第86話

「久しぶり、祖師谷君」

「久しぶりです、祖師谷様」

「久しぶり、みんな」


 クラスのみんなが、学校前に集まっている。


 今日は、前から予定していたみんなで遊びに行く日だ。


 アリシアとエリーがバスとか遊園地の人に許可を取ったりだとか、いろいろしてくれたみたいで本当に助かる。


 予定調整とかは由利や愛梨さんがしてくれたみたいだ。


 四人には後でしっかりとお礼をしたいなって思う。


「じゃあ、みんな集まったことだし、バスに乗って早速行こう!!」

「「「「おー!!!」」」


 バスの座先は事前に決めているみたいだ。

 

 僕の隣が誰になるかで、ひと悶着あったみたいだけれど公平に決着をつけられたみたいで良かった。


僕の隣に座ったのは.......


「よろしくお願いしますね。祖師谷様」

「よろしくね、エリー」


 アリシアお付きのメイドであるエリーだった。


 他のみんなと一緒に喋ることはあっても、二人きりで話すことはなかったので少しだけ緊張している。


「祖師谷様、二人っきり、ですね」

「そう、だね」


 怪しい微笑みを見せてそう言ってくるから胸がドキドキしてしまう。

 

 エリーはアリシアよりも積極的な一面があるからね。


「私、昨日、祖師谷様にお菓子を作ってきたんですけれど食べてくださいませんか?」

「え?いいの?」

「もちろんです。祖師谷様のために作ったものですから」


 ニコニコと手渡してきたものは綺麗に包装されているクッキーだ。


 早速、開けて一つ食べてみるとサクッとしていて優しい甘さが口に広がって幸せになる。


「エリーってすごく料理が上手いんだね。とても美味しいよ」

「ふふふ、そうですか。それは良かったです」


 クッキーをもう一つ食べる。


 このクッキー、幾らでも食べられるな。


「私と結婚してくだされば、毎日、私が作って差し上げますから」

「ぶっ!?」


 耳元で突然そう言われて、咽てしまう。


「あらあら、大変ですね」と言いながら、エリーが優しく背中を撫でてくれたので段々と落ち着いてきた。


 なんというマッチポンプ。


「エリー、ちょっとびっくりしたんだけれど」

「それは、ごめんなさい。ですが、それは事実ですから。覚えておいてくださいね」

「......うん」

「ふふふ」

「エリー、ずるい。料理でアピールするなんて」


 そこで、後ろの席にいたアリシアがエリーに向かって恨みがましい視線を送っていた。


「アリシア様も料理ができるようになればいいだけですよ」

「.......今度教えて」

「分かりました」


 その後もクラスのみんなとビンゴやカラオケ大会、エリーとお話をしたりして楽しく過ごすことができた。


 バスが目的地に着き、降りるとそこは.......


「これって、結構有名なところだよね」

「祖師谷様が来ると伝えると快くお貸しいただけましたよ?」


 その遊園地は結構、大きくて一日じゃすべては回り切れないような広さをしていた。


「まぁ、できるだけ回るようにしましょう」

「そうですね」


 こんな大きな遊園地を貸してもらうのだから、できるだけ多く回ろう。


 うーん、でもそれだけだとこの遊園地の人たちに迷惑をかけすぎているような気もするから、宣伝とかもかねて動画を作っても良いかも。


 試しに、動画を撮って良いかと聞いてみると快諾してくれた。


 動画を取るとなるとうーん、そうだな。


 クラスのみんなと、一緒に遊園地回ってみたとか?それだと味気なさすぎるような気もするし。


 ...........あ、そうだ。


「ちょっと、みんな聞いて?」

「「「どうしたの?」」」


 僕が一声かけると、軍隊のようにみんな耳を澄ませ一言一句漏らさないように耳を澄ませる。


 統率取れすぎていて少し怖い。


「今から、みんなには疑似彼女になってもらいたいな」

「「「「疑似彼女?」」」」


 莉々さんから着想を得て、遊園地デートと言う体で彼女目線で僕とデートが出来る動画を作ろうと考えた。


 僕の隣に動画を取る人を置いて、まるで一緒にデートしているような感覚を得られるものだ。


 もちろん、動画を撮ってもらうのだからその子に向けても彼氏っぽいことを言う。


「どうかな?少しの間だけだけれど」

「「「「その話乗った!!」」」」


 クラスの人たちは一斉に我先にと立候補するが、決まるわけがないので公平にじゃんけんをすることとなった。


 各アトラクション事に、撮る人を変えてできるだけいろんな人と動画を取るようにする。


 もちろん、遊園地中ずっと動画を取るわけではないから選ばれなかったこと達には、別で何かしてあげようかなって思う。


 エリー、アリシア、由利、愛理さん、選ばれた子たちはものすごい豪運と根性で権利を勝ち取ったみたいで、ものすごい喜んでいる。

 

 勝ち取れなかった子たちは涙を浮かべてものすごく悲しそうにしていたので、その子たちだけを集めてこういってあげる。


「みんな、残念だったね。ごめんね」

「祖師谷君は悪くないよ。私の運が悪かっただけ」

「そうだよ。祖師谷君は悪くない」

 

 と涙を浮かべながらも、そう話す子たち。


 健気でかわいい。


「だけれど、みんなにも目いっぱい楽しんでほしいからそうだな.....ここにいる勝てなかった子たちには、僕に言ってほしいセリフを考えてほしいな」

「セリフ?」

「うん。みんなが考えてくれたセリフは、動画の中で使うから、胸がキュンキュンするようなものにしてね。みんなの事思い浮かべて言うから」

「う、うん!!」

「僕に、考えたら言って?アトラクションに着くまでに考えておいてね?」


 動画を見たときに、「あ、私が言ったセリフだ」と喜んでもらえればいいな。


 さて、それじゃあ、行きますか。


 

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