第80話

「はい、明日から夏休みになります。あまり羽目を外しすぎないように注意してくださいね。しっかりと勉強もするように。それでは、さようなら」


 明日から、みんな大好きな夏休みが始まる。


 だけれど、教室はどんよりとした空気になっている。


「みんな、どうしたの?明日から夏休みだっていうのに」

「だってぇ..........夏休みに入れば祖師谷君と会える日が少なくなるから悲しくて」

「そうです。去年までは私達も夏休みだから浮れていたんですけれど、今年は祖師谷君がいるから」


 うんうんと教室中の人が首を縦に振る。


 そう言えば、そうだ。みんなと会える機会が少なくなってしまう。


「じゃあ、クラスのみんなで何処かは遊びにいく?遊園地とか」

「え!?」


 そうだなぁ、遊びに行くなら貸し切りがいいなぁ。


「あ、それなら私の家と交友関係がある遊園地を経営している人がいるので、その方に聞いてみましょうか?」

「ほんと?」

「祖師谷蒼様のお名前を貸していただいてもよろしいですか?」

「僕の名前?」

「そうです。祖師谷蒼様が来てくれるとなれば、休園日でも開けて貸してくれるでしょうから」


 なんか、権力を使っているみたいで気が引けなくもないけれど、クラスのみんなと遊ぶにはそれしかないもんな。


「大丈夫です。祖師谷蒼様が来てくれるってだけで、あちら側もwin私達も遊ぶことが出来てwin。winwinの関係ですから」

「そうかなぁ?」

「祖師谷様は自分の価値を低く見すぎています。もっと自分を誇りましょう」

「う、うん」


 エリーがぐいぐいと迫ってきたので、うんと返すしかない。


「じゃあ、LEINグループ作るからみんな入ってー」


 今年の夏休みは、楽しくなりそうだ。



********


 さて、みんなと遊ぶ約束をして、少し話してから帰宅をすると..........


「お、お邪魔してましゅ!!」

「お帰り、お兄ちゃん!!ぎゅー」


 風花ちゃんが家に来ていた。


 今日も今日とて、この子は僕にタジタジしているけれど、一生懸命話してくれている感じがしてとても、可愛くてついつい甘やかしたくなる。


「ただいま、梨美。それと風花ちゃんもゆっくりしていってね」


 梨美に抱き着かれたままで少しだけ、撫でづらいが頭を撫でてあげると、沸騰しそうな程顔を真っ赤にして、コクコクと頷く。

 

「もう、お兄ちゃん。私にも!!」

「はいはい。ごめんね」

 

 風花ちゃんは可愛いけれど、もちろん妹の梨美も可愛いので頭を撫でる。


 梨美は少し愛が過剰すぎるような気がしなくもないけれど。


「あ、お兄ちゃん。今日ね、風花が家にお泊りするんだけれどいいかな?」

「あ、そうなの?ちゃんとお着換え持ってきた?」

「は、はい」

「そっか、偉いね」


 なんか、風花ちゃん相手だと父が娘を甘やかす時みたいになってしまう。

 

