第23話 熱田神宮と競馬(^^)ノ
早朝、私達は、ホテル近くの小洒落た喫茶店で、ボリューム満点のモーニングを楽しんだ。
名古屋は、モーニングの聖地なのだ。
サラダとスープ、ウインナーにスクランブルエッグ、ゆで卵に、あんことバターがたっぷりなトースト。
これでワンコインとは、名古屋恐るべしだな。
幸運な事に、お客さんは、我々だけだったので、夫と竹取物語について話しをした。
朝っぱらから何の話しをしてるのだろうと、お洒落な店員さんに思われそうなので、なるべく声のボリュームを落とした。
竹取物語は、藤原不比等(ふじわらふひと)、阿倍御主人(あべのみうし)、大伴御行(おおとものみゆき)、石上麻呂(そのかみのまろ)、多治比嶋(たじひのしま)と言った実在の人物が登場する。
私は、その事を踏まえ、竹取物語って、竹取の翁や、かぐや姫にもモデルがいるのかな、と夫に尋ねた。
夫は、古事記に、その名もズバリな迦具夜比売命(かぐやひめ)と言う人物がいるよ。
この人は、第12代の垂仁天皇の后(きさき)なんだけど、恐らく、この人は、竹取物語に登場する、かぐや姫のモデルなんだと思う。
迦具夜比売(かぐやひめ)は、曽祖母の名が竹野媛(たけのひめ)で、竹を連想させるし、父親の大筒木垂根王(おおつつきたりねおう)は、筒状になった木と言う意味の名前だから、やはり、竹取物語のかぐや姫は、この古事記に登場する迦具夜比売(かぐやひめ)がモデルになっているんだと思うよ、と言った。
他には、日本書紀の垂仁天皇の時代に竹野媛(たけのひめ)と言う人物の記載があるね。
この人は、五人姉妹で垂仁天皇に嫁ぐ事になるんだけど、一人だけブサイクだからと送り返され、それを恥に思って自殺しちゃうんだ。
かぐや姫は、五人の貴族に求婚されるから、この人の影響もあるかもね。
夫は、その他には山城の賀茂氏の祖になる賀茂建角身命(かもたけつのみ)の子孫に賀具夜媛命(かぐやひめ)がいるけれど、この人は系図にしか現れないから、よく分からない、と言った。
そもそも、竹取物語って、乙巳の変に対して怒っているからこそ書かれたものだと思うけど、著作者は不明だよね。
でも、乙巳の変で没落、滅亡したのは蘇我氏の本家だから、竹取物語の著者は、恐らく、蘇我の本家筋と、何らかの深い関係があった人物だと思うんだ。
没落した、蘇我氏と言うのは、三百年以上も生きたと伝わる、武内宿禰(たけのうちのすくね)を祖としている一族なんだよね。
武内宿禰(たけのうちのすくね)は景行、成務、仲哀、応神、仁徳と言う、5代の天皇に仕えた人で、日本のお札にもなった伝説的な人物だよ。
この人は、神功皇后の功臣で審神者(さにわしゃ)として非常に有能な人だったらしい。
私は、聞き慣れない言葉の審神者(さにわしゃ)に戸惑っていると、夫はそれに気付いたのか、審神者(さにわしゃ)って、神を降ろす人の側にいて、降臨した神の神意を解釈して伝える人の事だよ、と教えてくれた。
神功皇后は、神を降ろす巫女であり、第14代仲哀天皇の后(きさき)だけれど、どうも、武内宿禰(たけのうちのすくね)との仲が怪しかったんだよね。
神功皇后は、住吉大神(すみよしのおおかみ)と密事ありと言われてるんだけど、住吉大神(すみよしのおおかみ)って、いつも武内宿禰(たけのうちのすくね)と、神功皇后がいる時に現れるから、住吉大神(すみよしのおおかみ)って実は、武内宿禰(たけのうちのすくね)の事じゃないかと言われてるんだよ。
まあ、本当だったら、爺さん元気だなって感心するけどさ。
あと、神功皇后の先祖に、田道間守(たぢまもり)と言う人物がいるんだけど、この人は、新羅からやって来た天日槍(あめのひぼこ)って言う人の玄孫(やしゃご)で、長寿を願う垂仁天皇に、常世の国へ行って橘の実を取って来いと命じられたんだ。
田道間守(たぢまもり)は何年もかけて常世国へ辿り着き、橘の枝と実を入手して、ようやく持ち帰る事に成功するんだけど、でも、帰って来た時には、すでに垂仁天皇は亡くなっていて、それを聞いた田道間守(たぢまもり)は、天皇の御陵の前で自殺してしまうんだよね。
この話って、明らかに徐福の渡来伝説の影響があるよね。
だとしたら恐らく、朝鮮半島からやって来た天日槍(あめのひぼこ)って、徐福と何らかの関係のあった人なんだと思う。
私が、ああ、天日槍(あめのひぼこ)って角が生えてる人だっけと言うと、夫は嬉しそうに、そうそう、と言った。
