第165話

「蒼様、はい、あーん」

「あ、あーん」

「美味しいでしょうか?」

「うん、美味しいけれどいい加減僕にも一人でたべさせてもらえる権利を貰えると嬉しいんだけれど」

「それは駄目です。蒼様は目を離すとすぐに頑張ろうとしてしまおうとするのでその根性を直そうと思いまして」


 別に頑張ることは悪いことじゃないし、良いことだと思うんだけれど僕が倒れてからの白金さんの過保護っぷりが凄まじい。


「蒼様、私からもどうぞ。はい、あーん」

「う、うん。あーん。……美味しいよ、ありがとう」

「いえ、妻として当然の事ですので」

「まだ、結婚してないからね?いずれはしたいって思ってるけれど」

「うふふ、はい、もう一口。あーん、です」

「あーん」


 白金さんとはね別に僕のお世話をしているのはエリ―だ。


 アリシアの侍女のエリ―だけれど、僕と付き合ってからはアリシアだけでなく僕のお世話も本格的にし始めた。


 アリシアのお世話はいいのかと聞いたところ、エリーとは別の人がもう一人アリシアについているようだ。


 アリシアの気遣いと僕がまた過労で倒れてしまわないために、エリーを監視という形でつけているみたいだ。


 もうしばらくはそんな無茶はしないんだけれどなぁ……と言ったけれど、聞き入れてもらえなかった。


 恋人たちからの愛という名の過保護に苦笑しつつ、次々と口へと運ばれてくる料理を雛のように食べる。


 この料理を口に運ぶことだって、まだスプーンとか箸で口へと運んでくれるからまだいい。


 この前エリーに


「咀嚼するのも禁止にして、私が咀嚼したものを口移しで運べばより蒼様の負担を減らせるのでは?私、天才ですか?え、えへへ、蒼様と……」


 と、とんでもない事を言われてストップさせるのに必死になったものだ。


 ちなむと、祖師谷様呼びから蒼様呼びになったのは付き合ってからすぐの事だった。


 エリ―だけでなく、例えばシュガーちゃんは青から蒼になったし、アリシアも祖師谷様から蒼様になったし、莉々さんと風花ちゃん柚乃ちゃんからは青様から蒼さん、未恋先生からは蒼君と呼ばれるようになった。


 変わらなかったのは、梨美と母さん、それと白金だけだ。


 梨美に、蒼って呼んでも良いんだよって言ってみると……


「確かに、それも良いなって思うけれど私はお兄ちゃんの妹であることにも誇りを持っているので、これから先もずっとお兄ちゃん呼びだと思う」


 と言われ、白金さん蒼様から蒼って呼び捨てにしてくれてもいいよと言ってみると


「私は蒼様のその……恋人であるのと同時に、護衛であることにも誇りを持っているのでこのままで『蒼様』とよばせてください」


 と言われたのでそこは変わらなかった。


 母さんからは、関係が変わっても蒼ちゃんは蒼ちゃんだからっていう理由でそのままみたいだ。


 それぞれ、いろんな考えがあるんだなって思うのと同時に、僕の名前を呼ぶ事一つとってもそんなにも考えてくれているんだなって思って嬉しくなる。



 そんなこんなで毎日楽しく過ごしている今日この頃である。

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