第173話
「ずるいよぉ、お母さんだけお兄ちゃんの手料理食べれるなんて」
「ごめんて」
「むぅ、私もお兄ちゃんの手料理、久しぶりに食べたかったのに!!」
母さんに手料理を振舞ったことが、学校から帰ってきた梨美にバレてしまいお怒りのようだ。
そう言えば、この世界に転生して間もないころに二人に炒飯を振舞ったっけ。二人とも、美味しそうに食べてくれたよなぁ。
「私は、蒼様の手料理を食べたことが一度もありませんね」
「あ、私もそうかも」
白金さん、そして梨美と一緒に来ていた風花ちゃんにもそう言われてしまう。
「じゃあ、今度、みんなを集めて僕の手料理を振舞うことにしようか」
「やったー。お兄ちゃん、絶対だからね」
「一週間することにしましょう」
「楽しみすぎて眠れないよぉ」
「体が拒否反応起こしちゃうから一週間も断食はしないでね」
「蒼様が作ってくれるご飯に対して拒否反応など起こしません!!」
気持ちの問題じゃないと思うんだけれど。まぁ、注意はしたからきっと一週間も断食することはないだろうとそう思うことにした。
夕食を終え、風花ちゃんは家へと帰りお風呂に入り歯を磨いてから自室に戻りエゴサーチをしているところに梨美がやってきた。
「お兄ちゃん、髪乾かしてー」
「いいよ、ベッド座って」
「うん。お兄ちゃん、本当に優しくて大好き」
「僕も梨美の事が大好きだよ」
「え、えへへ、えへへへへ」
思いを伝えると、頬をダラしなく緩ませて幸せそうな顔をする。
ドライヤーで優しく乾かす。梨美の髪って物凄く綺麗だよな。他の恋人たちもそうだけれど、いつもドライヤーをしているから余計にそう思うのかもしれない。
「私さ、お兄ちゃんがお兄ちゃんで良かったなってそう思う」
「ん?急にどうしたの?」
「んー、なんか幸せすぎて口から言葉が勝手に出ちゃった、のかな」
「僕も梨美が梨美で良かったなってそう思う」
「えへへ、ありがと。でもね、私、少し怖いこともあるんだ」
「怖い事?」
何だろう?
「今のお兄ちゃんが、スッと消えて元のお兄ちゃんが冷たかった頃に戻っちゃうんじゃないかって」
「あー…」
「あ、あの頃の冷たかったお兄ちゃんが嫌いだったわけじゃないの。いまのお兄ちゃんの方がずっと好きで夢みたいなことが現実に起こってそれが無くなるのが怖いって言うだけ。それに私はお兄ちゃんがいるって言うだけで幸せ者だから」
僕は転生してきてから記憶を失っているということに成っている。
今まで、梨美を含め僕が女神さまの交渉に乗ってこの世界に転生してきた事は伝えていないから不安に思うのも仕方ないと思うし、僕もほんの少しだけこの現実が実は夢なんじゃないかって思う時もある。
これは、恋人たちの不安を取り除くべきなので言わないといけないんだろうけれど……少しだけ怖い。
もしかしたら、恋人たちがその事実を知って受け入れられない……なんて言われた日には立ち直れないかもしれない。
けれど、言わなきゃいけないよな
彼女達は僕に包み隠さず何でも伝えてくれる。ならば、僕も秘密を打ち明けるべきだろう。
いつかは結婚をしようと思っているから。
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