第31話 お兄ちゃん

 突然だが、私のお兄ちゃんは格好よくて、優しくて最高である。


 何を言っているんだ。男がいる、そして、それが格好良くて優しい?馬鹿をいうな。


 そう思う人もいるだろう。


 けれど、事実、私のお兄ちゃんはとんでもなく格好いいのだ。


 おかえり、そう私が言うと当り前のようにただいまと言ってくれる。


 頭を撫でてくれる、膝にも座らせてくれる、甘やかしてくれる。


 私が、良いことをすれば褒めてくれるし悪いことをしたら優しく、愛をもって怒ってくれる。


 お兄ちゃんが、倒れて記憶を失ったって聞いたときはどうしようと思っていたけれど、今は……こんなことを言ってはいけないと分かっているんだけれど、前のお兄ちゃんより、今のお兄ちゃんの方が何倍もいいと思ってしまっている。


 前までのお兄ちゃんは、小さいときは一緒に遊んでくれていたりしていたが、段々と私とお母さんの事を邪険に扱うようになり、私も段々と距離を置くようになった。


 だけれど、ほとんどが男性なんていない家庭ばかりだからお兄ちゃんがいるだけでも幸せだったのに……。


 記憶を失ったお兄ちゃんは女子の理想を固めたような人だった。


 本当に最高で、完璧なお兄ちゃんだからこそ…心配になる。


 配信する、とか、学校に行くとか言うし…。


 外は獣でいっぱいなんだよ?理性のない野獣が解き放たれているの。そんなところに、お兄ちゃんという極上の食事が目の前に出てきたら、食べられちゃうに決まってる。


 だから、私はお兄ちゃんを守るの。


 お兄ちゃんには危機感が足りないし、優しいから付け込まれちゃうから。



「ただいま」


あ、帰ってきた。


 最近は、文化祭とかで忙しいから一緒に帰ることはできていなくて物凄く寂しい。


 ので、全力でお迎えをするんだ。


「おかえり、お兄ちゃん」

「ただいま、梨美」


いつも通り格好いいお兄ちゃんだ。


でも、やっぱり…


「お兄ちゃん、また…?」

「り、梨美。文化祭が終わるまでは我慢して、お願い」

「はぁ…わかってる」


文化祭で、クラスの人と関わる機会が増えちゃうから、匂いが付くのも分かるけれど…。


 理解していても、心は納得なんてしない。


 だって、私のお兄ちゃんだから。


 他の人になんて、触れて欲しくもないし、本当は視界にも入れたくない。


 だけれど、我慢しなくちゃね。


 私はいい妻だから。


 でも、我慢した分の我儘は許して、ね?


「一緒に今日も寝てくれる?」

「うーん」

「くれるよね?」

「う、うん」


 大好き、お兄ちゃん







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