第3話 参観日でも大好評で




 ――なに、これ?! (T_T)/~~~



 だって、オズオズひろげた画用紙にはトンデモナイものが描かれていたんだもの。

 花でも虫でも人でも街でもないけど、なんとなくそうも見える……そう、抽象画。


 なにがなんだか分からないけど、華やかな色彩センスが抜群なことだけはたしか。

 それは、あたしだけじゃない、クラス中のみんなの、率直な感想だったと思うよ。


 そしてね、黙って見守っていたケイコ先生が言ったひとことが決定的になったの。

「すばらしい作品に仕上がったね、鉄平くん! さすがだよ!」ヾ(@⌒ー⌒@)ノ


 でね、みんなはこのとき初めて知ったんだ、鉄平くんのパパがプロの画家だって。

 コンクールに参加しない理由もなんとなく(痛くもない腹をさぐられたくない)。



      🐙


 

 果たして、あたしの文に鉄平くんの絵を合わせると、ナイスマッチングになった。

 少しはなれた場所から見ると、学級新聞の、そこだけ光り輝いているみたい。✨


 翌々日の参観日では、おうちの方々にも大好評でね、うわさを聞いてほかのクラスの保護者さんや校長先生や教頭先生まで来られて、あたし、うれし恥ずかしだった。




      🎲🪄🧩🪅




 ――夏。


 水のぼうやにとって、1年中でいちばん楽しい季節がやって来ました。🌞🍃


 真っ赤なドレスのサルビアがルンバやサンバを踊り、一途なヒマワリは日がな1日太陽を慕い、朱のノウゼンカズラは情熱的な花びらを青空に向けて咲かせています。


 鎮守の森ではセミが鳴いて、渓流では魚がはね、小川には藻が生い茂っています。 

 湖はしずまりかえり、泉はこんこんと湧き、滝は、どどうっと流れおちています。


 水のぼうやは愉快でなりません。

 無我夢中で飛びまわっています。


 でも、うっかりすると、ギラギラの太陽に、あっという間にやかれてしまいます。

 水蒸気になって天にのぼった仲間を、水のぼうやは、たくさん知っているのです。


 いったん気化して空にのぼってしまうと、雨や雪になって、ふたたび地上に降りるまで、稲妻や雷といっしょに、しんぼう強く、順番を待っていなければなりません。


 さらに、太陽のほかにも、気をつけなければいけないことがいっぱいあるのです。

 なので、水のぼうやはいつも用心しながら、動物や植物とあそんでいるのでした。



      🐄



 ところが、あるとき、大変なことが起こりました。('_')

 木かげで休んでいて、うとうとしてしまったのでしょう。


 気づくと、水のぼうやは牛の飼い葉桶のなかにいました。

 生ぐさくて荒々しい牛の鼻息が、まぢかに迫っています。


 牛の口に飲みこまれないよう、水のぼうやは大急ぎで逃げ出そうとしました。

 けれど、もうちょっとというところで足がすべり、飼い葉桶にまっさかさま。



      👅



 おそるおそる目を開けてみますと、粘っこい、よだれだらけの大きな口が目の前に迫って来ていて、長くて真っ赤な舌が、ちろちろ、あやしげに動きまわっています。


 水のぼうやは、いまにも牧草といっしょに、牛の口にのみこまれてしまいそう。

 もう、だめというとき「ワン、ワン、ワン!」 黒い犬が駆けよって来ました。


 するどい牙をむいた犬は、ひっきりなしに吠え立てながら、牛を追い始めました。

 牛たちは不満げにブイブイ鼻を鳴らしながら、飼い葉桶からはなれて行きました。



      🐕    



 とそのとき、せっかく牛が去ってくれた桶のなかから、なにかが飛び立ちました。

 ポンポンにふくらんだおなかに、黄色と黒の横じまを這わせた、クマンバチです。


 大きなクマンバチは、広い牛舎のなかを上に下に斜めに横にめちゃめちゃに飛びまわってから、まぶしい光が射しこむ戸口へ向かってブブーンと飛び出て行きました。


「ああ、こわかった~。黒犬さん、ぼくを助けてくれてどうもありがとう!」

 牧草から顔を出した水のぼうやは、まだ吠えている犬にお礼を言いました。


 全身真っ黒なので、どこが目やら口やら鼻やら、ちっとも分からない犬でしたが、照れくさそうに上目づかいになった拍子に、ちらりと、きれいな白目が見えました。


 でも、黒犬は「べつに……」というように、素気なく顎をしゃくってみせただけ。

 ふんふんふんと地面をかぎまわると、すたすたと、どこかへ行ってしまいました。



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