、待ったなしだからなー」


「・・・・すっげ当たってる」


あいつをどういう人間かと尋ねられたら、上手く表現する言葉を今の俺は持っていない。


なんとなく、モヤがかかった曖昧な答えをこの人はズバリ言い当てた。


俺の言葉に頷いて、しみじみと言った。


「あの子を16年。見て来たんだよ」


そして、自慢げに胸を張る。


俺は温くなったグラスのお茶を飲み干しておじさんの空いた器に焼酎を注ぐ。


「お・・・悪いなぁ・・・・でも、嘘をつけないまっすぐさを、俺はこの上なく愛しいと思うんだよ。親の欲目かなぁ・・・」


世間一般の父親で、赤の他人に臆面なく娘を愛しいと語れる人が何人いるだろう。


それも、こんなに大切そうに。


「たしかに、茉梨は嘘つかない。つーか、つけないもんね。隠すことはあっても、嘘はつかない。つっても、隠したってバレるけど」


「だろ?今時珍しい位・・・まっすぐな子に育ったもんだよ」


「それ自慢?」


「当たり前だろ?自分の娘自慢しないで誰を自慢するってんだ」


「おじさんらしい」


「・・・そうだろ?・・・ああゆう子だからさぁ・・・一度、自分が面倒見るって言ったら、最後までやりきるよ。飽きたり、途中で放り出したり、絶対しない。あの子が、自分で決めたなら、絶対だ。だから、大丈夫。いつまでも、勝君が好きなだけ。一緒に居てやってくれよ」


その言葉は、声になって届いた分、それ以上に。


俺の心のど真ん中に、思いきり突っ込んできた。


茉梨の父親だよなぁ・・・・


スルメイカに手を伸ばして言う。


「・・・俺、なんか不安そうだった?」


おじさんはまた焼酎を一口飲んで、首を振る。


「いーやー。俺が娘の友達にいつまでも仲良くしてやってくれって言ってるだけだよ」


本当は、茉梨が思う以上に、俺は、茉梨に依存している。


本人が気づいてないところで、ずっと、深く。


それを、この人は気づいていて、そしてそれを許している。


「面倒見切れるかな・・・このじゃじゃ馬」


コタツテーブルに頬杖ついて呟いたら


「お前さんだから出来ると、俺は思うんだけどね」


柔らかい声が返ってきた。



明日なんて分かんないけどさぁ。


ぶらぶら他所見しながら、歩いてってみようか?


そう思えるのは、多分・・

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