【♯03】明日、幼馴染と一緒にランクマッチへ行ってきます。

 ――ゲームが世界を動かす近未来の時代において、完全な実力至上主義と化していた。


 ゲームの実力が正義という概念ならば、逆に敗者や弱者の行き着く所は何処になるのか。その答えがにあった。



 人々は、人の上に高層ビルやら屋敷を造る癖して、人の下にも人の住む場所を造ってしまった。

 ―――それが【地底空間・アンダーグラウンドエリア】である。


 地底空間は平たく言うと、ゲームでの大敗退或いは賭事によって自己破産し、財産も名誉も奪われた者達を対象に与えられた追放の地。


 “敗北者に、勝者と同じ地面に立つ資格無し”という念から、地下40メートル以深の大深度地下を起点に全国筒、地下7階までの深層を造るまでに至った。

 約50年間の歴史から追放された人々は総勢8000万人。人口の70%が地底に放り込まれた計算だ。



 太陽も拝めず、青い空も広がる地平線も見えない地底で自由を奪われた者の苦しみは数知れず。中には追放された恨みを魂に抱えて、復讐を企てる者も居る。

 時代に淘汰された者の行き着く空間・アンダーグラウンド。



 ……しかし、こんな絶望下にも挫けず、己の正義を貫き通して成り上がろうとする者も居た。

 それが前回、魅せプレイ配信でゲーム界を湧かせた人気ゲーム配信者・火野暁斗、通称『キッド』である。


「だいぶ視聴者も増えてきたな。チーターの存在も認識してきたみたいだし、収益も貰えて一石二鳥だな」


 キッドはゲーム実況動画やライブ配信で得た収益で、地底空間でもどうにか飯は食えている所。

 VRMMOの通信速度に長けた秋葉原の地底。そこに1LDK程の部屋を借りて超機能サーバーとパソコン、VRヘッドギアと配信用の道具を揃えて『A.I.M.S』の世界に飛び込むキッド。


 今は生配信も終えて、休憩がてらに手元のエネルギー補充用のゼリー飲料と、エナジードリンクを一気飲んで軽く食事を済ませる。


「……よし」


 今のキッドに休む暇はなし。動画編集途中のパソコン画面から離れて、ゲーミングチェアに座りながら彼はスマートフォンで誰かに連絡を取るようだ。


『―――――――もしもし?』


「おぅハリアーか? キッドだ。やっとプレイヤーレベルが30をいったぜ。そっちはどうだ?」


 その相手とは、キッドの幼馴染で親友の男。

 彼と同じく地底空間に追放されながらも、地底の風景を鮮やかに撮影するカメラマンとして収入を得ている風来坊。


 華奢な身体にニヒルな心、トレードマークは緑のマフラー。その名は風見鷹介かざみようすけ(25)、通称『ハリアー』。


「……あぁ、俺っちも調子は上々だな。すっげぇ澄み切った蒼の地底湖写真が撮れたぜ」


 と言いながら、キッドのスマホからはシャッター音の音がカシャリと聞こえていた。


『写真の事じゃねぇよ。A.I.M.S、ハリアーもレベル30超えたのか? でなきゃ二人で“ランクマッチ”行けねぇじゃねぇか』

「そんなん、もうとっくだ。お前さっきまで配信してたんだろうに。ランク行きたいのダダ漏れだぞ」


『あ、テメまた隠れて配信観てたなスケベ!』

「チーター蹴飛ばして撃破してんのお前くらいだ。今日は少し休め、明日俺っちも合流するから」

『へぃへぃ』


 通話越しのキッドから不貞腐れたような空返事が聞こえながらも、明日のランクマッチに備えて合流する約束を交わすハリアー。


 彼のスマホから着信を切り、懐の一眼レフカメラをケースにしまいながら、広大な地底湖を後にする。


「そろそろ本格的に動いてきたか。カジュアルマッチにも【プレデター】が出回って来たとは。……こんな時、アリスとツッチーが居たらどんだけ心強いか―――!」


 ハリアーの口から示唆する、もう二人の同胞の存在。

 その者らもキッドとハリアー同様に、地底空間に追放された幼馴染でありながらも、何らかの理由でもう5年以上再会出来ていない。



 ……だが、見えない運命の中で巡る因果は、思わぬ形でキッド達四人を繋ぎ合わせる事になる。

 キッドとハリアーの居る地底空間の、更に別の地底空間内に二つの反応あり!



 まず一つは、地底内の貸し部屋で黙々とパソコンで作業する、金髪の長い後ろ髪の女性の姿。


 何やら『A.I.M.S』の過去のランクマッチの観戦データを研究しているようで、ある一人のプレイヤーの行動とそれに影響された状況を確認した所、彼女は合点がいった様子だった。


「間違いないわ……! アイツが【プレデター】をばら撒いたプレイヤーね! 明日のランクマッチで絶対悪事を暴いてやる!!」


 彼女もまた、チートプログラム【プレデター】に深い因縁を持つプレイヤーであった。

 水色のワンピースが特徴の雑誌モデル活動中・水瀬みなせありさ(25)。通称『アリス』で、キッドとハリアーの幼馴染の一人だ!


 そしてもう一つは……?


「えーっとリアウィングがここで、後のジェットノズルが後方に三本付けなアカンから……」


 地底内のガレージの中でパソコン操作に勤しむコテコテの関西弁が目立つ大巨漢の男。

 坊主頭に土色のゴーグルで、A.I.M.Sのセッティングを行う彼は、土屋将司つちやまさし(25)。通称『ツッチー』で、彼もまた三人の幼馴染。


「あらァ〜あと一個パーツ足りひんやんか! ……しゃーないな、明日のランクマッチで資金稼いだろ!」



 ―――『キッド』『ハリアー』『アリス』『ツッチー』。彼らこそ、この物語の要であり地底空間屈指の最強チーム【エレメント◇トリガーズ】となる四人。



 明日のA.I.M.S・ランクマッチに、運命の銃爪が引かれる…………!!

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