第27話

「ただいまー」


 服飾部の人たちに、体を隅から隅まで測られて「む、むねの筋肉かたぁ。さいこぉ」とぺたぺたされて「こ、これは、図るためにしていることだから。は、はんざいじゃないから」と鼻息荒くまさぐられたら、すこし疲れる。


「…おかえり、お兄ちゃん」

「た、ただいま?梨美」


 真っ暗な、僕しか映していない瞳でじっとこちらを見つめる。


 最近忙しくて、帰りは一緒に帰れていないどころかあんまり構ってあげられていなかった。

 

 ずんずんと僕の方へ近づいてきてすんすんと鼻を鳴らす。


「…お兄ちゃん、臭い。臭いよ?どこでこんな香水買ったのかな?私が新しい香水プレゼントしてあげるね?私と一緒の物」

「あ、ありがとね?」

「あ、あとお風呂に早めに入ってきてね?」


 これは、早めに入ってきた方がよさそうだ。


 部屋に荷物を置いて、お風呂場に直行する。


 体を洗っていると……


「お兄ちゃん、入るね」

「え、ちょ、待って」


 問答無用で入ってきたのは梨美だ。


 そのまままた、すんすんと鼻をならして


「まだ、臭いよ?もっと入念に洗わなきゃ、ね?」


 そう言って、自身にボディソープを塗りたくりその体ごと僕に押し付けてくる。


「どう?お兄ちゃん」

「ま、まって。梨美」

「だーめ。罰なんだから」


 ぎゅう、ぎゅうと胸をわざと強調するように、押し付け耳元で「はぁ、はぁ」と息を吐く。


「気持ちいい?お兄ちゃん」

「き、気持ちいけれど」

「ふふ、良かった。じゃあ、前もしちゃおうかなぁ」

「そ、それはダメ、絶対」

 

 今、僕はタオルも何もつけていない。そして、それは梨美もだ。


「今日は、ずっと一緒にいてあげるから」

「……しょうがないなぁ。約束、だよ?」

「うん」


 どうにか、梨美との一線は超えずに済みそうだ。


 前はどうにか自分で洗い、湯船に浸かる。


「お兄ちゃん、もっとそっちに詰めて」

「う、うん」


 髪と体を洗い終わったのか、浴槽に入ってくる。


「このまま......入っちゃったらどうしよ?」


 蠱惑的な笑み浮かべてこっちを見る。


「だ、ダメだからな?そういうのは」

「はーい、わかってまーす。でも、今日は一緒に寝てもらうよ?約束だからね?」

「分かってるよ。それと、ごめんな」

「……なにがぁ?」

「最近、遊んであげられなくて」

「それが、わかっているならいいけれど。私、お兄ちゃんの事大好きだから。自分でも信じられないくらい」

 

 そう言って、ふふっと笑う。


「でも、他の女とあんまりにも近すぎるのはよくないと思うよ?」


 急に真顔でそう言われて、背筋に寒気が走る。

 

 梨美には逆らえないなと、心底そう思った。






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