【♯02】チーターに、圧倒的な力の差を魅せつけてやりました。
〘間近でチーターとか初めて見た〙
〘すげぇバグってる……〙
〘何でカジュアルマッチにチーターが?〙
配信の視聴者も、稀にも見ないゲームの不正行為を働くチーターの姿に騒然。
武装した兵士の姿がバグやノイズによるアバター生成の維持が不完全の状態で、キッドの画面で発見される。ただチーター本人にはキッドの存在は気付いていないようだ。
そして彼の装備している武器は、連射力が随一長けている
だがSMGは連射が長けてる分だけ、発射時の銃の
30発全てをヒット出来れば1秒でノックダウンが可能な武器なだけ、扱いは並大抵の事では不可能だ。
しかしSMG使いの『80256324』というチーターの周囲には、撃破されたプレイヤーの置土産・デスボックスが散開している。そこから考えられる事は……
「コイツはチートの基礎“オートエイム”って奴だな。チートプログラムが自動的に敵に照準を合わせる事で、遠かったり避けてる敵のタイミングに合わせて全弾命中させる狡いやり方さ」
それをトップの連射速度を誇るSMGを装備すれば、1秒で確実に撃破される。
狡猾なプログラムを使って、尚且それに人の悪知恵を混ぜて勝利を勝ち取ろうなど許すまじ行為です。
〘ムカつく〙
〘チートに手を出す人の気が知れないわ〙
〘BANしてやれ、通報!〙
等とチャット欄も非難の連続、高速スクロール状態。しかし当の配信者であるキッドは、怒りを抑えつつも視聴者にこう応えた。
「皆の怒りも重々承知してるぜ。俺だってチーター大嫌いだし。だからこそ皆に魅せてやりたいんだよ。
―――俺はあんな卑怯者になんか負けない。実力で証明してやる!」
その言葉に後からチャット欄も『おおおおおおおおお』の連続、そして例により高速スクロール。
キッドもこう豪語したならば、何としてでも有言実行し、勝利を掴み取りたい所。
80メートル以上チーターから離れているため、敵が全く気付いていないのを好機に、彼は自ら遠方からマグナム銃『ファイアバード』で狙い撃って先制する考えか。
キッドから見て北西付近、約30階層のビルを誇る空中都市のプラザホテルを背に、チーターは次の獲物を探しにホテルの広場へと向かう。キッドもそれに並行して忍んで移動する。
〘◇Now Lording◇〙
―――空中都市プラザホテル『ヘブンズ・ガーデン』。
戦場となった憩いの場には殺伐とした空気が流れる。不用心にホテル内に入ろうものなら、銃を構えて待ち伏せに射撃される物騒なサービス付き。
それほどまでに敵の数は数十名、残りの対戦相手の殆どがここに潜んでいる。
そこに憎きチーターが入り込んだ時、静寂を保っていたプラザホテルが一瞬にして地獄と化す。
ガガガガガガガガガガッッッ!!
プラザホテルの広場から響き渡るSMGの連射音が、悪魔の咆哮の如く標的のプレイヤー達を貪り喰らう。
まさしく『
「チーター撃破を期待してる皆、ちょっと待っててな。鳴くまで待とう
KIDはキルリーダーの称号をかなぐり捨てて、チーター討伐に全てを賭ける。
現在大乱闘中のホテル内は、一階と地下一階が利用できるA棟と、一階・最上階が使えるB棟とタワーホテルが2棟ある。
チーターが捕食しているホテルはA棟。ゲーム画面右上ではリアルタイムで攻撃またはノックダウンの情報がログ方式で掲示されている。
KIDのチャット内でも下から上へとスクロールされて更新されているが、マッチログではそれ以上に素早い更新掲示。つまりはチーターの討伐スピードが異常なまでに進行しているのだ。
A棟の外から待機しているキッドも、マグナムリボルバー以外のもう片方装備していた武器・スナイパーライフル『ロングシューター』の8倍スコープでA棟の激戦を観察していた。
「……なるほど、SMGの二丁持ちってか? 道理で早えーと思った!」
KIDは気配を消しつつチーターの撃破の様子を伺うに、二丁まで装備出来る武器を全てSMG『SS−1000』である事が判明。
更に彼の予想通り、チートプログラム『オートエイム』によって全弾命中の補正で敵を討っていた。
「あとは防御だな。そこまでズッこい事されたら救いようが無いが……?」
敵に気付かれないように、戦闘中のチーターの後頭部目掛けて『ロングシューター』で遠距離射撃をするキッド。
―――ダァンッッ、キィン!
