第8話 あたしの相方
今月のラッキカラーはオレンジ。
やったぁあたしの好きな色。
おひさまの色。
夕焼けの色。
あったかい色。
なんか・・・あたしっぽい色?
買ったばかりのファッション誌の人気の占いコーナーを読んでいたらクラスメイトの一人がこのクラスで誰がタイプか?
なんていかにもな話題を出してきた。
あー・・・そろそろバレンタインですしね。
あんまり関係ないので(食べる専門だし)流し聞きしていたのだけれど。
いきなり話題を振られた。
すなわち”勝くんってどーなの?”
「えー・・・勝ぅ?」
「うん。なんか、イイよねー貴崎くん」
「悪かないけど・・・どこらへんが?」
「えー・・・面倒見良いところ?」
「・・・・良くないよアレ」
むしろ柊くんと、団地組のがよっぽど面倒見良いから!!
「めちゃくちゃいいよ!!だって矢野ちゃんの面倒見れるくらいだもん」
うんうんと数人の女子が頷く。
・・・・ちょっと・・・ナニソレ?
「なんか聞き捨てなんないんですけどぉ」
あたしのおかげでアイツの人気急上昇って・・・どーよソレ???
★★★★★★
「モテるなら、自分の力でモテろっつの」
「矢野、それ無茶だからさ」
クスクス笑いながら美味しいカフェオレをあたしに差し出してくれるカズくん。
第二生徒会室にあたしと勝を招き入れてくれた友英学園の絶対君主。
彼が持ち込んでくれた電気ポットとミニ冷蔵庫のおかげで、夏も冬も快適に過ごす事が出来ている。
受け取ったカフェオレはあっついからフーフー息を吹きかける。
猫舌。
あたしの弱点だ。
「だってあたしの面倒見てるから勝がモテるって道理に合わなくない!?」
「・・・・貴崎がモテるのは反対?」
「いーえ。大賛成。連れがモテるって嬉しいでしょ」
「・・・ふーん」
「でもさ、あたしといることで、なんで頼れる男と思われちゃうかなぁ」
なんか、あたしがどーしょーもないみたいじゃん。
ブスっと膨れたら、カズくんがスーパー頭脳であたしの考えを読んだらしい。
にやっと笑って口を開く。
「矢野が突拍子もないから」
「なにそれ!?」
「んー・・・・ほっとけないってコトかな」
「あたし、かなり図太いし、強いししぶといよ」
「・・・・知ってる」
目を細めてカズくんが笑う。
心底感心したみたいにあたしの頭をくしゃっと撫でた。
こういう触れられ方は安心する。
「矢野はほんとに自分のことわかってるねー」
「エライ?」
「うん・・・スゴイよ。だから、矢野は強いんだろうなぁ・・・」
口に手を当てて何かを考えるしぐさを見せるカズくん。
こういう時の彼はまさに執行部役員って感じ。
文句なしにカッコイイ。
そもそも勝は、あたしより人見知りだし。
あたしより口ベタだし。
あたしより怖がりだし。
なーのーにー!!!
なんで、あたしとセットだと”優しくて頼りになって面倒見のよい”勝に見えちゃうかなぁ?
「勝って面倒見よくないよねぇ。ぜんぜん甘えただし。みんな勝のドコ見てんのかね」
革張りの古いソファにドスンと腰かける。
スプリングがギシギシ鳴った。
向かいの校舎からブラバンの演奏が聴こえる。
あ・・・勝の好きな甲子園でよく聞く曲。
「矢野は貴崎のことよく見てるね」
「・・・そう?」
「みんなは、貴崎の外側だけしか見えないからだから、等身大のあいつよりずっとカッコ良く見えるんだろうね」
「・・・・」
「だーけーど。矢野が見てる貴崎が正解だと思うよ」
“正解”と言われて嬉しくなる。
良かった。
あたしは、ちゃんと、勝を見れてる。
「それにしても・・・」
トンと自分用のブラックコーヒーのマグカップを長机に戻してカズくんが呟いた。
「さすが矢野だなぁ」
やけに含みのある言い方にあたしはカフェオレを口元から遠ざける。
「なにが?」
「分かってたんだ」
「へ?」
「貴崎が”甘えてる”って。気づいてないのかと思ってたよ」
「・・・・意味分かんない」
あれだけあからさまなのに?
寂しがりで、面倒くさがり屋。
群れるのは嫌がる癖にひとりは怖い。
勝は入り口が狭くてややこしい。
でも、入るとこんなに分かりやすい人はいない。
他に知らない。
“側にいてほしい”ときはすぐに分かる。
他の誰にも見えなくてもあたしにはわかる。
「そりゃー放っとけないね」
「でしょ」
頷くと首を振られる。
「矢野のことだよ」
「うん?」
「貴崎が隠したがるのも分かる」
「あたし、隠れてないよ?」
「・・・・そーだね。手に余るよね、矢野は」
なんとなくイメージが掴めずに知っている言葉で確かめてみる。
「あたしが・・・じゃじゃ馬だから?」
「そんなことないよ。貴崎が掴もうとしないだけでしょ」
小さく笑って、カズくんが廊下に視線を送った。
すぐに聞き慣れた足音が聞こえてきてドアが開く。
ちょっと癖のあるドアをいとも簡単に開けて入って来たのは勝だ。
あたしも慣れるまではガタゴト持ち上げたり押したりして四苦八苦しながらドアを開けていた。
簡単になったのはつい最近の事だ。
勝は手先は、器用だ。
「おつかれー、あれ、もう来てたのか」
入ってきた勝がすぐにあたしとカズくんの手元に視線を送る。
ジト目で無言のままに勝を見返してやった。
「・・・」
だってまだ納得できてない。
そんなあたしの視線に気づいて勝が怪訝な顔をした。
「なんだよ。・・それカフェオレ?お前の?」
この”お前の?”は”あたし用の?”と”あたしが淹れたの?”のふたつの意味がある。
この質問に答えたのはカズくん。
「俺が淹れた」
「なら安心」
そう言うなり、あたしの手からマグカップを取り上げる。
断りもなく程よく冷めたであろうそれを一口飲んだ。
遠慮もなにもなく。
「あー・・人がせっかく冷ましたのに」
「さっすが、会長。美味い」
「そりゃよかった」
返ってきたマグカップを口に運ぼうとするとすかさず勝の手が伸びてきた。
「まだ熱いって」
「うそ」
言い返してそっとカフェオレに口をつけた。
「アツ・・・」
「ほら言ったろ」
あきれ顔で勝が言い返してきた。
ものすごーく色々と癪に障ったから。
即座に言い返してやる。
「勝のばか」
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