第7話 商店街とコロッケ

日曜の商店街は時間帯によって混み具合が全然違う。


ちなみに今日は、午後2時という中途半端な時間帯に出かけたので、ガラガラの商店街でゆーっくりと、物色の後本日の食材を低価格にて仕入れることができた。


隣を並んで歩く茉梨はスーパーの袋を覗きこんで買い込んだ食材を目ざとくチェックする。


「ネギたーっぷりのピザ」


確かにねぎは買い込んだけど、ラーメン用とか味噌汁用のつもりだったし。


「こないださー、テレビで簡単美味しいピザ生地の作り方やってたでしょ」


祝日の昼間の再放送料理番組でやってたアレのことか・・・・


ピザ生地を買って作った前回のピザは茉梨に大好評だった。


ネギが余ったから作ってみたらこれが意外とめちゃくちゃ美味かったのだ。


ふたりでペろりと平らげた。


「小麦粉あったけど」


「こねるのはあたしするし!」


「・・・たまにはネギも刻んだら?」


「大小入り乱れたネギでもいい?」


「チーズに隠れてるから全然オッケ」


「よっしゃ!腕を振るいましょう」


「こらこら、ふるうのは俺、おまえはアシスタント」


「そーでしたー」


「んじゃ、晩飯はネギたっぷりのピザで」


俺の言葉に、茉梨がガッツポーズを繰り出す。


つられて右手に持っていたスーパーの袋ががさがさ揺れた。


「それにしても缶詰大量に買ったねェ」


「腐んねーし、保存食、保存食。こっそりおまえが紛れ込ませた、みかんの缶詰も見逃してやったろ」


ツナ缶の間にうまく滑り込ませた、みかんの缶詰ふたつを見つけながらも、何も言わずにレジを通してやった俺のこの広い心意気を褒めたたえるべきだろう。


「うっ・・・ビタミンは風邪予防に効果絶大ー」


歌うように言う茉梨。


「まー、風邪ひいてバイト休んでる場合じゃないからいいけど」


「みかん安くておいしいしー」


「あの甘ったるいシロップが好きなんだろ」


「あ、あれをね、こないだ紅茶に入れてのんだら意外とイケたの!!すごい発見でしょ!」


「紅茶ー!?」


「なに、その嫌そうな顔」


「嫌だし」


「じゃあ今日のデザートにお出ししますね」


「えんりょ」


「しないでちょうだいね」


「・・・さくさく歩いて帰るぞー」


俺は商店街の中に入っている行きつけのミニマートの前を足早に通り過ぎる。


「ついでにみかんも浮かべてみる?」


「いらんわ!」


「あらー、勝くーん、茉莉ちゃーん」


左手前方のお肉屋のおばちゃんがにこにこと手を振ってくる。


激安コロッケが人気のお店だ。


「カニクリーム揚げたてよー!」


「おばちゃん!2個ちょうだい!」


良いにおいに釣られるように、茉梨がお店に近づいていく。


「じゃあ、サービスでミニコロッケ入れとくね」


「やったー!」


一口サイズのコロッケを2個新聞紙の袋に入れて差し出すおばちゃん。


1個60円のコロッケは特売日にはなんと半額になるのだ。


カニクリームも80円と激安。


茉梨がコロッケをひとつ俺の前に差し出した。


「夕飯代ー」


「イタダキマス」


並んだコロッケを頬張る俺たちを見ておばちゃんは楽しそうに言う。


「ほんっとにいっつも一緒ねー」


「今日は買出し日だからね」


茉梨が口いっぱいにコロッケを頬張って言う。


俺は敢えて無言を通すことにしている。


特にこの手の話題に関しては。


おばちゃんは、こーゆー話題が大好きだからうっかりいった些細な一言がとんだ爆弾になる可能性もちゃんと視野に入れておかなくてはならないのだ。


「茉梨ちゃんは、いっつも美味しいごはん食べれて幸せねー」


「うん、ほんっと助かってます」


すでにこの商店街の常連の店では、茉梨が料理音痴ということは周知の事実だ。


普通こーゆー場合は俺におばちゃんが言うべきセリフだろうに。


茉梨の中で料理ができないことがどんどん自慢になりつつあることが、俺の今最も心配な事項のひとつだ。


「いいわねー、勝君も茉梨ちゃんが美味しいって食べてくれたら頑張って作ろうって思えるもんね」


まるで主婦に向かって言うようなセリフを向けられた俺はまーねーと、曖昧に頷いた。


「1人分作るのも2人分作るのもあんまり変わんないもんねー」


最後の一切れを口に入れた茉梨が、したり顔で頷いた。


おいおい、お前がそれを言うかあ?


「作るの俺だろーがよ・・」


「あたし、今日ネギ切るよ!」


「いやいや、自慢にならんし。つか、お前まだネギ切ってないだろ?」


「2時間後には切るじゃん!」


こらこら、そういう問題じゃない。


「あのなー・・・」


きゃんきゃん吠える茉梨の口に一口コロッケを放りこむ。


よし、これで静かになった。


そんな俺たちの様子を頬杖をついて見ていたおばちゃんが楽しそうに口を開く。


「本当に仲いいわねー。昔の私と家の人みたい・・・」


うっとりと思い出に浸るおばちゃん。


彼女の頭の中で、俺と茉梨がどういう認識をされているのかと、恐ろしくなる。


「おばちゃんたちは、今も仲良いでしょー」


「そうそう」


「じゃあ、俺らはそろそろ帰るんでー」


「あら、そう?また来てねー」


俺は、茉梨の手を引いて、足早にお店を後にした。


お夕飯はピザーぁ、とオリジナルソングを歌う茉梨の横で見るともなしに空を見上げれば。


「今日も平和だなぁ・・・」


しみじみ呟いた俺に、茉梨が買い物日和よねぇと快活に笑った。

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