神功皇后は、朝鮮に出兵して朝鮮半島の三韓を征伐したと言われているんだけど、その際、男装をしているんだよね。
神功皇后は、角子(みずら)を結ったと言う記載があるから、やはりこの人も鬼として表現されているんだと思うよ。
そもそも、角子(みずら)頭って、角(つの)と書く訳だし。
こうした事を踏まえて考えると、竹取物語のかぐや姫って、垂仁天皇の后(きさき)の迦具夜比売(かぐやひめ)や垂仁天皇に追い返された竹野媛(たけのひめ)だけでなく、仲哀天皇の后(きさき)の神功皇后の持つ背景が、かなりの部分で投影されていると思うんだよ。
だとしたら、かぐや姫に魅了されてしまう竹取の翁だって、武内宿禰(たけのうちのすくね)の投影だって話しだよね。
竹取物語って、万葉集や、それ以前に編纂されたいくつかの書物の影響があるとされてるけれど、万葉集の竹取翁譚(たけとりのおきなたん)には、明らかに翁が天女に求愛してる歌があるからね。
そもそも、竹取物語のかぐや姫って、不倫の罪で地上に流罪となったとされている訳だし、かぐや姫は、男を狂わす魔性の女だったんだろうね、と夫は笑顔で言った。
なるほどな。
幾つか知ってる話しもあったが、大学で竹取物語を学んだ私よりも、夫の方が竹取物語に詳しいとは、何だか腹が立つな、と私は思った。
夫は、まあ、全て憶測に過ぎないけど、竹取物語を書いた人が込めた意図は、ある程度は読み取れたんじゃないかな、と恐らく冷めてしまったであろうコーヒーを飲みながら言った。
それから、しばらくして、私達は、今回の目的地の一つである熱田神宮(あつたじんぐう)へと向かった。
熱田神宮(あつたじんぐう)の近くにホテルを取ったので移動時間が少なくて助かる。
因みに、熱田神宮(あつたじんぐう)は、三種の神器の一つ、草薙の剣を祀る神社である。
熱田神宮(あつたじんぐう)は、元旦の早朝、宮中で天皇が天地四方の神祇を拝する儀式である、四方拝の一つにも数えられる重要な神社だそうだ。
さすが、伊勢神宮や出雲大社に匹敵する規模の神社。
鳥居を潜ると空気感がまるで違っており、早朝の清々しさと、境内の荘厳さが相まって、私は身が引き締まるのを感じていた。
夫は、悩みがある人は、毎朝毎朝、神社に行くと良いと言っていた。
信仰心があろうがなかろうが、毎朝神社に行くと必ず心が軽くなる。
神社で柏手を打って祈るだけで、その人に溜まっている邪念の、かなりの部分が神様の所に行くような仕組みになっているから、それを使わない手はない、と言った。
夫曰く、神社は、コスパ最強のカウンセラーだそうだ。
確かに、参拝を終えた後は、何故かよく分からないが、心が軽くなっている気がする。
心が軽くなった所で、次は私のたっての希望である中央競馬場へ向かおうではないか。
せっかく旅行に来たのに、そんな毎回毎回、神社ばかり行けるかい、と私は心の中で毒づいた。
いかんいかん。
せっかく心が洗われたのに、また邪念が溜まってしまう。
しかし、名古屋に来たからには、今日は競馬場で一日遊び倒すぞ。
私は、ギャンブル好きではないが、競馬場へ行くのは好きである。
カッコいい馬を眺めているだけで、幸せな気持ちになるし、耳に鉛筆を挿したおじさんを観察するだけでも、十分に楽しめる。
もちろん、お金もかけるが、1レース最大で300円と決めている。
だから、必然的に穴馬が多くなる。
なので、殆ど当たらない。
でも、そんな事は関係ないくらい競馬場は楽しいのだ。
競馬の全く分からない夫に、説明をしながら幾つかの馬券を購入した。
夫は馬連だの、3連単だの、連勝だの、3連複だの訳が分からんと言っていたが、素人は単勝か馬連だけにしておけと、言っておいた。
フードコートでハイボールを飲み、唐揚げを食べながらモニターで、レースを見る。
まあ、当たらないですよ。
でも楽しい。
パドックで馬の様子を見ると、夫が、馬にもイケメンとか、かわいいがあるんだねえ、と言った。
ふん、ようやく分かったか。
夫は、この馬の毛並みがどうとか言って、絶対に勝つと言っていたが、いざ出走すると12着だった。
でも、夫も楽しそうだから良いか。
こうして、名古屋での一日が終わった。
結局1レースも当たらなかった。
負け惜しみに聞こえるかも知れないが、そもそも競馬場は馬を見に行く所で、お金を稼ぎに行く所ではないのだ。
お金は、きちんと労働の対価として受け取るべきである。
まあ、負け惜しみだな。
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