第54話

「やりすぎですよ、蒼様」

「そうだよ、お兄ちゃん」

「すみません」


 二人が僕を叱ってくる。


 あの後、風花ちゃんが倒れてしまったので、梨美のベッドで寝かせてとりあえず事なきを得た。


 その後は、もうお察しの通り二人にたっぷりと叱られている。


「私は、少し会ってくれるだけでいいって言ったのに、なんで抱きしめちゃうのかな?」

「そうです、抱きしめるなら私にしてください。さぁ」


 そう言って、両手を広げて僕の方へと近づいてくる白金さん。


 だが、その間に梨美が入り込み、二人の視線が交差して火花が一瞬だけ散ってしまうので、僕が二人とも一緒に抱きしめる。


「お兄ちゃん。やっぱり少しだけ風花の匂いがついてる。上書きしてあげるね」

「蒼様、こんな私を抱いてくれるなんて。私、感激です」


 二人とも、僕の胸にすりすりと顔を擦り付けてくるので、頭を撫でる。


 身を捩って気持ちよさそうにしてくれるので、続ける。


「二人とも、ごめんね。分かっていたんだけれど、風花ちゃんが予想以上に 僕に会って嬉しそうにしていたから」

「そ、それはそうだけれど。もぅ、わかった。今回だけだよ?お兄ちゃん」

「まぁ、仕方がありませんね。蒼様がしたいとおっしゃったことですし。実害は何もなかったのですから」


 二人とも頭を撫でてもらって気分を良くしてくれたのか、許してくれる。


 三人でゆったりとした時間を過ごしていると、リビングの扉がゆっくりと開かれる。


 二人もそれに気づいたのか、警戒したように僕の前に立つ。


「え、あの、梨美?」


 入ってきたのは、気絶から起きた風花ちゃんだった。


 そして、後ろにいる僕にも気づいたのか、恥ずかしくなって手で顔を覆っている。


「大丈夫?風花ちゃん」

「え、あの、は、はい」

「なら、良かった」


 僕が笑うと、指の間から覗いていた風花ちゃんの顔が真っ赤になり、その場でうずくまってしまった。


「お兄ちゃん?あんまり笑顔を振りまかないで。普通に凶器だからそれ」

「そうですよ、蒼様。蒼様に笑顔で微笑まれたらああなってしまうんですから自粛してください」

「えぇ、うん。分かった」


 ただ、微笑むのもダメみたいだ。


 どうすればいいんだ。僕は。


「風花?これでわかったでしょ?私にはお兄ちゃんがいるって」

「う、うん。しゅごい格好いいお兄ちゃんだね」

「そうでしょ?えへへ」


 梨美が胸を張って、僕の事を自慢する。少しだけ恥ずかしい。だけれど、この場に僕は邪魔だな。


 また、気絶しちゃうかもしれないし。


 梨美と白金さん、それに風花ちゃんに挨拶をして自分の部屋に戻った。

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