第58話 

「みんな、おはよー」


 教室に入り、みんなに挨拶をしていく。

 

 隣にいる白金さんは、少しだけ眉間に皺を寄せているけれど、クラスの人くらいは挨拶をさせて欲しい。


 ただでさえ、他のクラスの子や学年の子達とはあんまり関われなくなってしまったのだから。


 自分の席に着くと、いつも通り由利と愛梨がやってきたのだけれど、どうも様子がおかしいような気がする。


「あ、お、おはよう」

「おはよう。祖師谷君」

「おはよう」


 表情が硬いというか、緊張しているというか。


 僕相手に今更緊張なんてしないと思うけれど、何かあったのかな?


「あ、あのね、祖師谷君」

「なに?」

「わたし、さ。その.............」


 由利がいつになく緊張した面持ちで、そして恥ずかしがりながら言葉を紡ぐ。


「えっと、ね.......。祖師谷君のおうちにね」

「僕の家に?」

「祖師谷君の家に行ってもいい?」


 そこで、横から愛梨さんがさらっとそういう。


 なるほど。そういうことか。


「ちょっと、愛梨。私が頑張って言おうと思ったのに!!」

「だって、由利がいつまでたっても言わないから」

「あとちょっとだったじゃん!!」

「そうだっけ?」


 僕の家にかぁ。そんなに緊張することなんてないのになぁと思ったけれど前世で考えれば男の人が女の人の家に行くんだ。

 

 それは緊張する。


 けれど、この子達は勇気を振り絞っていってくれたんだ。そのことが嬉しいけれど、少しだけ由利に対して嗜虐心が芽生える。


「僕の家に来てもいいけれど」

「いいの!?ほ、本当に?」

「うん、いいけれど。今のままでは愛理さんしか連れていけないなぁ」

「え!?なんで?」

「由利から、行きたいって聞いてないから」

「そ、それは.............」


 由利が俯いて、恥ずかし気に髪をいじる。


「由利は行きたくないのかなぁー」

「ごめんね、由利。私だけ行ってくる」

「それでは、愛梨さんだけ蒼様の家に招きますかね」


 僕の意図を理解したのか愛梨さん、白金さんがこちら側に回ってくる。


「うぅ.............あ、あのわ、私もその.........ぃ.........たい」

「なに?」

「だから、その.............私もぃきたいです」


 そうか細く一生懸命呟いた由利にすごく可愛く見えて思わず、頭を撫でてしまう。


「え、あ、祖師谷君」

「じゃあ、おいで」

「う、うん!!」


 由利が元気に頷いてくれて、僕まで嬉しくなる。


 その後は、その話を聞いていたクラスメイト達が寄ってきたけれど、白金さんに止められていた。



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