第169話

「みんな、始まるよー、座って、座って……ってシュガーちゃんはまた蒼君のお膝座っている。ずるい、私もせめて隣に座りたい―!!」

「由利、残念。早い者勝ち」

「すみません、由利先輩。私がもう一方の方も貰いますね」

「愛梨ぃ、風花ちゃん、ずるいよぉ」


 さて、またも番宣の時と同じように僕の家に集まって今度はドラマを見る。


 恋人たちはせっかくの僕の晴れ姿をみんなで一緒に見たいらしい。


 僕としては少し恥ずかしいから遠慮したいけれど、僕がいなきゃ意味が無いと言われてしまったため、みんなとソファに並んで新しく買ったかなり大きいテレビを見る。


「お母さん、ちゃんと録画したよね?」

「何回も確認したし、そのために新しく機械も新調したから大丈夫よ」

「でも、心配なんだもん」


 テレビを新しくしたのは、ここにみんなが集まることが多くなったということもあるけれど、僕がドラマに出るということが一番の要因らしい。


 本当に、僕の恋人たちは僕の事となるとお金を出すのをまったくと言っていい程渋ることはしない。


 嬉しいことだけれど、もっと自分の事とか他の事とかに浸かってくれていいんだけれどなぁ……って言ったらきっと、僕以外にお金を使う道が無いとか言いそうだからいうのは辞めておこう。


「私も何回でも見れるように、家でも録画したけれど今更に何て不安になってきました」

「エリー、私達もちゃんと録画したわよね?」

「はい、抜かりはありません。私のダーリンの晴れ姿ですから。しっかりと永久保存するのが妻の役目ですので」


 うわぁ…きっとエリーの事だから最新の機材とか取り揃えてどんなことが起きても録画ができるようになってるんだろうなぁ。


「あ、始まった。みんな静かに」

 先ほどまで喋っていたみんなが一斉に口を噤み、食い入るようにしてドラマを見始める。


 確かに自分で出てみても面白いドラマだから見てもらいたいけれど、そんな目を見開いて見るものでもないような……


 最初は、主人公役である伊緒さんの日々忙しくするところから始まる。


 仕事でミスしたところを怒られたり、遅くまで仕事をしなければいけないこんな人生……そう思っていたそんなある日。


 ふと童心に帰って、公園に行くとボロボロな状態で蹲っている僕を見つける。


『君、大丈夫?』

「……」

『君、名前はなんていうのかな?』

『……さとる』

『……こんな所に男性がいたら襲われちゃうよ?早く家に帰らないと』

『……』


 今見ると、自分の演技が拙くて恥ずかしい。世の中に絶望した感じをもっと今なら表現できるのに。

 

 恥ずかしがりつつ、恐る恐るみんなの反応を見ると、泣きそうな顔になってドラマに見入っていった。


 その後も話は続き、さとると呼ばれる少年と主人公が最終的に一緒に住むことに成るのが、一話である。


「うっぅぅ。さとるくん、可愛そう。本当に、こんなになるまでしたクソ親が許せない」

「もう、あいつ殺そう。イライラしてきた」

「さとるくん….私が絶対に幸せにして見せるから」


 各々、ドラマに感情移入しすぎたみたいで泣いていたり、さとるに性的虐待をしていた親に怒りが湧いて不味い方向に思考が寄ってしまったりしている。



「それで、どうだった?面白かったかな?」

「はい、それはもう来週も絶対に見逃すことはないと思います。さとる君が可愛すぎますね」

「さとるくん可愛いすぎる」


 みんながドラマに対して喜んでくれるのはありがたい事なんだけれど、演じているさとるのことを褒めたり、可愛いとか格好いいとか言っていて、少しだけなんか靄っとした感じがする。

 

 少しむすっとした顔をしていると、母さんが僕の方を見て心配げな顔をする。


「蒼ちゃん、どうしたの?」

「えぇーっと」

「蒼ちゃんがなんか、微妙な顔をしてたから。気のせいならいいんだけれど」


 さすがは母さんだ。僕の変化にすぐに気づいてくれた。


「こういうのはあんまり良くないって思うけれど…みんなが、さとるのこと可愛いとか格好いいとか言ってるの見てるとなんか複雑な気持ちで。さとるは確かに演じているし、僕だけれど、僕じゃないっていうか…だから、あんまりその……」


 と言い切る前に梨美が僕の口を奪い、舌が侵入してくる。


 他の人もまた僕にぴったりとくっついてきて、ぎゅうぎゅうになる。


「お兄ちゃん、可愛い。嫉妬、しちゃったんだ?」

「う、うん」

「蒼様、物凄く可愛いです。蒼様が私達の事を思って嫉妬してくださる日が来るなんて。私達は、蒼様以外の男をゴミだと思っていますから、蒼様が嫉妬する日は永遠にないと思っていましたが……なるほど、確かに蒼様が、蒼様に演じている役に嫉妬するなんて考えも付きませんでした。蒼様、大変可愛らしいです。あぁ、本当に貴方と結婚が出来る私は世界一の幸せ者です」


 その後、みんなに赤子のようにあやされ可愛いとか格好いいとか言われ慣れているはずの僕が恥ずかしがってしまうほど、褒められ続けた。


 ちなむと、ドラマはものすごい反響を呼んで過去一の視聴率であり、tritterのトレンドも総なめしていた。

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