第52話

「蒼様、もうすぐ家に着きます」

「うん。分かった」


 学校を終えて、いつも通りに帰宅する。


 白金さん、由利、愛梨さんの三人の仲は何故か僕の想像していた方向に深まってしまって、僕の事について話し合っているみたいだ。


 利害関係と言った方がいいのだろうか。


 僕は普通に友達になってほしかっただけなんだけれどな。


 家の玄関の扉を開ける。


 .............あれ?いつもなら梨美が僕の胸に飛び込んでくるはずなんだけれど、今日は来ないみたいだ。


 何処かへ出かけているのかもしれない。


 そう思いつつ家の中に入り、リビングに行こうとしたとき、梨美が急いで走って僕の方へとくる。


「お兄ちゃん、お帰り」

「うん、ただいま」


 あれ?やっぱりおかしい。抱き着かないなんて。


「お、お兄ちゃん。あのね。今ね」

「うん」

「私の友達が家に来ているんだけれど、さ」

「そうなんだ」


 だから、いつもと違ったのか。一瞬だけだけれど、僕が何か怒らせちゃったのかと思った。


「一瞬だけ、私の友達と会って?」

「え?いいけれど」

「ほ、本当に!ありがとう。あ、でも一瞬だけでいいからね」

「でも、梨美の友達だししっかり挨拶してあげないと」

「どうしたんですか?蒼様」


 車庫に車を入れて、戻ってきた白金さんが来る。


 事情を説明すると「そうですね、一瞬だけなら許可しましょう」そういって、顔を引き締めた。


 梨美の友達なんだから、そんなに警戒しなくてもいいのに。


「じゃあ、行くよ」

「うん」


 梨美の部屋の扉を開けて入る。


「もう、梨美遅いよ。どうせうそ.............な、んだから」


 僕と目が合い固まってしまう。


「初めまして、祖師谷蒼です。梨美のお兄ちゃんです。宜しくお願いします」


 手を差し出そうとしたけれど、隣の白金さんに止められる。


 そのくらいは良いと思うんだけれど。


「あ、え、ああ、わ、わたしのにゃまえはきたしゃわふうかです。よ、よろしゅくおにぇぎゃいしましゅ」

「よろしくね、風花ちゃん」

「ひゃい、よ、よろしゅくおにぇがいしましゅ」


 僕の顔を見て、そわそわふわふわしてしまっている。


 風花ちゃんは梨美よりは背が高いけれど、やっぱりまだ中学生だから低い部類に入る。胸はそこそこの大きさで高校生になったらもっと膨らむだろうなという想像がつく。顔は可愛い、というよりは綺麗と言った方がいいだろう。髪は金髪で長い。きちんと手入されているんだろうなと一目でわかる艶のある髪だ。


「じゃあ、僕は戻ろっかな。梨美のことよろしくね」

「ひゃい。これからもずっとなかよくしましゅ」

「うん、ありがと」

「あ、あにょ!!」

「なに?」

「あにゃたさまは、配信者の青さまでしゅよね?」

「あーうん。ばれちゃったか。そうだよ。僕は青だよ。ファンなの?」

「ひゃ、はい!!これからもじゅっと応援しましゅ!!!」

 

 精一杯、恥ずかしいけれど頑張って気持ちを伝えてくれる風花ちゃんが初対面だけれどものすごく愛おしく見えてきてしまった。


 後で白金さんに怒られるだろうけれど、いいや。


 僕はそっと風花ちゃんに近づいて、ぎゅっとして頭を撫でてあげる。


「ありがとね、これからも応援してくれると嬉しいな」

「ひゃい.............だ、だいしゅきでしゅ」


 そう言って風花ちゃんは気を失ってしまった。

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