その射撃は確かに、チーターの胸部にヒットした。だがその弾を受け流すかのように、硬い音を立ててダメージエフェクトも無く、無傷に終わった。
「野郎、ダメージも一切喰らわねぇのか!」
チーターに当たった相手へのダメージエフェクトが、フレンドリーファイア(同士討ち)防止の味方仕様に改造されていた。
これではゲームが終わるまでノーダメージで勝ちを取ることになってしまう。なんと卑怯な!
「語り部ちゃんの言う通り……あ、ヤバ」
この時、キッドの画面目線からは完全にチーターがキッドの奇襲に気付き、目を付けられた事の動揺が伺えた。
ガガガガガガガガガガッッ
「ひぇぇええええええ!!」
凄まじい連射にキッドは幾つか被弾し、ダメージを与えられるが、建物や階段の遮蔽部を利用して何とかノックダウンだけは防いだ。一瞬にして弾切れになるSMGのリロードが逃げるチャンスとなる。
「まだやられてたまっか! 一時撤退ーーー!!」
◇――――――――――――――――――――◇
・ノーマルスキル【スモークエスケープ】発動
◇――――――――――――――――――――◇
――――バンッ! ボシュゥゥゥゥゥゥ
これぞ本邦初公開、プレイヤーに与えられる戦闘補助能力の一つ『ノーマルスキル』。
最大三つまで登録出来、攻撃のみならず、回復や回避等の補助に起動効果として使うことが出来る。(使用後10〜30秒のクールダウンが必要)
キッドのノーマルスキルによる発煙砲で焚かれた煙幕で、チーターの視界を遮り、一目散にチーターから逃げた事により何とか巻いたようだ。
「ハァハァ……、まともに撃ってちゃヤラれるな。こうなりゃ最後の手段に賭けるか!」
KIDは被弾したダメージをハンドガン式のエネルギー注射器で腕に当てて治療する。何やら策があるようで、彼はB棟の最上階で待機するようだ。
〘◇Now Lording◇〙
『ヘブンズ・ガーデン』内での乱戦は、チーターの参戦により尽くプレイヤーを貪り喰らい、キルを我が物にしていった。
気付けば数分もしない間に残されたプレイヤーは、チーターとB棟最上階で待つキッドのみ。
チャット欄の観客も〘早くー〙やら〘撃ってしまえホトトギス〙やら打って、キッドとの一騎打ちを待つ。
――――シュルルルル……
「……来たな」
プラザホテルのエレベーター代わりに、一本の垂直ジップラインを蔦って登る音に察知したキッドは、片手にマグナム銃を構えてチーターとの対峙を待つ。
ジップラインを登り終えて、最上階にチーターが足を踏み入れた瞬間……!
ガガガガガガガガガガッッッ!!
突入の刹那に、飛び散るサブマシンガンの弾丸嵐! キッドはそれに緊急回避としてダイビングでオブジェの陰に隠れ、かすり傷程度のダメージで済む。
「落ちろおおおおおお!!」
〘殴ったw〙
〘いいぞ、もっとやれ〙
〘武器効かないからどのみち殴るしか出来ない〙
ジップライン付近のチーターを殴り飛ばすキッド。その際に下降へと突き落とされたチーターに対し、キッドは負傷したボディシールドをエネルギー補給電池で素早く充電させる。
「チーターを潰す方法として、先ずSMGを撃つ弾丸『ライトアモ』を減らす事から始める。そんで手持ちの弾が無くなった所で……反撃だ!」
幾らオートエイムの狡い技を持とうとも、弾が無ければ意味がない。キッドはSMG専用弾丸『ライトアモ』の消費に徹する。
もう一回、チーターがジップラインで登り上がっての、第2ラウンド!
