第139話

 未だに炎上の件(僕が炎上しているわけではない)が収まってはいない今日この頃。


「私の事、美優みゆって呼んでくれるととっても嬉しいな」

「うん。分かったよ美優ちゃん」

「呼び捨てで、美優って呼んでくれても全然いいんだけれどなぁー」

「じゃあ、美優で」


 今日は、前にオファーが来ていたドラマの初回撮影日だった。


 ドラマの関係者の人に挨拶を済ませて暇なところに、ニコニコとほほ笑みながら接してくれているのは、このドラマの主人公の妹役の木下美優という可愛い少女だ。

 彼女は今、子役としてかなり活躍しているみたいでドラマで引っ張りだこみたいで今回のドラマにも抜擢されたみたいだ。


「美優、青さんに馴れ馴れしすぎ。初対面でしょう?」

「違うもん。私、いつも青お兄ちゃんのこと画面で見てたから知り合いだもん」

「実際には会っていないでしょうが。ごめんなさい、このバカ子役が」

「誰が馬鹿ですか!!」


 美優と話していると、そこに現れたのは今回のドラマの主人公役を務める杉宮伊緒すぎみやいおさんだった。

 彼女も同じく今、活躍している女優でかなり若いけれど実力は凄くて美優ちゃん同様に引っ張りだこみたいだ。


「二人のような、有名な芸能人の方と一緒に演技ができるなんて凄く嬉しいです。拙い演技かも知れませんけれど精一杯頑張ります」


 僕がそう言うと、二人ともじぃっと僕を見てから手を取り......


「大丈夫だよ、私が精一杯教えるから。一緒にドラマを成功させようね、青お兄ちゃん!!」

「何どさくさに紛れて手を握っているのよ。ずるいわ、私も握りたい。それにしてもやっぱり青様は青様なのね。配信上でだけあんなに優しい風に振舞っているわけじゃなかったのね。まぁ、分かってはいたけれど」


 二人に手をにぎにぎとされたり、どさくさに紛れてハグをされる。


「ずるいわ、美優だけ。私もハグしてもいいかな?」

「ダメです!!青お兄ちゃんにハグしていいのは私だけなんですー」

「そんなことないよね?青さん」

「うん、伊緒さんがいいのなら僕は構わないですけれど」

「むぅ、青お兄ちゃん」


 美優が抗議するように、頬を膨らませる。


 ドラマの撮影と聞いて少し緊張していたけれど、美優と伊緒さんのおかげでだいぶ緊張がほぐれてきた。


「青さんと伊緒さんはそろそろ出番になるので準備をお願いしまーす」

「もう少し、ハグしていたかったけれど時間のようね。あぁ、まだ青さんのぬくもりを感じていたい。あの少し硬い胸板に顔をすりすりしたい......」

「あとでしてあげますから、行きますよ、伊緒さん」

「え、ほんと!?よし、元気出てきた。青さんに沢山格好いい所見せるから」

「じゃあ、美優。行ってくるね」


 美優に別れを告げて伊緒さんとともに撮影場所へと向かう。


 僕の最初の演技は、ボロボロの状態で公園の隅で蹲っているという演技だ。そこで主人公である伊緒さんに拾われるというところから物語が始まっていく。


「青さん、緊張せずに伸び伸びとやろうね。青さんは演技したことないし失敗しちゃっても全然大丈夫だから。演技を楽しもうね」

「分かりました」


 伊緒さんが僕の緊張をほぐす様にそんなことを言ってくれる。


 流石、演技の先輩って感じだ。


 ドラマのキャストさんや、関係者様たちに迷惑が掛からなないように精一杯しなきゃ。


 頑張るぞー。


 

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