第177話

「母さんと、梨美は知っていると思うけれど僕って一回、大けがを負って病院に入院したみたいなんだ」

「え?そうなの?」

「初めて知りました」

「そうね、蒼ちゃんはみんなに会う前にお部屋でいつの間にか倒れてて、病院に運ばれてね。…………実は、今、記憶喪失になっているの」


 母さんから事情を聴いたみんなは驚いた様な表情をする。


「元の蒼ちゃんはね…………他の男性と同じで女性の事をひどく毛嫌いしていた人だったの」

「そう…だったんですか」


 みんなが俯いて、今言われたことを飲み込もうとしてくれているけれど、僕が伝えたいのはそういう事じゃない。


「青様はもしかして、記憶が元の戻った時の心配をしているのですか?」


 母さんの言葉から推理して、エリーがそう聞いてくる。


「……違う。僕が言いたいことは……」


 一度大きく息を吸って吐いてからゆっくりと伝える。


「僕は記憶喪失っていうことに成っているけれど、本当は違うんだ」


 母さん、梨美、他の恋人たちは続きの言葉を黙って待ってくれている。


「この世界にいた祖師谷蒼君は……別の世界の祖師谷蒼である僕と入れ替わっているんだ」

「「「「「…………え?」」」」」」」


 僕の話をきいた恋人たちがあまりに荒唐無稽な話で口をポカンと開けている。


「そ、蒼ちゃん。一体どういうことなの?」

「えぇーっと、詳しく話すとね。僕はこの世界の人間じゃないって事」


 そう伝えるも、未だにみんなはポカンとしている。


「僕の元居た世界はね、男女比率が偏ってなくて、一対一の世界だったんだ。普通に男性がそこら辺を歩いている、そんな世界から来た」

「…………え、えぇーっと、つまるところ、どういう事なんですか?」


 あまりにもスケールの大きな話過ぎて恋人たちは困惑しているが、三十分かけてじっくり僕の事について話すと大まかなことは理解してくれた。


「つまり、今の蒼様は別の世界の蒼様で、この世界にいた蒼様は別の世界の蒼様になっているってことですか?」

「うん、そういう事。母さん、梨美。…………今まで黙っていて本当にごめん」


 僕は立ち上がって母さんと梨美に頭を下げる。


 すると、梨美と母さんは僕の前に来た。何か罵声を浴びせられるのかと思ったけれど、そっと抱きしめられた。


「蒼ちゃんはそれで、ずっと悩んでいたんだね。大丈夫だよ。私は蒼ちゃんが蒼ちゃんでいてくれればそれでいいの。確かに、元の蒼ちゃんはいないかもしれないけれど、あっちの世界で元気にしているんでしょう?それなら、何も文句はないわ。それに私は今の蒼ちゃんも大好きだから」

「そうだよ、お兄ちゃん。元のお兄ちゃんもそっちの世界で元気にしているんだから、こっちの世界に来たお兄ちゃんも幸せにならなきゃ」

「う、うん」


 二人の温かい言葉に思わず涙が出そうになる。


 三人で抱きしめ合っているところを他の恋人たちに温かく見守られながら、僕はやっと秘密をすべて明かすことが出来た。





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