講義

 しばらくして氷は溶け出した。冷え切った彼らは口を動かし始めた。

 二人ともお互いが言ったことに対して反省をした上で、お互いのことを悪いと言おうと口をもごもごさせていた。

 しかし、昼食の時間も終わりにさしかかり、拓実と勇人は、次の時間は互いに違う講義を受けているということもあり、それぞれの教室に向かった。

 この時間、拓実の受けている講義はものすごいつまらないもので、受講者の過半数が開講早々に寝ているような講義だ。

 拓実はそんな講義を楽しみに聴いている。講義をする教授の話が個人的に好きであるのと、みんなが聴いていないなか、自分だけが話を聴ける。という特別な感情、いうなれば優越感に浸れるからだ。

 だが、忘れてはいけないのはこの講義の受講者の過半数は寝ている。と言うことだ。それはつまり、拓実以外にも一人、二人は起きている受講者がいると言うことだ。実際に、この講義の受講者の中には片手に入るぐらいは、起きて講義を受けているものはいる。その中に、田村風見もいた。

 拓実は教授の一方通行な話を興味津々に聴きながら、周りを見渡す。周りは寝ている受講者多く、起きてる受講者は出る杭のように目立つ。

 拓実の座っている席の丁度右側、席は二つほど離れているが、そこには田村風見は座っていた。そこで拓実はイタズラな気持ちで田村風見のことを見つめはじめた。

 最初、彼女はずっと斜め下を眼を見開きながら見ていた。拓実は彼女が自分の視線に気づいている、と考えた。一度、目を外し、数分経った後に何の前触れもなくまた、田村風見をみた。すると、彼女は反射的に拓実の方を見てしまった。拓実は田村風見を眼を見開いて見つめた。彼女も、眼を見開いて固まってしまって、見つめ合ってしまった。

 お互いが見つめ合っていた時間は、実際は十秒ほどだったが、拓実には三分ほどに感じた。

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三ヶ月の命 さゑな @SayenaC

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