第82話
「青様、これ、やりましょう」
バンっと理恵さんがホワイトボードを裏返して見せてきたのは、『青、生ライブ』というでかでかとした文字が出てくる。
「ライブですか?」
「そうです。別に、歌を歌えとかではないです。簡単に言うと、会場に人を集めての雑談とかそういうことです」
「なるほど」
ライブかぁ。
前世で言うところの超人気歌い手たちとかが、やっていたことだな。
確かに、今の僕の登録者数は前世の日本ナンバーワンの登録者数を誇る人でさえ越してしまい、今も留まることを知らない。
何時かはやってみたいと思っていたけれど、こんなに早く企画が立ち上がるなんて思わなかった。
「青様がライブをやるとなれば、色々な企業様がお力添えをしてくださるでしょうから、全然夢物語でも何でもないのです。青様、行けます」
今、このスタジオには他のスタッフとか社員さんとかもいて、うんうんと首を縦に振ってくれている。
「今は、まだやりたいって言う段階で何も決まってはいないですけれど、青様がうんと頷いてくだされば私たちは全力で手助けをしますので」
「そうですね......」
僕は、まだ配信というものを始めてからそんなに経っていないし、経験も浅い。
だけれど、こんなにも社員の人たち何より理恵さんからの信頼にも応えたいから、僕の答えはもちろん......
「分かりました。やりましょう!!」
「本当ですか!?ありがとうございます。全国の女性たちが泣いて喜びますよ。生の青様に会えるのですから」
「現地に来れない人は、ネットチケットを買ってもらうようにしましょう」
「そうですね。これから、いろいろと話を詰めていきましょう」
その場にいたスタッフのみんなが喜んで手を取り合っている。
僕、しっかりとしないとな。これだけの人......いや、数えきれないほどの人が僕に期待してくれているんだ。
「そこで、私の出番」
と、とことことドアを開けて歩いてきたのは、僕のオリジナル曲を制作してくれているシュガーさんだ。
「青、私、あなたのオリジナル曲と作り終わった」
「本当ですか!?」
「うん。でもその前に、ライブやるって聞いた」
「そうですね。でもまだ内容は何も決まってなくて」
「だから、そのライブようにまた新しい曲作る」
「本当ですか?」
「うん。私、青に尽くしたい。尽くせる女だから」
とその小さい体には不釣り合いな胸に手を当てて、自信ありげにそう呟く。
「そうですね。シュガーさんの曲を新たに作ってもらったり、他の今人気のアーティストの方々にも協力してもらって、歌うこともありですね」
「まぁ、でもその前に、シュガーさんが作った新曲を一回聞きましょう」
「うん、じゃあ、聞いて」
理恵さんのもとにシュガーさんが送ったものを流す。
ボカロらしいアップテンポな曲でありながら、自分で言うのもなんだけれど、配信で見せる情けない姿や、甘いマスクとかいろいろ僕のすべてが詰まっていた。
四分と少しの曲だけれど、僕のことをしっかりと表現していてとてもいい曲だった。
そこにいた人たちは、皆一様に「良かった」とか「素晴らしい」とか賞賛する声で溢れかえっている。
「とってもいいよ。シュガーちゃん」
「そうでしょ?褒めて」
僕の胸に頭をぐりぐりと押し付け、頭を撫でろと主張してくるのでゆっくり優しく撫でる。
すると、シュガーちゃんは満足気にして、さらにぐりぐりと押し付けてくる。
可愛すぎるので、僕もついついナデナデをしてしまう。
「あ、そうだ。それでなんだけれど。まだ収録はしないけれど試しに歌ってみて」
「うん。でもちょっと、覚えきれてないからもうちょっと聞かせて」
「分かった」
シュガーちゃんが作ってくれた曲をある程度覚えらるぐらい聴き込む。
「大丈夫です。いけます」
「分かりました。それじゃあどうぞ」
off vocal のものを流してもらって歌い始める。
上手いかは分からないけれど相手に僕の思いが伝わるように精一杯歌う。
歌い終わって周りを見ると、耳栓をつけていなかった人はピクピクと震えて倒れていて、シュガーちゃんはお股から汁が垂れていて、漏らしてしまったみたい。
不味いな。
「素晴らしかったです。青様。やはりあなたはこの世界において最高の男性です」
と理恵さんが涙を流しながら、僕の手を取る。
「これからもあなたのことをサポートさせてください。全力でしますから」
「ありがとうございます」
耳栓をしていなかったスタッフの人たちや、シュガーちゃんが元に戻るまで数十分ほどかかったが、やっと話せるくらいになった。
ちなみにシュガーちゃんはスタッフの人が急いで買ってきた新しい服をきている。
「青」
「なに?」
「すごかった。マジやばい」
「ありがと」
「ちょっと、こっちに頰寄せて」
「うん」
言われた通りに、シュガーちゃんに頬を寄せると『チュッ』というリップ音とともに頬に湿った感触。
「大好き、青」
シュガーちゃんの顔を見ると、目をハートマークにさせてお尻を振って全力で僕に媚びようとしてきている。
いきなりのことに、僕も、理恵さんも、端で見ていた白金さんもこれには反応できていない。
「ちょ、シュガーさん。ストップです。それ以上はさせません」
理恵さんが止めに入り、白金さんがシュガーさんを抱き上げて僕から離れさせる。
離れる時でさえ、僕のことをジィっと見て逸らさなかった。
「この曲を出すのは、少し危険かもしれませんね。制作者であるシュガーさんは制作者であるから、曲にかける思いは人一倍強いとはいえあんな状態になってしまうんですから」
「そうですね。あらかじめ告知しておいた方がよさそうですね」
因みに、シュガーさんにキスしてもらったことは別に嫌じゃなかったので、問題にはしなかった。
けれど、その後もシュガーさんは僕の膝の上に乗って猫のようにとことん甘えてきた。
帰るときなんて、僕の袖をそっと掴んでうるんだ瞳で『離れたくない』って言われてしまい、事務所で少しイチャイチャしてからお別れするぐらいだった。
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