第44話

「蒼ちゃん、新しく女の人が来るからって誘惑しちゃダメだよ?」

「そんなことしないよ」

「蒼ちゃんはいつの間にか、知らない女の子が増えているから私は心配なの」

「そうかな」

「そうだよ、お兄ちゃん。あんまりそんなことしてると、ね?」


 梨美が僕の事をじっと、見つめてきて思わず冷や汗が流れる。


 今日は我が家に男性警護官の人が来るのだ。


 今日、というか昨日からずっと梨美と母さんはそわそわしていている。


 僕は、何もしないって言うのに。


 ピンポーン。


 その時、チャイムが鳴り母さんがそっとインターホンへ。


「どちら様ですか?」

『今日から祖師谷蒼様の男性警護官として派遣されたものです』

「分かりました。開けますね」


 母さん、梨美、そして僕もなんだか緊張しながら玄関の扉を開ける。


「今日から、こちらで働かせていただきます。白金しろがねスフィール紗里さりと言います」

「は、はい。宜しくお願いします」


 僕は見惚れてしまった。


 白く綺麗な長髪、ハーフなのか顔は異国風であり、体型は言い表せないが、ものすごいとだけ言っておこう。普通にモデルとかでも十分名が売れて生きていけそうな程だ。


 あー、でもこの世界は胸が大きいとだめなんだ。


「こんなところでは、暑いですし中に入ってください」

「わかりました」


 まず中に入ってもらい、テーブルに着く。


「それで、あなた様が蒼様でしょうか?」

「はい。僕が蒼です」


 僕の事をじっと見つめてくる。すごい綺麗な青色の瞳。


「あ、あのそんなに見つめられると恥ずかしいです」

「あ、ごめんなさい。綺麗だったので」

「き、綺麗ですか。ありがとうございます」


 お互いなんだか恥ずかしくて俯いてしまう。


「ご、ごほん。さて、あなたが男性警護官ということは分かりましたけれど、あなたの実力は本物なの?」

「か、かあさん?」

「蒼ちゃんは黙ってて」

  

 母さんにそう言われてしまったので、静かにする。


 あと、梨美。あんまり膝を必要に撫でないでくれ。


「こんなこと、証明になるかわかりませんが、男性警護官学校を首席で卒業しましたし、あらゆる格闘技をすべて最上段まで達成し免許皆伝を授かっています」

「ふ、ふーん。そんな人がなんで蒼ちゃんを?そういう人はもっとすごいハリウッドのスターとかを守るのんじゃ?」

「昨年度はそうでしたが、私にはあの方は合わなかったのです」


 そう言って、白銀さんはすっと目をそらした。


「訳アリってことね」

「……はい」

「まぁ、でもそれだけの実力があるなら蒼ちゃんのことは十分守れるか」

「はい、任務ですので与えられたものはこなします」

 

 母さんと白銀さんが見つめ合う。


 そして、お互い緊張を解いたのか母さんがふふっと笑う。


「ごめんね。私、蒼ちゃんの事になるとすごく慎重で」

「大丈夫です。こんなすごく優しい殿方は初めてですから。それに凄く格好いいですし」

「そうでしょ?私の自慢の息子だからね」


 僕、まだ白金さんと一回もお話ししてないんだけれど。


「じゃあ、母さん。この人でいいでしょ?」

「うん。いいかな」

「改めて、よろしくお願いします。白金さん」


 僕がそう言って手を差し出すと、驚いたような顔をして僕の顔と差し出された手を見る。


「し、白金さん?」

「やっぱり、あなたは素晴らしい人です」

 

 そういって優しく握り返してくれる。


「はーい、そこまで。お兄ちゃんは私のお兄ちゃんだから」

「そうですか。でも、私は蒼様のですから。蒼様の所有物です」

「違うし、ただの護衛だし」

「いえ」


 何故か梨美と白金さんの言い争いが始まる。

 

 我が家に新しく人が増えました。

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