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それからも真澄は、何度か潤と寝た。
一週間に一度か二度、夜中、浮舟花魁がいない時間を見計らい、潤を訪ねて行った。はじめのうちは二万円を払っていたが、請求される頻度は下がっていき、しまいにはただで抱き放題になった。その理由を、真澄は訊けなかった。
そんな関係が続いて三月ばかりたった頃、潤が真澄の長屋にやってきた。それははじめてのことだったので、真澄は戸を開けた格好のまましばらく固まってしまった。
そんな真澄を見て、潤は低く笑った。
「出て行くんだ、こっから。だから、ご挨拶に。」
ふざけたような台詞だった。ただの狂言みたいな言い回しだった。だから真澄はその言葉を笑い飛ばそうとして、それができない自分に気が付いてますます固まった。
潤は、ただ笑っていた。
その笑顔は直巳によく似ていた。ちょっとだけ眉を寄せるようにして、ふわりと口元だけで笑う。気だるげな目線はそのままに。
「……出て行くって、どこに?」
辛うじて真澄が問いかえすと、潤はどうでもよさそうに肩をすくめた。
「まだ決めてない。」
そして、間髪入れずに一言。
「一緒に来るか?」
その誘いは真澄を完全に戸惑わせた。なぜ誘われているのかが全く分からなかった。 金ずるにするなら女を連れて行った方がいいに決まっているし、金以外でこの男とつながった覚えはない。
「……なんで?」
問い返せば、潤は笑ったままの顔で一瞬強く目を閉じた。
「あんただけ、潤を抱いてくれたから。」
頭がぼやけた。これまで二万円を払って抱いてきたのは誰なのか分からなくなった。 師を抱いていたつもりはない、けれど、少なくとも、潤という名の男を抱いたこともないと思った。
「……抱いたこと、ないよ。」
素直にそう答えると、潤は虚をつかれたように目を瞬いた。そして、また笑った、今度の笑顔は、直巳の笑顔ではなかった。多分これが潤本人の笑顔なのだろうと思わせる、目元の翳りがない笑顔だった。
「そっか。」
そっか、そっか、と繰り返した潤は、じゃあ、とそれだけ言って帰って行った。
桜川から繋がるため池から、背中から包丁で刺された潤の亡骸が上がったのはその夜が明けてすぐだった。彼の右腕は、帯揚げでしっかりと浮舟花魁の左腕につながっており、花魁は簪で喉を突いて、やはり冷たい亡骸になっていたと言う。
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