第176話

場は緊張が支配していた。


 蒼と恋人たちがアリシア邸で向かい合うようにして座っている。恋人たちは青ざめた顔をしていて、蒼もまた、緊張しているため恋人たちの様子には気づけていない。


「きょ、今日は集まってくれてありがとね」

「も、勿論です。蒼様が呼んでくださったのですから、恋人としても女としても行かないと失礼です」

「そ、そうなんだ」

「は、はい」


 そこでまた会話が途切れる。


 先ほどからぎこちない会話が為されている。いつものようなまるで家族のようなアットホームな雰囲気ではない。


「あ、あの………さ」

「「「は、はい」」」


 恋人たちは、もしかしたら自分たちが捨てられるのではと気が気ではなく返事もままならない程であり、蒼も蒼で自分の伝えなければならないこと、そして恋人たちが自分に何か大きな不満を持っているのではないかと探るように蒼は切り出した。


「何か僕に不満とかある?」

「「「「「……………え?」」」」」


 女性人たちからポカンとした声が漏れ出る。


 自分たちはもしかして振られてしまうのかもしれない。蒼は最近テレビ進出もしたので、自分よりも美しい人たちと交流したことによって飽きたのかもしれない。


 そんな覚悟で話された第一声がそれだっただから、困惑の声が漏れてしまった。


「さ、最近、みんな僕の事遠ざけようとしているように見えるというか。……もしかして僕何かしちゃったのかなって。自分では要望に応えていたつもりだけれど、もしかしたら不満を由利たちに貯めさせちゃってたのかもってそう思ってて」

蒼が不安げな顔でそう言うと、ポカンとしていた顔を戻してエリーは真剣な眼つきでこう質問をした。


「蒼様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

「う、うん。勿論いいけれど」

「蒼様は私達の事を嫌ってはいないのですか?嫌うまではいかなくとも飽きた、面倒くさくなったと思ってはいないのでしょうか?」


 真剣な表情をしたエリーから放たれた言葉によって今度は蒼がポカンとした表情をしてしまう。


「………え?僕がアリシア、エリー、みんなに飽きる?嫌う?そんなわけないじゃん。むしろ最近、甘えて来たり抱き着いてこなくなったり、き、キスしてくれなくなって……少し寂しいなって思っていたくらいなんだ」

「お、お兄ちゃん!!」

「蒼ちゃん!!」

「おわっ!?」


 恋人たちが蒼の返答を聞いて堪えきれなくなったのか精一杯抱きしめてくるのでそれを受け止め切る。


「ど、どうしたのみんな」

「だ、だってぇ。私、お兄ちゃんに嫌われたくなくてぇ」

「僕が梨美の事嫌う訳ないじゃん。どんなことがあっても梨美の事は大好きだから」

「私もすきぃ!!」

「そ、蒼ちゃん、私も、私も寂しかったんだから」

「蒼様、私も物凄く寂しかったです。お詫びに後で濃厚なキス、しましょうね?呼吸も出来ないくらいしますから」

「蒼様、もぅ、もう!!」


 恋人たちの思い思いの言葉を受け止め切るのに、三十分ほどの時間がかかりやっと落ち着いて話せるまでになったため、蒼は疑問に思ったことを口に出す。


「みんなは、どうして僕が嫌ってるとか飽きたって勘違いしちゃったの?」

「それは、蒼様が最近ずっと何かを悩んでいるからです」


「あー………」


 最近の自分の悩みと聞かれて、答えるのならばあの事しかないのですぐに思いついた。


 これ程恋人を不安にさせてしまったんだ。恋人たちも気になるだろうし、何よりもう不安にさせたくはない。


 蒼は腹を括り、自分の事について話し始めることにした。

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