「もう一丁……!」
ジップラインを登りきったチーターが姿を表し、最上階に足を踏み入れた瞬間にキッドが、渾身の右ストレートを撃とうとした瞬間!
――シュッ
(避け………ッ!?)
最上階入り口から反対側、ジップラインの昇降口の壁を蹴ってキッドの拳から遠ざかった所で、出口に足を踏み入れ、SMGを構え撃つ!!
「変な知恵付けてんな、畜生!!」
最上階の中部まで回り込んだチーターに、最早昇降口に叩き落とす手段は通用しない。
チーターはひたすらにSMGを打ち続け、それに対してキッドは造花の花壇やオブジェと、弾を弾く遮蔽物を有に使って、ライトアモを消費させていく。
「早く弾切れ起こせ……! SMG二丁持ちとはいえ、ライトアモをそんなに温存してる事もねぇだろ……!」
俊敏に弾をかわすキッドの警戒は未だ解かれない。ワンマガジン30発のSMG『SS-1000』の弾倉消費が5回に登り、その前の乱戦から然程弾丸を持ってないと見たキッドは、そろそろ反撃の時と見ていた。
ノイズでブレているが、チーターの仕留め損ねた焦燥から苦虫を噛み潰す表情が伺える。
「ゥガアアアアアア!!!」
チーターもいよいよ血迷ったか、反動に身を任せて頭ごなしにキッドを討とうとする。
だがそれも遮蔽物を盾に防ぎきった。常に冷静なプレイヤーはチーターの不正プログラムにも屈しない!
――カチッ、カチッ
「ッ!?」
二丁のSS−1000の弾切れを知らせる械音、そしてバックパック内のライトアモが切れた事による一驚とした表情が、戦いの結末を大きく変えた!!
「――――来たッッ!!」
〘耐えた!!〙
〘なんつー身のこなしやw〙
〘来るか、あの技が!〙
キッド最大の好機来たる! チーターのSMGリロードの時間も与える間もなく、先程まで片手で操っていたマグナム銃を今度は両手で構えて、スキルコマンドを放つ!
◇――――――――――――――――――――◇
・アルティマスキル【
◇――――――――――――――――――――◇
「総キル数、58人分のツケはコイツで払いな! ――――
ドォォォォオオオオオオオオッッッ!!!
過激な爆音はドラゴンの咆哮なのか、マグナム銃から発射されたと同時に噴出する
銃口の倍以上の炎の大きさ、更に心做しかその炎が火龍の形となりて、チーター目掛けて突撃する姿に我々を度肝を抜かれた。
「!!??」
そしてその威力も桁違い。ダメージ無効とはいえ、至近距離からの発射から凄まじい衝撃。
幾らチーターが完全防御してもその身ごと吹き飛ばす衝撃波。最上階の幅の広い窓を突き破って外へと叩き落とし、チーター不意の転落。
「……ァ、ガァァアア……!」
……だが、チーターはまだ生きている。数十メートルの高さでの転落はプログラム補正でも衝撃は半端ではなく、もんどり打って動けない。
一方キッドはジップライン経由で最上階から降り、ホテルの外で悶絶するチーターに近づく。
そして我々は、このキッドというアバターの姿を初めて確認した。
水色のジーパンに革色のホルスター、赤いジャケットを羽織ってのガンマンスタイルなのだが最大的な特徴は、サラマンダー刺繍の真っ赤なキャップ。
そのキャップの下に覗く端正な顔付きからは、チーターを蔑み怒りを込めた険しい表情が視える。そして奴にキッドは怒気を飛ばした。
「……どんな気持ちだお前。汚い欲に眩んで、不正で得た力は気持ち良いか? 人が弱く見えたか? テメー自身で強くなった気がしたか! あぁ!?」
キッドの怒りは次第に迫真迫るものとなり、終いにそれが最大級の感情の爆発を呼んだ。
「そんなに弱い奴を喰いたいなら撃てよ。
――――この俺を撃ってみろよおおおおおおおおお!!!!」
サラマンダーのキャップから光る威圧の眼光。バグによって存在意義も曖昧なったアバターすらもたじろぐ覇気に、足が竦んで動けない。後ろに寄っても足場が無いために袋小路状態。
だがそれでも撃破による高揚を抑えられないチーターが立ち上がり、キッドに殴りかかろうとした、その刹那!!
