第152話

『貧しい木こりの女が、大きな森の近くに小屋を持って二人の子供と暮らしていました。二人の子供のうち、男の子がヘンゼル、女の子がグレーテルと言いました。しがなく暮らして、ろくろく歯に当たる食べ物をこれまで食べずに暮らしてたのですが.................」


 文化祭当日、遂に僕たちの出番である劇が始まった。


 舞台から見える観客の数は相当なもので、体育館に入りきれないほどの人が押し寄せていた。


 最前列には、梨美、風花ちゃん、そして僕が学園祭に招待したシュガーちゃんと莉々さん、柚乃ちゃん、未恋先生と言った僕と仲が良い人たちが嬉々とした目で僕の演技を見ていた。


 序盤、母役のエリーが一人で貧しさを嘆いて、グレーテルを森へと置いてくる案を思いついてそれをグレーテルが知るという場面でやっと僕たちは喋り始めることが出来る。


「あたし、すてられてしまうんだわ。今夜きりで、家なしっ子になってしまうんだわ」

「グレーテル、泣かなくてもいいよ。ぼくがついているからね。グレーテルが捨てられるのなら僕も一緒に行くよ」


 僕がそう言うと、グレーテル役のアリシアが不安そうな顏を止めて安心した顔を見せる。


 劇を見ている人も感情移入をしてくれているのか、僕たちの演技を見て一喜一憂してくれているみたいだ。

 

 順調に劇が進み、ヘンゼル、グレーテル共に森へと捨てられて彷徨い続けているとお菓子の家を見つける。


 中には魔女がいて、ヘンゼルとグレーテルに対して優しく接してくれた。


 ヘンゼルの事は人形として可愛く接して食べようとはしないが、グレーテルの事はブクブクと太らせていい感じになったら食べるみたいだ。


 そして、いざ魔女がグレーテルを食べようとしたところでヘンゼルがやってきて魔女をやっつけて魔女の家にあった財宝を家に持って帰ってお母さんと三人仲良く幸せに暮らした。


 精一杯やり切って、下げた頭を上げると舞台から見える観客の人からは盛大な拍手と「祖師谷君格好いい!!」とか色々賛辞を貰えた。


 劇の撤収作業を終えた後......


「祖師谷様、ものすごく良かったです。ヘンゼルの役をやらせていただけて本当に幸運でした」

「僕もアリシアがグレーテル役で良かったなって思う。凄く上手だったよ」

「ふふっ、ありがとうございます」

「おにーちゃーん、すっごく良かったよー!!」


 劇が終わってすぐにここへと来たのか勢いのまま僕に抱き着いてくる梨美。

 

 それに続いてシュガーちゃん、莉々さんも僕に抱き着いてくるが、風花ちゃんはまだ恥ずかしいのか躊躇って結局抱き着いてくることは無かった。


 後ろから柚乃ちゃんと未恋先生も来て僕の身近な人が全員集合している。


 そうだ、いい機会だしあの重要な件について今ここで言っておこうかな。全員が集まれる機会なんて早々ないし、言うならこの機会しかないと思う。


「あのさ、みんな」


 重要な件とは僕がライブが終わった後にみんなへ告白をするというものだ。


「僕が、夏にライブやるのは知っているかな?というか、みんなには関係者席に招待するからチケット取らなくていいからね?」

「それは、本当ですか!?ありがとうございます」

「ものすごい倍率だから落ちそうで不安だったから本当にありがたい」


 そう言えば、みんなを招待することを言うの忘れていた。


「大事な話って、チケットをくれるって言うことですか?」

「いや、それもそうだけれど。ライブが終わった後、みんなに伝えたいことがあるから残っていてくれると助かるんだ」

「.................伝えたいことって」

「まさか...............」

「も、もしかして...............」

「それは、まだ言えないけれど。絶対に悲しませるようなことじゃないから」


 みんな、大体予想できたのか頬を真っ赤に染めたり、放心したり、涙を目にためている。


 梨美なんて嬉しすぎるのか、首に腕を回してつま先立ちをしながら首元をちゅうちゅうと後をつけるように一心不乱に自分のものだと主張するように吸っている。


「だから、ライブに来てくれると嬉しい」

「ぜ、絶対に行きます」

「死んでも行くから」

「車に轢かれても体を引きずりながらでも行ってみせる」

「いや、そうなったら流石に救急車呼ぼうね」

 

 劇も大成功したし、きっとライブも成功させて見せる。


 そして、絶対に告白して見せる。





 






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