第38話

「文化祭、お疲れ様ー!!」

「いえーい!!」


 某カラオケ店の中で、祝杯を挙げる。


 文化祭での僕たちの喫茶店は大盛況で終わった。来てくれた人は、みんな笑顔で帰ってくれたから嬉しかったな。


 途中、ハプニングもあったけれど最後には笑えていたし。


「まじで、祖師谷君ありがとね」

「いや、みんなが頑張ってくれたからだよ」

「いやいや、謙遜しないで。本当にありがと」


 みんなが讃えてくれるけれど、衣装とか頑張って用意してくれたからこそだったから、みんなの方が謙遜しないで欲しい。


「じゃー、まず。誰が歌う?」

「はいはーい、私が歌いまーす。聞いてください、あなたを愛してる、です」


 そう言って、クラスの女の子。確か、咲月愛華さんが、僕の方へウインクしてくるので、手を振って返す。


 愛華さんの歌を聴いていると、由利さんが傍に静かにやってきてクイッと、袖を引っ張ってくる。


「ね、ねぇ。祖師谷君」

「何?」

「あの時、助けてくれて本当にありがとね。私、嬉しかった」


 そう言って、頬を染めながら見つめてくる。


「無事でよかった」

「痛くない?」


 そう言って、恐る恐る僕の頬に触れてゆっくりと撫でる。


「痛くないよ、大丈夫」

「私も心配」


 そう言って、いつの間にか来ていた愛梨さんも由利の手に自身の手を重ねる。


「無茶しちゃダメだよ。嬉しかったけれど」

「そうだよ。ダメ。あんな奴ら、どうってことないんだから。私は、祖師谷君が傷つく方が嫌だな」

「私も、祖師谷君が傷つくところは見たくない」

「......うん、でも、僕も二人が傷つくところは見たくないから」


 この世界では、女性と男性の立場が逆だけれど、前世の価値観を持った僕からするとやっぱり二人が傷つくのは見たくないから。


「もぅ、祖師谷君。格好良すぎ」

「そんなの、もっと好きになる」

 

 うっとりとしている由利さん。


 なんだか、あの件から文化祭中ずっとこんな感じだったような。


 愛理さんは、僕の方へきてそして......


「しゅき」


 真正面から抱きしめてきて、首に腕を回される。


「ちょ、あ、愛梨!?」


 由利さんが焦ったような声を出す。


「えー、いいなー。愛梨さん。私たちも混ぜて」

「ずるい、ずるい」

「っていうか、最近。由利と愛梨、祖師谷君とずっと一緒でうらやましい」


 続々と、僕の方へと体を寄せられてぎゅうぎゅうになる。


「祖師谷君、しゅき」

「結婚して」

「だーいすき」


 あらゆる方向から、ささやかれ、愛梨さんはぎゅっとさらに抱きしめて離さない。


「だめだよ、祖師谷君。祖師谷君は私と一緒なの」


 由利は、耳元でそう囁いてくる。

 

 まずい、なぁ。


 お店側からのラスト十分の通知が来るまで、ずっとクラスの子達に密着されたままだった。


 この時の僕は、家に帰った後の事までを考えていなかった。


 

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