「おるあああああああああッッ!!!!!」
――――バシュッッ…………!!
すかさずKIDが繰り出したハイキックが、チーターの顎・顔面に強打!
〔『80256324』撃破!!〕
その反動で足場の無いデッドゾーンに足を踏み外したチーターは、そのまま急転直下で転落。そのまま強制リタイアとなった。
【A.I.M.Sカジュアル・チャンピオン KID】
壮大なエフェクトと共に、100人の中の頂点となったキッドはこのカジュアルマッチの勝者として称賛する。
◇――――――――――――――――――――◇
・A.I.M.Sチャンピオン達成!!
KID 経験値7,000獲得!
プレイヤーレベル29→30 レベルアップ!
◇――――――――――――――――――――◇
そしてログからも、キッドのキル数や活躍の度合いによって与えられた経験値でレベルアップも報告された。プレイヤーレベルの数値は、後の上級モードの出場条件にもなる。
〘SUGEEEEE!!〙
〘ないすー!!〙
〘GG!〙
〘ざまぁwww〙
これらのチャット欄が高速で流れる中、キッドもその対応と、無惨に破れたチーターに皮肉の意を込めて呟いた。
「…………
〘◇Now Lording◇〙
――――『A.I.M.S』の世界からログアウトし、舞台は現実の世界。
転送VRヘッドギア『GWギア』を頭部から取り外し、転送通信の速度を促進する筒の中から出てくる一人の男。
「……ふゅ! 生配信大成功、ってか?」
配信終了の疲労で一息入れながら、VRギアを頭から外した直後に、また頭にキャップを被る。ジーパンと赤いジャケットを着た短髪の青年こそキッドのアバターの張本人。
彼の名は、
A.I.M.Sを中心にゲームライブ配信に勤しむ、チャンネル登録数50万人の人気実況者である。
今回のカジュアルマッチによるライブ実況の視聴者数は2、3万人。これ程の人達が不条理なチーターの素性を刮目した訳だが、“キッド”こと暁斗はこの事も想定した上で配信をしたという。
「……プログラム史上、最も危険なチートと謳われている【プレデター】。まさかと思ったがA.I.M.Sで一番平和なカジュアルマッチにも出てくるとはなぁ……」
想定はしつつも、ゲームの環境を著しく崩壊させたチートプレイに暁斗の表情も険しくなる。
許すまじ不正行為の無法状態……に怒るというよりも、彼には別の理由で憤っていた。
「【プレデター】を使ったプレイヤーが敵を喰らうのは本人の意志じゃなくて、プログラムの意志。謂わば飢餓本能に駆られた野獣みたいに、我を忘れてひたすらに敵を撃ち殺す。
……でももっとヤバいのは、そのチートプログラムを使ったプレイヤーがどうなるか、だ」
…………それは一体?
「チートプログラムを使ったプレイヤーが破れたら、そのペナルティで命を奪い取るんだよ――――!」
【プレデター】。これを使った者は無差別にゲーム内に転送されたプレイヤーを喰らい、それでも破れた場合はその代償に、使用者の命を奪い取る。史上最強のチートプログラム。
そんな危険なものがMMOFPS『A.I.M.S』に出没している現状、一体誰がこの殺人プログラムを発信し、使う者の魂を奪い取ろうとするのか……?
暁斗は実況者の肩書を使って、そのチートプログラムを殲滅する使命に動いていた。
その配信・転送場所は――――――東京・秋葉原の真下。
ゲームに破れ、名誉も肩書も捨てられた者が追放される地【地底空間・アンダーグラウンド】が、“キッド”こと火野暁斗の城なのだから…………!!
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