第14話 ちょこっとチョコ

二学期期末テスト最終日。


開放感たっぷりの空を見上げつつ、珍しく公共交通機関を使ってのお出かけ。


目的地は隣駅前にあるドーナツショップ。


茉梨は真冬の空を見上げて口笛吹きつつホームへ繋がる階段を上る。


電車到着まであと5分だ。


マフラーからはみ出している柔らかい癖っ毛を鏡片手に直そうとする。


その手から鏡を取り上げて、階段を指さす。


「足元見ろ」


ったく、いっちゃん相性悪い場所で何するか・・・


前に転ぶならまだ良し。


後ろに転ばれたら間違いなくすり傷じゃすまされない。


しかも、俺が一緒に居ての事態となるとまず間違いなくクレームが来る。


多方面から。


ふくれっ面になった茉梨の後ろ髪を直してやって俺はやたらと重いなんとかってゆーブランドの鏡を綺麗にマニキュアで彩られた右手に乗せる。


テスト勉強でピーピーゆう割にはこーゆーことに無駄に手間かけんだよな・・・


女って分からん。


「この季節は静電気が嫌だ・・・・」


ドアノブに手をかけるたびにバチバチとおこる静電気に悲鳴を上げる茉梨。


今年もそれは同じことで。


「後一か月もすりゃマシんなるよ」


「どーだか・・・うおっ」


さっそく階段で躓いた茉梨が両手を広げてバランスを取る。


「だーから言わんこっちゃない・・・おまえは子供か」


カバンに鏡をしまおうとしたらしい。


「まだ未成年なんで子供ですねー」


「威張るなそこで」


「や、だって、ほら法律変わんない限り子供よ?」


「屁理屈」


「えーだってー」


「そこで可愛子ぶるな」


一昔前のアイドルよろしく両手を頬に当てて首をかしげて見る茉梨。


その後ろ頭を小突いて追い越す。


あ、隣を上ってくおばちゃんが笑った。


「あーお腹すいたー」


「後20分もすりゃ好きなだけドーナツ食べれるだろ」


「それが待てないんだよねェ・・・」


ポケットを探ってみたものの何も出てこない。


「我慢しろ、我慢」


言った側から携帯が鳴った。


「・・・・会長かな・・?」


この後ドーナツショップ前で待ち合わせる二人のうちの一人からの着信だ。


俺の呟きを聞きとって茉梨がホームに上がると同時に聞いてくる。


「えー?」


「電話・・・はい、もしもし」


液晶に表示された名前は我が校の生徒会長殿。


「貴崎?俺」


「お疲れです。もー駅ですよ」


「あ、ほんと?俺、今からガッコ出るから。30分以内でそっち行くから」


「了解」


「それまで絢花の相手よろしくー」


「はいはい」


通話を終えると同時に俺の顔の前に何かが差し出された。


そして、茉梨は満面の笑み。


「カズくんなんて?」


「今から行くってさ。可愛い彼女のお守りしてろって」


「あー・・・はいはい。余計な男を追い払えと」


「良く分かってるな」


このあたりじゃ有名なお嬢様学校である聖琳女子に通う彼女を持つ会長は、まさに友英男子の憧れを全て叶えた男だと言えよう。


「こないだ、絢花ちゃんとデートした時も凄かったもん。あたしが席外してる間にひと組。ふたりでランチ並んでる時にふた組」


そりゃすごい。


「んで、すべてあしらってやったと」


「そのとーり。このあたしがいる限り、絢花ちゃんには指一本触れさせません!!」


「あーそう、んで、これは?」


差し出された袋入りの一口サイズのチョコを受け取る。


茉梨のカバンは昔見た映画の、魔法使いの家庭教師のカバンのようだ。


外見からは想像もつかない量のグッズが次々と出てくる。


思わず裏向けて何もないか確認したくなるくらい。


「こないだコンビニで買ったやつ」


そう言って自分もホワイトチョコを頬張る。


「あ、そだ、それねェ」


意味深に頷いて両の手をポンと叩いて。


茉梨がにっこりと笑う。


「バレンタイン込みだからね。ホワイトデーよろしく」


「・・・・・はい?」


そう思ってみれば季節は冬で、クリスマスの次の一大イベント。


バレンタインでしたか・・・


「飴玉でいーか?」


そう言った俺の手に茉梨が今度はカフェオレ味のチョコを乗せてきた。


「・・・も一個いる?」


「はいはい」


ため息つきつつもそれを受け取ってしまう。


俺の返事に茉梨が眉間に皺を寄せる。


「それはどこにかかった返事?」


まるで古文のテスト問題のような質問に俺は思わず笑ってしまった。


「さードーナツ何食おっかなー」


「え、ねえ、ちょっと」


ちょうどタイミングよくホームに電車が入ってきた。

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