第131話

「おはようございます、アリシア様」

「おはよう、そ、蒼」


 アリシアが不慣れそうに僕の名前を呼び捨てにしてそう言う。


 今がどんな状況かと言われると、アリシアが僕からのホワイトデーのお返しで貰った僕に何でも言うことを一回聞いてもらえる券を使ってアリシアの執事に一日なる事となった。


 予定時刻は五時まで。


 それまではアリシアの執事でいる。


 と言っても僕は執事になったことも無いので、お飾りの執事だけれど。


「今日は予定がないフリーな日のため、いかがしましょうか?」

「え、えぇーっとそうね。蒼は私と一緒に居てくれるだけで結構よ。あ、でもその前に私のその.......着替えを手伝ってませんか?」

「りょ、了解しました」


 アリシアがそんな大胆なことを言ってきたので少し驚いてしまったが、今の僕は執事なのでアリシアのお世話をすることが一番大事だ。


 アリシアの私服は僕たちが考えている貴族の私服なんてものではなく一般の人でも来ているような物を着る。


 そもそも今のような時代に昔のようなドレスみたいなものを日常的に来ている人なんて相違ないからね。


 まぁでも、アリシアの私服はかなりの高級なものだろうし素材もそれ相応のものだから一般の服と言ってもそうではないんだけれど。

 

 梨美のお着換えを度々手伝うことがあったためか、アリシアのお着換えも難なくこなすことが出来た。


 下着とかもろに見えてかなり興奮したけれど、そこはグッと堪えることにした。

 

 アリシアは僕が興奮していることが分かったのかものすごく嬉しそうにして「主人の下着姿で興奮してくれたんですね。悪い執事です」と意地悪い笑みを浮かべてそんなことを言った。


 いつもは僕が意地悪をする側だったので少し新鮮な気持ちで弄られる側もいいかも何て思ったりもして。


 それから、朝食を食べることになった。


 執事である僕が、主人であるアリシアと同じ席で食事をするのはどうかと思ったけれどアリシアが構わないと言っているしアリシアの本当のメイドであるエリ―が同じ席に着いているのでまぁいいかと思い、食べ始める。 


 専属の料理人がいるのかとても美味しい高級料理店のような朝食で、一般人の僕からするとものすごい豪華な朝食だった。


 マナーとか気を付けたほうがよいかとも思ったけれどアリシアが気にしなくても良いと言ったので気にせず食べることにした。


 朝食を食べ終わった後は、ゆったりとアリシアとともにゆったりとした時間を過ごす。


 本当は家のお仕事をしなければいけないんだろうけれど、それはエリ―とか他のメイドさんの仕事で僕のお仕事はアリシアとともにいることみたいだから、アリシアの隣で待機することにしている。


「蒼、いつもあなたって暇な時間は何をしているの?」

「暇な時間はそうですね.......梨美と一緒にゲームをしたりしています」

「一緒にゲーム.......とても楽しそうそうですね。一緒にしましょう!!」


 所々僕に敬語が出ていて、やはりため口は未だに成れないみたいだ。


 アリシアはすぐにゲームができる準備をして、僕が配信でしていた大戦闘をする。


 流石にお嬢様であるアリシアにはゲームで負けることは無いだろうと思っていると、普通に負かされてしまう。


「私、蒼の配信をみてこのゲームを練習していました。いつかする日が来るだろうと思って練習した甲斐がありました」

「.......もう一回お願いします、アリシア様」


 その後、何度か勝負を挑んだけれどことごとく惨敗して心が少し抉られた。


「いつか、絶対に勝って見せますからね」

「.......あぁ、何でしょう?配信でも見ていましたけれど、いつもはどちらかと言えばドギマギさせられているのに蒼を悔しがらせているこの感覚.....癖になりそうです」


 ゲームをし終わり、昼食を食べ、その後はティータイムとなってゆっくりしつつ、アリシアと他愛もない話をしているとそろそろ終わりの時間になってきた。


「あと少しでこの関係が終わってしまうと悲しい気持ちになりますけれど、いつもの関係の方がやはり私的にはしっくりくるので一日限定の方が良かったと思いますね。貴重な経験でしたし、蒼が私の執事になってくれてとてもドキドキしましたし、最高でした」

「僕も誰かの執事になったのは初めてでしたけれど、アリシア様の執事になることが出来て楽しかったです」


 そして、丁度五時になったところでいつもの呼び方へと戻す。


「祖師谷様、今日はとっても楽しかったです」

「僕も楽しかったよ。ありがとね」


 こうして、アリシアの執事生活が終わった。





 

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