第132話

「おはようございます、祖師谷様」

「お、おはようエリー。早いね」

「はい。主人の健康管理もメイドの務めですので」


 アリシアのホワイトデーのお返しが済んで、次はエリーの番だ。


 エリーはアリシアとは逆で、僕のメイドさんになりたいということだったので今日一日そういうこととなってはいたけれど、朝の時間から始まりだったとは知らなかった。


「では、失礼しますね」

「ちょ、エリー!?」

「何でしょうか?」

「どうしておもむろに僕のズボンを下ろそうとするのかな?」

「男性というものは朝勃ちというものをするそうなので、それを祖師谷様の専属メイドである私が納めようと思いまして」


 と淫靡な雰囲気を漂わせてそんなことを言う。


 少しだけ流されてもいいかなと考えたけれど、これを許してしまえば後々よくないし由利たちに失礼かなとも思って止める。


「そういうのは、正式に付き合ってから」

「………分かりました。でも、お付き合いを正式にし始めた後ならこういうことをしても良いということでよろしいですか?」

「うっ........まぁ、うん。僕だってこんなに綺麗な子が朝からこういうことをしてくれて嬉しくないわけがないから」

「………やはり、襲ってもよろしいでしょうか?そんなことを言われてしまえば流石の私も抑えきれそうにないのですが」


 その後は何とかエリーを抑えて、着替えを始めようとするがドアを少しだけ開けてカメラでそっと撮ろうとしていたのでおでこにデコピンをして制裁した。


 リビングへと行くと、すでに朝ご飯は準備されていてどうやらエリーが作ってくれたみたいだ。


「エリーはやっぱり料理が上手だね」

「ありがとうございます。梨美さんの分とお義母様の分、白金さんのも用意してありますのでどうぞ」

「........エリーさんに料理で勝てる気がしない。まぁでも私は違う分野でお兄ちゃんを落とすから問題ないもん」


 エリーが作ってくれた料理を食べ始めようとしたところでエリーからお箸を奪われてしまう。


 彼女はそのまま鮭の切り身を箸で上手に切り分けて、僕の口へと持ってくる。


「あの、エリー?」

「何でしょうか?」

「自分で食べたいんだけれど?」

「ダメです。今日は祖師谷様の専属メイドですから身の回りのことはすべて私にお任せください」

「わ、分かった」


 エリーのためのホワイトデーのお返しだし、エリーだって好意でしてくれているんだから断るわけにもいかず、エリーが口まで運んできてくれるものをもぐもぐと咀嚼する。


 梨美と白金さんがジィっと嫉妬のような目を向けていたが、ホワイトデーのお返しということを理解しているので何も言ってこない。

 

 エリーに食べさせてもらいながらのご飯は終わり、いったん部屋へと戻る。


 今日は生ライブに向けたダンス練習があるため、スタジオに行かなければならないので準備をしなくちゃいけない。


 そう思っていたら、いつの間にかエリーが色々準備しておいてくれた。


 どうやら白金さんに今日の予定とかをあらかじめ聞いておいて何が必要なのかをあらかじめ準備してくれたみたいだ。


 それからもエリーが僕の身の回りのすべてのことをしてくれた。


 例えば、車に乗り降りするときの開け閉めだったり、エレベーターに乗った時のボタン操作、ペットボトルの開け閉めまですべてのことを先回りされてやられていたので身の回りのことで気にすることは何もなかった。


 エリーは主人をダメにしてしまう系のメイドさんだなと思った。


 だって、こんなに可愛い子がすべてお世話してくれるんだからエリーにすべてを委ねたくなってくるもん。


 そんなこんなで一日が過ぎそうになっていた。


 あと少しでエリーとの契約が終わってしまう。


「エリー、今日はありがとね。すっごく助かった」

「いえ、祖師谷様に仕えるのならばこのくらいは当然です。というか祖師谷様に仕えられるのであれば逆にお金を払いたい人は多くいそうですけれどね」

「将来は、エリーと結婚したらこうなるのかぁ」

「ふふっ、これだけではなくて下の御世話も毎日欠かさずしますからお忘れなきよう」

「た、楽しみにしてるね」

「はい、お任せください」


 将来、自分がエリーにダメ人間にされていないか心配しながらも楽しくなるだろうなとも思った一日だった。

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