第73話

「あ、おはよう。祖師谷君」

「おはよう由利、愛梨さん」

「おはー」


 昇降口で由利と愛梨さんに会い、一緒に教室へ。


「そう言えば来週から球技大会があるみたいだよ」

「球技大会?」

「そうなの。期末テストも終わったし夏休み前にやろーって話になったみたいで」


 僕はちなみに期末テストを受けていない。


 受けても別に良かったのだけれど、この学校はこう見えてかなりの偏差値の高校だから、僕が受けてもあまりい点数を取れないだろうし。


 学校的には、僕が登校してくれているって事だけで大助かりらしいから。


「由利はなんの競技にでるの?」

「私は、多分バスケかな」

「愛梨さんは?」

「バレーか由利と同じバスケ」


 愛梨さんと由利は二人とも運動神経がいいらしい。


 聞くところによると、僕に万が一の事がないようにいつも自分を鍛えていると聞いたことがある。


 そこまでしなくても白金さんがいるから無いとは思うけれど、嬉しい。


 ただ、僕の周りのみんなは過保護すぎるような気もするけれど。


「球技大会って、僕も出ていいのかな」

「それは.............」

「どうなんだろう」

「祖師谷君が怪我をしたら、多分クラスの人たちどころか学校の人たちが泣いたり悲鳴を上げることに成りそうだしね」


 そんなことにはなら.............ないよね?


「おはようございます。祖師谷様」

「あ、おはよう。アリシア、エリー」

「何の話をしていましたの?」

「来週の球技大会の話について」

「球技大会ですか。祖師谷様、私の格好いいところ見ていてください」


 そう言って、僕の手を取り目を見つめてくる。


「アリシア様」

「痛っ。エリー、だから簡単に主人の頭を叩かないでください」

「祖師谷様の手を触るなんて、なんてうらやま…はしたない。少しは上に立つものとして、しっかりとしてください」

「エリー、途中で本音が漏れています」


 アリシアとエリーは相変わらず仲がいいみたい。


「みんなー、席に着いて。ホームルームをはじめまーす」


 木下先生が教室に入ってきて、教壇に立つ。


「欠席の人は…なし。じゃあみんなも分かっているとは思うけれど来週には球技大会があります。なので出る種目のを決めたいと思います。一時間目は総合科目なのでその時間には決めますよ」

「あの、木下先生」

「何ですか?祖師谷君」

「僕は、出られるんですか?」

「それは..........多分、祖師谷君が怪我をすれば私、クラス人、他クラスの人、校長、他の先生が、泣きますのでできれば安全なところにいてほしいです」

「分かりました」


 となると、僕は見学ということに成るのか?


 それだと何か味気ないしなぁ。どうにかして参加する方法はないのだろうか。


 うーん、と頭を捻っていると一つ思いついたことがある。


 これなら、危なくないよな。


 みんなが続々とどの種目をやるのか決める中僕は先生にこう聞く。


「先生、応援することなら可能ですか?」

「応援、ですか?」

「そうです。このクラスを全力で応援して勝って欲しいなって」


 前に一度応援をすることでテストの結果が、かなり良くなったということがあった。


 僕が応援することが出来れば、みんなやる気をもっと出してくれて頑張ってくれるんじゃないかと思ったわけだ。


「応援くらいなら、大丈夫だと思いますが.............」

「なら、決まりですね。僕の種目は応援団です。精一杯応援しますね」


 とみんなに言うと、クラス中が湧きたつ。


「祖師谷君に応援されるなら、誰にも負ける気がしない」

「祖師谷様に応援されるなんて、光栄です。負けません」

「負けたら、家の恥だわ。死ぬ気で勝ちます」


 クラス中のみんながより一致団結して、望めそうだ。


 それから、体育になりみんな各々の競技の練習を始める。


 さて、先生に確認したところ応援に使われるハンドフリーポンポンはあるみたいだからそれを引っ張り出してと。


 流石に前世でチア部が着ていたような衣装は男の僕は無理なので、体操着のままだけれど、精一杯応援しよう。


 本番ではマネージャーみたいなこともして、お水とかタオルも渡そう。


 まぁ、まずはダンスの練習からだよな。


 この時間、みんなが種目を練習している間、僕はダンスを練習して本番にはきっと喜んでもらえるようにしたい。


 みんなに驚いてもらうためにこっそり練習しよう。


 そう思い、体育館裏で無線のイヤホンをつけてダンスの練習を始めた。


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「球技大会、楽しみだね」

「そうだね」

「そうですね」


 私は、エリーさん、アリシアさん、愛梨と一緒にバスケを選択した。


 他の競技にもでるけれど、この四人で出るのはバスケだけだ。


「そう言えば、祖師谷様はどちらに?」

「なんかやることあるからーって、どこかに行っちゃった」


 やる事ってなんだろう。


 とても気になる。


 私達は、近くに祖師谷君がいなきゃ何か中毒症状みたいなものが働いてうずうずするのだ。


 祖師谷君は本当に罪作りな人。


 だけれど、大好き。


「私達も練習しよっか」

「そうですね」


 アリシアさんとエリーさんはどちらも運動神経が良くて、かなり動ける。

 

 パスを回したり、連携をしたり体育は他のクラスとの合同なので対戦したりする。


 数十分間真面目に取り組み、一度休憩を入れることにする。


 喉も汗もヤバい。


 水を飲んでから、体育館の蒸し暑い空気から逃げるようにして外へ出る。


 日影を探すように歩いていると、誰かが動いているような音がする。

 

 ここ、体育館の裏だよ?先客がいるのかな?とチラッと窺うようにみると.............なんと祖師谷君がダンスの練習をしていた。


 その様はとても綺麗で、流れる汗も気にせずに頑張ってダンスを練習している。その姿に見とれてしまって、動けなくなってしまう。


「あ、こんな所にいた。なにしてるの?」

「しぃー!!今いいところだから」

「良いところですか?」

 

 人差し指を鼻に充てて、後ろからきた愛梨達を注意する。


 愛梨たちも何事かと思い、見てみると言葉を失いただじぃっと祖師谷君をみることとなった。


 そして、祖師谷君のダンスも終わりを迎えたのか、動きが止まったので、ハッとなり急いで身を隠す。


「祖師谷君があんなに一生懸命、ダンスの練習してくれてる」

「格好良かったですね」

「最高でした」


 とみんな賢者モードになっている。


 祖師谷君があんなに頑張っているのだから、私たちも頑張らないと。


「絶対に優勝しよう」

「それ」

「それ以外はありえません」

「優勝以外をしたら腹を切りましょう。切腹?というのでしたっけ?」


 みんなそれぞれ揺るがない意思を手に入れた。エリーさんだけ命を懸けているが。


 それからの私たちの練習は鬼気迫る勢いで、相手の選手が若干涙目だったと言っておこう。


 特にエリーさんが怖かったらしい。



 

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