第53話

「夢から覚めようね、梨美」

「だから、絶対にいるもん」


 私は友達の梨美を現実へ引き戻すべく、梨美の家に向かう。


 小さい頃からの付き合いだけれど、梨美の家に行くことは初めてだ。


 それにしても、青様は凄いな。私の友達をいとも簡単に狂わせてしまうんだから。まぁ、私も相当青様に狂っているんだけれど。


「お邪魔しまーす」


 梨美の家はかなり大きくて、部屋がかなりある。

 

 もしかして梨美のお家ってお金持ちだったりするのかな?でも、私と梨美は友達だもん。お金持ちってだけで今更忌避したい感情とかもない。


「ここが私の部屋だよ」

「綺麗だね。あ、このぬいぐるみすっごく可愛い」

「そうでしょー」

「それで、梨美の愛しのお兄ちゃんはどこかなー?」

「今はおうちにいないだけだもん。だって、学校行っているから」

「男の人が学校?ふぅーん」


 確かに青様も学校に行っていて身バレしちゃったけれど、それじゃあ、私は誤魔化しきれないよ。


「もうすぐで帰って来るもん。五時半くらいには絶対に帰って来るから」

「じゃあ、それまでまって来なかったら認めようね」

「うん、分かった」


 私だって意地悪で言っているんじゃない。現実と夢の区別はした方が梨美のために良いって思ったから。

 

 梨美のお兄ちゃん(仮)を待つこと数十分、予定の時刻が来る。


 すると、玄関の方から音がして何となくだけれど、男の人っぽい声がする。


 もしかして.............いやでも、お母さんとかでしょ?


「あ、お兄ちゃん。帰ってきた。ちょっと待っててね」

「あ、うん」

「本物だからってあんまりびっくりしないでね」

「だ、大丈夫だよ」


 いるはずがないからこんなに近くに。


 梨美が出て行ってから数分。


 やっと扉が開いて


「もう、梨美遅いよ。どうせうそ.............な、んだから」


 そこには、天使様がいた。


 本物だった。すごい格好良くて可愛くて.............え、あれ?私、今変な顔してないかな?だ、大丈夫だよね。


 え?え?


 だめだ、まともに考えることなんてできない。


 だ、だって、本当の青様なんだよ?ちょ、まって、む、むり。い、今ばっちり目が合った。


「初めまして、祖師谷蒼です。梨美のお兄ちゃんです。宜しくお願いします」


 そう言った青様は自己紹介をしてくれているけれど言葉がでない。


 ちゃ、ちゃんと返さないと。


「あ、え、ああ、わ、わたしのにゃまえはきたしゃわふうかです。よ、よろしゅくおにぇぎゃいしましゅ」

「よろしくね、風花ちゃん」

「ひゃい、よ、よろしゅくおにぇがいしましゅ」


 だ、大丈夫かな?ちゃ、ちゃんと挨拶できたよね?変な子だって思われてないかな。そう思われていたら、私。自殺しちゃいそう。


 そんなことを思っていると

 

「じゃあ、僕は戻ろっかな。梨美のことよろしくね」

「ひゃい。これからもずっとなかよくしましゅ」

「うん、ありがと」


 や、やっぱり青様は女性に優しい素晴らしい人だったんだ。


 あ、でも、祖師谷蒼って言っていたけれど、青様だよね。念のために確認しておきたい。


 私は勇気を振り絞って聞く。


「あ、あにょ!!」

「なに?」

「あにゃたさまは、配信者の青さまでしゅよね?」

「あーうん。ばれちゃったか。そうだよ。僕は青だよ。ファンなの?」

「ひゃ、はい!!これからもじゅっと応援しましゅ!!!」


 ちゃ、ちゃんと伝わったよね。私はあなたの事が大好きですって。


 だめだぁ、恥ずかしすぎてちゃんと青様.............いや、蒼様を見ることが出来ないよぉ。


 でも、思いは伝えられたのかな。


 その時


 私を何かが包み込んだ。


 頭がさらにパニック状態になる。え、だって、こんなにいい匂いかいだことない。それに頭なでなでされてる。

 

 私は少し視線を上にもっていくと蒼様の優しい顔が見える。


 あぁ、だめ。壊れる。


「ありがとね、これからも応援してくれると嬉しいな」

「ひゃい.............だ、だいしゅきでしゅ」


 私の意識はそこで途切れた。

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