第22話 海幸山幸カインとアベル(^^)ノ

正午になる前には、美保神社から出立したので、名古屋には遅くとも、夜の七時までには到着するだろう。


道中長いが、夫は車の運転が好きなようなので、眠くならないように、夫の好きそうな話しを沢山の話しをした。


夫は、あのさ、記紀に書いてある、海幸彦と山幸彦の神話ってさ、実は大和政権による九州の隼人族に対する服従の物語なんだよ、と言った。


へえ、そうなんだ。 


山幸彦の子孫が天皇家に連なり、海幸彦の子孫が隼人族に連なる訳だけど、隼人族からしたら、恩を仇で返されると言う、あまりにも屈辱的な内容だよね。


釣り針貸してあげたら、呪われるって酷い話しだよ。


まあ、確かに。


だからなのか分からないけど、隼人は日本書紀の編纂時期に大規模な反乱を起こしてるんだよね、と言った。


私が隼人族ってどんな人達なのかと聞くと、夫は、隼人族は凄いよ、叫び声によって、悪霊を鎮める事が出来る一族だよ、と言った。


えっ、そんな事って、本当にあるの、と訝しがって私が聞くと、夫は、あると思うよ、だって、記紀にそう書いてあるから、と答えた。


それから、夫は、海幸彦と山幸彦の日本神話と、聖書に書かれている物語の類似性を語った。


日本神話に登場する海幸彦と山幸彦って、天孫の邇邇芸命(ににぎ)と木花咲耶姫(このはなさくやひめ)との間に産まれた兄弟だよね。


聖書だと、人類の始祖であるアダムとイヴの間には、カインとアベルと言う二人の息子がいたと記されているんだ。


エデンの園を追放されたアダムとイヴだが、その後、この夫婦は、二人の息子を授かったんだよね。


二人の息子の兄、カインは農業を生業とし、弟のアベルは牧畜を生業とした。


ある時、二人は神に捧げ物をする。


兄のカインは、土から採れた作物を神に捧げ、弟のアベルは、羊の初子(ういご)の中から最良のものを捧げた。


神は、弟のアベルの捧げ物は喜んで受け入れたのに、兄であるカインの捧げ物には目もくれなかった。


その為、カインはアベルに激しく嫉妬して、アベルを殺してしまう。


これが、人類最初の殺人となったそうだよ。


神は、兄であるカインに、弟アベルの行方を問うが、カインは知らないと嘘をついた。


これは、人類がついた最初の嘘だと言うよ。


結局、この嘘が原因で、カインはエデンの東にあるノドの地に追放されてしまい、神は、今後、カインが耕作を行っても、作物は収穫出来なくなる事を伝えたんだって。


どう、この話しって、海幸彦と山幸彦の神話と近いディティールでしょ。


しかも、このカインとアベルの物語って、農耕民と放牧民との争いと、遊牧民の農耕民に対する優越性を正当化するものと、解釈する向きもあるんだって。


次に、ヤコブとエサウの物語だね。


ヤコブとエサウって言う兄弟は、イスラエルの民の始祖であるアブラハムの孫にあたる人達だよ。


夫は芝居がかった調子で、ヤコブとエサウの物語を話し始めた。


昔々、エサウと言う狩人がいました。


エサウは、父であるイサクから、非常に愛されていました。


ある日、エサウの双子の弟であるヤコブが、レンズ豆の煮物を作っていた所、兄であるエサウがお腹を空かして猟から帰って来ました。


兄のエサウは、弟のヤコブに、私は飢えて疲れているから、その赤い豆を食べさせてくれと懇願しました。


ところが弟のヤコブは、エサウに長子の特権とレンズ豆の煮物を交換しよう、と持ちかけます。


お腹の空いたエサウは、長子の特権を軽く見てか、ヤコブの提案に軽く応じてしまいます。


こうして、弟のヤコブは母のリべカと計り、年老いて目の悪くなった父イサクに、自分がエサウだと偽り、長子の祝福を騙し取ってしまうのです。


長子の祝福を受けられなかったエサウは、激怒し、ヤコブを殺そうと考えました。


母であるリベカは、危険を察知して、リベカの兄ラバンの元へヤコブを逃亡させました。


その後、エドムの野で暮らしていたエサウのもとに、財産を築いた弟のヤコブから再会を求める使者が訪れます。


エサウは四百人の供を連れて、これを迎えた為、ヤコブは恐れ、ひたすら低姿勢でエサウの元に向かいました。


しかし、ヤコブの恐れは杞憂に終わります。


エサウはヤコブとの再会を喜び、二人は共に泣いて和解しましたとさ、おしまい。


ね、細かい部分は違うけど、聖書に書かれたこの二つのエピソードって、海幸彦と山幸彦の神話と結構近い部分があるよね、と夫が言うので、私は、まあ、確かに近いかもね、と答えた。


海幸山幸の話しって、聖書を知らなければ、書けないような内容かも知れないなぁと思ったが、あんまり、これは絶対そうだ、とか信じちゃうのも、それはそれでちょっと違うだろう。


名古屋の宿泊先に着いたのは、きっかり夜の7時だった。


これじゃ観光なんだか、移動なんだか良く分からない。


疲れた。


夜は、ホテル近くの、手羽先の有名な居酒屋で一杯やった。


手羽先を余す所なく食す方法を、昔、名古屋出身の友人に教えてもらい、それを実践して見せた。


夫は、感動して早速試していた。


いやあ、手羽先にはハイボールですわね。

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