第83話
シュガーちゃんの曲や、ライブの話の日から数日たった。
「蒼ちゃん。楽しみだね」
「そうだね」
「むふふ、お兄ちゃん」
「はいはい」
今、僕たちは車の中で、景色を眺めている。
行先は、有名な温泉街だ。
母さんが、一昨日「蒼ちゃん。梨美。それに白金さん。旅行に行きたくない?私は行きたい!!ということで、有休とって旅行に行きたいと思いまーす。行先は因みに決まってて、旅館も取ってあるから楽しみにしててね」
と母さんの提案で、僕たちは旅行に行くこととなった。
僕も、家族のみんなとどこかには行きたいなと思っていたから、母さんが提案してくれて嬉しいし、この旅行で家族との仲をより深められたらなと思う。
それに最近、家族でこうやって長く一緒にいることが少なかったからね。
母さん、梨美、白金さんと雑談をしながら、車に揺られること数時間程度で目的の宿に着いた。
チェックインの時間には、まだ少し早いため周りを一通り見ようという話になり、四人で観光することに。
やはり観光地だけあって、いろいろ見て回るものがある。
お土産屋さんも豊富だし、足湯とかもあったりする。
「蒼ちゃん、私たちからあんまり離れないでね」
「そうだよ。お兄ちゃん。外は魔物の巣窟なんだから」
「蒼様のことは命に代えてもお守りしますが、注意だけはしてくださるとありがたいです。蒼様は少し危機感がなさすぎるので」
「そうそう」
そう言われたので、改めて周りを見てみると同じ観光目的で来ていた人たちが、じぃっと僕のことを見ていることに気づく。
青だと気付いて、驚いて声も出ず呆然としている人もいる。
あそこにいる人、倒れてるし。他にも、顔を真っ赤にしつつだけれど、目はじっと僕のことをとらえて離さない子だったり、旅行に来ていたOLの人たちも顔を真っ赤にしつつ勇気を振り絞って僕に手を振ってくれている。
せっかく旅行で来ているんだし、今日くらいは手を振り返してもいいよね?
一回だけ、一回だけだから。
僕は、笑顔でその人たちに手を振り返すと、胸を押さえながら鼻血を垂らしていたり、感動で泣いていた。
「蒼ちゃん。そういうところだよ」
「蒼様。そういうことは控えてくださいと何度も申し上げたはずですが?」
「お兄ちゃん?」
三人は、はぁとため息をついて呆れた声を出す。
ごめんね。でも、旅行で来ているんだろうからより楽しめて少しでも記念になればいいなと思ったから。
「まぁ、それが蒼ちゃんだし、しょうがないか」
「そうですね。それが蒼様の良いところですし」
「まぁ……しょうがないか。今日は旅行だからね。大目に見てあげるけれど、旅行の間だけだからね」
母さん、白金さんは許してくれていたけれど、梨美は目のハイライトをoffにして僕の事じっと見つめてきていた。
「じゃ、じゃあ早速足湯にでも浸かろう」
「そうだね」
母さんと、梨美が僕の隣にそれぞれ座る。
白金さんも一緒にと思ったけれど、お仕事中だからと言って拒まれてしまう。
「少しだけでもいいから一緒に浸かりませんか?梨美をお膝にのせますから隣で」
「でも......」
「白金さん、一緒に浸かりましょ?」
と食い気味に僕のお膝に座れると聞いたからか、梨美がそう追撃してくれる。
「......分かりました。少しだけですから」
「うん。白金さんはいつも頑張ってくれているから」
梨美を膝にのせて、白金さんが隣に座って足湯に浸かる。
「気持ちいいですね」
「そうだね」
白金は、そう言って微笑んでくれる。
普段から大人っぽい白金さんが微笑むところを見ると、何かこう、心がキュンっとしてしまう。
「むぅ、お兄ちゃん。私のことも見て」
「はいはい」
ぐりぐりとお尻を擦りつけてくる梨美に強制的に反応させられる。
梨美を窘めるように言ってはいるけれど、内心少し股間とか自精神がまずいことになっている。
最近、より梨美が大人っぽくなってきているような気がするし、僕への求愛行動が過激になってきているから。
「蒼ちゃん、私は?」
「しょうがないなぁ」
「やった」
母さんの頭を撫でてあげる。
母さんも、最初に会った時よりさらに綺麗になっているし、本当に僕と梨美を産んだのかと思えるくらい若々しいのだ。
四人でゆったり雑談をしながら足湯に浸かり、近くにある売店で売っている名物のお饅頭とかを食べたりして、いい時間になったのでチェックインして旅館へと入る。
女将さんが男性客専用のものすごい豪華なお部屋に案内してくれる。
「凄いですね。この旅館」
「ありがとうございます。まさか、貴方様にこの旅館を使っていただけるなんて光栄です」
と美しい所作でお礼を述べてくれる女将さん。
和服で礼儀正しく、ものすごくきれいな方ですごく好感が持てる。
「夕食の準備が出来ましたら、お部屋に持っていきますので」
「分かりました。ありがとうございます」
こんな立派なきれいなところなんだ。夕食もすごく美味しいものなんだろうな。
すごく楽しみだ。
「お兄ちゃん。あの人のことエッチな目で見てた」
「み、見てないよ。ただ、綺麗な人だなって思っただけで」
「蒼ちゃん。お母さん達で我慢してくれないかな?」
「だから、十分母さんたちもきれいだし、ただ礼儀正しい人だなって思っただけだって」
「ほんとー?それならいいけれど」
まだ少し疑いの目をむけられてはいるが、必死の弁明によって事なきを得る。
「ねぇ、お兄ちゃん。この部屋凄いよ。結構大きめの露天風呂ついてる」
見てみると四人入っても余裕がある露天風呂が部屋の外についている。
外の景色も最高だし、夜になればさぞ綺麗だろう。
本当にすごいな。
「母さん凄いね。よくこんなところ取れたね」
「凄いでしょー。お母さんだって、やればできる子なんだから」
と胸を張っている母さんの頭を撫でてあげる。
夕食の時間まで部屋で、ごろごろしたり外の景色を眺めたりしながら、過ごした。
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