 そうだなぁ、せっかく泊まってくれるんだし何かしてあげたいな。


「そうだ、梨美たちに料理作ってあげる。今日の晩御飯は僕が作るよ」

「え!?ほ、本当?」

「うん」


 これでも、一応前世はしっかりと自炊というものをしていたから、出来ないことは無い。


「で、でも大丈夫?包丁で怪我しない?」

「大丈夫だよ」

「で、でもぉ。私、お兄ちゃんに何かあったらおかしくなっちゃうから」

「うーん、じゃあ。三人一緒にする?」

「あ、それなら、いいよ。ね?風花」

「う、うん」


 そうと決まったら、かばんを部屋に置き手を洗ってから三人でキッチンに立つ。


「じゃあ、今日は三人で仲良くカツカレーをつくろっか」

「カレーだ」

「林間学校みたい」


 二人ともワクワクしてくれているみたいで良かった。


「じゃあ、僕はカツを作るから、二人でカレーを作ってー」

「分かった」


 二人は仲良く、野菜を切り始めた。


 けれど、梨美はできているが風花ちゃんが料理をあまりしないからなのか、うまく切れていない。


 自分のカツの仕込みをいったん中断して、風花ちゃんの後ろへと回る。


「風花ちゃん、ここは、こうするとやりやすいよ」

「ひゃ!?は、はい」


 後ろからそっと手をつかんだから、びっくりさせてしまった。


「こ、こうですか?」

「うん。そうそう。上手。良くできてるよ」

「えへへ」


 僕が褒めると、嬉しそうに笑ってくれる風花ちゃん。本当にこの子は可愛い。


「あ、わ、私、全然ジャガイモの切り方ワカラナイナー。お兄ちゃんに教えてもらえたらきっとわかるだろうなー」


 とちらちらこちらを見てくるので、苦笑しつつ梨美の手を取り教えてあげる。


「梨美も上手だね」

「えへへ、そうでしょー」


 その後も、仲良く三人で作り、凄く美味しそうなカツカレーが出来た。


「ただいまー。今日も疲れた」


 とそこで母さんが帰って来る。


「風花ちゃん。こんにちわ。狭いところだけれど、ゆっくりしていってね」

「はい。本日はお世話になります」

「あ、なんかすごく美味しそうな匂いがする」

「これ、私たちが三人で作ったの」

「さ、三人ってことは蒼ちゃんも一緒に?」

「うん」

「うぅ、ずるいぃ。私も蒼ちゃんとお料理したい!!けれど、三人ともありがとう。とっても美味しそう」


 時間的にも夕食の時間だし席に着いて四人で食べ始める。


 自分たちで作ったからなのか、凄く美味しく感じる。


「蒼ちゃん達が作ってくれたカレー。凄く美味しいよ」

「良かった」


 仲良く雑談しながら、夕食を済ませお風呂に入り、自室へと戻る。


 梨美と風花ちゃんは今お風呂だ。


 今日は、配信をしようと思ってたけれど風花ちゃんがいるし無しかな。


「お兄ちゃん、入ってもいい?」

「いいけれど」


 お風呂から上がったのか梨美と後ろに風花ちゃんがついてきて部屋に入って来る。


「お兄ちゃん。髪、乾かして」

「分かった」


 なんだかんだ、梨美の髪を乾かすのも初めてかもしれない。


 ゆっくり髪を傷つけないようにしながら乾かしていく。


 梨美は目を細めながら猫のように気持ちよさそうにしている。


「はい、終わり」

「もう終わっちゃった。もう少し堪能したかったのに」

「もう充分乾いたでしょ。それじゃ、次風花ちゃんね」

「は、はい」


 風花ちゃんの髪も綺麗だけれど、梨美とはすこし違う。


 人それぞれ、髪質がこんなに違うんだなと感じながらも丁寧に乾かしていく。


 梨美と同じように目を細めて気持ちよさそうにしてくれる風花ちゃん。凄く愛らしい。


「はい、終わり」

「うぅ..........すごく良かった」


 風花ちゃんも満足してくれたみたい。


「ねぇ、お兄ちゃん」

「なに?」

「お願いがあるんだけれど」

「うん」

「今日、私達兄さんと今日一緒に寝てもいい?」

「え?」


 一緒に寝るかぁ..........。僕は良いけれど風花ちゃんはどうなのかなと見てみると恥ずかしそうにしながらも小さく「一緒に寝たいです」と言ってくれる。


 可愛すぎて、悶えそうになる心を抑えつつ


「じゃあ、一緒に寝よっか」

「うん」


 僕が真ん中になり、左右に二人が寄り添う形だ。


 シングルベッドだから、三人では狭くて密着した形となる。


「むふふ。お兄ちゃんがこんなに近い」

「わ、私、す、すごくドキドキする。可笑しくなりそう」


 梨美は、興奮していて風花ちゃんは顔を真っ赤にして初心な反応をみせる。


 その後、二人に密着されながらも少し雑談をしながらも三人で眠りについた。





 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る