マイナスを観測する
拓実は学食で飯を食うわけでもなく、ただ水を口に含みながら、女子に目をくれている。
言わせてみれば、いい男というのは飯を食わずにただ飲のみながら、女を見つめるのだという。
先に二人の沈黙をかき消したのは、拓実の方だった。
「君には言っていなかったけど、実は最近、目を合わしてくれる女子がいるんだよね…」
勇人は優しい。何度同じ話をされようと、何度その結果が同じであろうと、話を真面目に聞いてくれる。
「どんな子なんだ?その子は。」
勇人が聞くとと拓実はそっぽを向きながら「みんなからしたら高嶺の花だね。」と言った。
勇人は素直に喜んで頷いた。しかし、同時に勇人の中には拓実の言った「みんなからしたら」という言葉に疑問を持った。
勇人は素直に聞いた。
「みんなからしたらって、お前からしたらそれは、高嶺の花じゃないってことだよな?」
続けては勇人は言う。
「みんなが思う高嶺の花って言われたら、だいぶ限られてくるよな…茜さんとか、菜々実さんとか…もしかして田村さん?」
田村さん、と言う女性は、容姿は普通であるが、身長が161センチほどで、勉強もそこそこできるが、人と話すことはなく、女友達といるときもずっと黙っているような人だ。
拓実はしばらく考え込んだうちに、こう答えた。
「我が校の女神たち…その中でも一際存在が薄い…そう、田村風見。彼女なんだよ。」
二人はしばらく黙って笑いを堪えた。
「おい拓実…女神たちって…おまえ…」
勇人はもう、笑いを堪えるのが限界だ!その硬い口のダムから笑いの放流がいまされようとその時!田村風見が彼らの隣をスゥッと通ったのだ。
二人とも一気に肝が冷えた。血の気が引いた。その日はいつもより暑いって日なのに、彼らの体感温度はマイナスを記録した。
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