第76話

「おはよーございます」

「おはようございます、青様」

 

 今日ぼくは事務所に来ていた。

 

「デビュー配信の歌がかなり好評で注目を集めたから、「歌ってみました」を投稿しようってことになるなんてね」

「誰が聞いてもあの歌は素晴らしものでしたから、青様が歌ってみましたを出せばものすごい反響を呼ぶと思いますよ」


 そうなのだ。


 僕のV化と歌ってみたで、僕のデビュー配信はものすごい再生数になっている。普段の配信の再生回数も凄いけれど、それがダントツトップだ。


 それで、僕の歌ってみたを投稿しようという話になり、今日はその打ち合わせという訳だ。


 それで..........


「どうして、莉々さんまでいるんですか?」

「青様、酷いです。莉々に相談なしでこんなすごいことをしているなんて。私達もうコラボもした仲なんですから、お手伝い位させてください」


 まぁ、別にいてもらってもいいけれどね。


 外に情報なんて漏らさないだろうし。それにしても莉々さんはどこで聞きつけてきたんだか。


「青様は、どの曲を歌っても女の人を普通にノックアウトできるくらいには素晴らしい歌声ですから迷いますね」

「そうですねぇー。その中でも私達みたいな女性をキュンキュンさせて、頭の中がおかしくなるくらいのものを歌って欲しいですし..........」


 何其の薬物みたいなもの。


 僕の歌ってそんなにヤバいの?


「うーん、そうするとなるとやっぱりラブソングですか?」

「そうですね、デビュー配信で歌った『あなたへ』もラブソングでしたし、青様のリスナーに対する思いも感じられてベストマッチでしたし」


 その後、あれでもないこれでもないといろいろ意見が出るけれど理恵さんと莉々さんにはどうもしっくりこないみたいで頭を悩ませている。


 うーん、僕に合う曲かぁ。


 ..........僕に合う曲。なら既存にある曲じゃなくて新しく新曲を出せばいいんじゃないか?


「莉々さん、理恵さん。新しく曲を作るのはどうですか?」

「新しく曲を?」


 僕が思ったことを話すと、二人はそれだ!!と頷いてくれる。


「そうです!!既存の曲に頼らず青様にあった物を作ってもらえばいいんです」

「流石青様、素晴らしい慧眼です」


 と興奮したように言ってくれるから照れてしまう。


「では、さっそく..........そうですね。作ってもらうなら青様に見合う素晴らしい作曲家やアーティストに頼んでみたいですね」

「そうだ、今人気のあの人とかどうですか?

「そうですけれど、あの人すごく気難しい人ですからね。前に依頼したことがありますけれど」


 と理恵さんが言う。


 どんな人なんだろう?


「その人はね、今流行っているボカロを作っている人なんだよ」

「ボカロですか」


 前世でもあったボカロ。こっちの世界でもかなり人気のようで、その中でも今話題沸騰中の人がいるみたい。


 名前はシュガーさんって言うらしい。


「連絡取ってみますね」


 そう言って、席を外す。


 そして十分後..........勢いよく中に入って来る理恵さん。


「青様、良いですって。それと今すぐここに来るそうです!!」

「え?今すぐですか?」

「はい。いつも物静かで無表情で話さない方なんですけれど、『そっちに行く』とだけ言って切られました」


 数十分後、莉々さんと理恵さんと雑談しながら待っていると、扉が開かれる。


 入ってきたのは小さな150センチメートルあるかくらいの黒髪のショートボブの女の子だ。


 顔は整っていて、如何にも和風の衣装が似合いそうな人。


 とことこと僕の方へと寄ってきてそして..........


「......」


 僕の膝の上にちょこんと座る。


「ちょ、ちょっとシュガーさん?何してるんですか?」

「そうです。何そんな羨ましいことしてるんですか」

「..........」


 理恵さんと莉々さんがそういう言うが当の本人は何も話さず僕の手をにぎにぎと握って手の感触を確かめて遊んでいる。


 今こんなことを言うのはどうかと思うけれど、可愛い。


「シュガーさん」

「..........なに?」


 コテンと首をかしげて僕の方を見てくる。


 すごく愛くるしい。


「僕の曲作ってくれるの?」

「..........うん。というか前から勝手にいろいろ作ってた」

「え?そうなの?」

「うん。でもこれだっていうの作れない」


 と少し悔し気にするしゅがーさん。


「でも、私、青の曲作りたい......から、実際に会ってよりあなたを深めたいと思って」


 僕の胸に頭を預け、満足げなしゅがーさん。


「良いのが思い浮かんだ?」

「うん。だけれど、まだ足りない」

「ちょ、しゅがーさん」


 彼女は僕の手をとってその小さい体には少し不釣り合いな胸へと持って行く。


「伝わってる?この鼓動」

「うん」


 どくん、どくんと確かに脈打っている心臓。


「この鼓動をもっと速くして、胸を高鳴らせてほしい」

「どうしたらいい?」

「まず、ぎゅっとして?」


 僕の膝に座っている彼女に腕を回して抱きしめる。


「......って、ちょっとー!!ほんとに何してるんですか。ずるいです。不埒です。ずるいです!!」


 と莉々さんがその場に割り込んでくる。

 

 しゅがーさんが僕の膝の前面を支配していたが、どかして片方の膝の上に座って来る。


 莉々さんもシュガーさんよりは背が大きいけれど十分小さいからな。


「あなた......邪魔。それにあなたはもっとすごいことコラボでされてた。邪魔しないで」

「そ、それはそういう配信だったから仕方が無いんです。プライベートではそういうことされたことありませんから」

「でも、されたのは事実」


  バチバチと視線を合わせて火花を散らせる二人。


「二人とも喧嘩はダメだよ」

「..........むぅ。分かった」

「はーい」


 と僕が仲裁すると素直に謝ってくれる。二人ともいい子だからね。


「それじゃあ、話を進めていこっか」

「うん」


 その後は、四人での話し合いになりみんなが思っている青像を出し合ったり、これまでに作ってくれていた曲を聞いてみたりして有意義な時間になった。


「きょうの話し合いはここまでですかね」

「そうですね」

「..........青」


 と立った僕の袖をくいくいと幼子のように引っ張って来るシュガーさん。耳を近づけてくれとジェスチャーをしてくるので従い、屈む。


「これ、私の連絡先。いっぱいお話、しよ?」


 とキューアールコードを映し出すので僕もそれを読み込む。


「これから、よろしく」

「よろしくね。しゅがーさん」


 あまり変わらない表情が今確かに微笑んだように見えた。


「二人とも何してるんですか?」

「何もしてない。あっちにいけ、淫乱ピンク頭」

「なっ!?うるさい無表情女」


 と二人がいがみ合っている。


「二人とも仲がいいね」

「よくない」

「良くないですから」


 そうかなぁ?


 


 

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