第8話 大山祇は徐福なのか(^^)ノ

ひと息ついて、夫は秦氏の説明を続けた。


秦氏って大きく分けると、二つの系統に分けられると思うんだ。


一つ目が、秦野の秦氏のように、秦の始皇帝の命で日本に渡来を果たした、徐福集団にルーツを求める秦氏。


二つ目が日本書記にもあるように、第15代の応神天皇の御代に、百済から弓月君(ゆずきのきみ)に率いられてやって来た、秦の始皇帝の血を引くと自称する秦氏。


夫は、この二つが秦氏の主な系統になると語った。


まあ、有力な豪族である秦氏を、とりあえず名乗ってみましたの、成りすまし秦氏もいるとは思うけどね、と言って夫は笑った。


ちなみに、日本の古墳が大型化したのは、三世紀に入ってからだそうで、この古墳の大型化も、彼ら渡来民の技術によるものではないかと考えられているそうだ。


私は、じゃあ、三つ目は兎も角として、同じ秦氏でも、一つ目の徐福集団と、二つ目の秦の始皇帝の子孫を自称してる秦氏は、違う一族って事なの、と夫に聞いてみた。


史記には、鼻が高く、目が長く、くまたかのように胸が突き出しているって、始皇帝の風貌が記されているよ。


こうして考えると、始皇帝は、当時の秦人とは違った、イスラエル人とかに近い容姿だったのかもね。


じゃあ、始皇帝もイスラエルの人だったのかな、と私が言うと、夫は、秦の国の隣りにはアレクサンダー大王が残したバクトリアと言う国があったんだ、と答えた。


バクトリアは、アレキサンダー大王の東征に従軍した、ユダヤの十二支族であるシメオン族が現在のアフガニスタンに建国した国だと言う。


始皇帝は、その国の王族と言う説があるみたいだから、可能性はあるんじゃないかな、と答えた。


夫は、とりあえず、山梨の富士山周辺にある伝承と、ここ秦野の秦氏の伝承は、共通していて、徐福集団の末裔を自称してるね、と言った。


山梨に伝わる徐福伝説だと、徐福は富士山麓に不老不死の仙薬を求めるも結局は見つからず、絶望の果てに富士山の麓で、徐福は亡くなった。


しかし、その後も、徐福は鶴になって麓の村人を守ったと言う伝承があると言う。


ちなみに、山梨の都留(つる)の地名は、そこから取られたそうだ。


更に、富士吉田市には、鶴となった徐福の亡骸を埋葬したと言う、鶴塚もあるらしい。


私は、ふと、鶴の恩返しの民話を思い出した。


ねぇ、鶴の恩返しの話って、鶴が機織(はたお)りをしてお爺さんに恩返しをする話だよね。


そうだね。


もしかして、秦氏って鶴を象徴としているんじゃない?


夫は少し考えると、鶴が秦を連想させるって事?


まあ、あり得る話だとは思うけど、それだけだと少し論拠に乏しいんじゃないかな、と言った。


まあ、確かにそうかも知れない。


実は、この大山祇神(おおやまづみ)の正体は、徐福なんじゃないかと言う説があるんだよ。


まあ、僕も、この大山祇神(おおやまづみ)って、徐福なんじゃないかと思ってるんだけどね。


弓月君(ゆずきのきみ)に率いられてやって来たと言う秦氏の族長に、秦河勝(はたのかわかつ)と言う人物がいるんだ。


この人物は、聖徳太子のブレインだとか、パトロンだとか言われている、古代の有力豪族なんだけど、夢で大山祇神(おおやまづみ)から、お告げを貰うと言うエピソードがあるんだよね。


なので、恐らく弓月君(ゆずきのきみ)の子孫と称する秦氏の族長も、この大山祇神(おおたまづみ)を信奉していたと思うんだよね、と夫は言った。


なるほど。


だとすると、徐福集団を自称する秦氏と、弓月君に率いられて来た秦氏は、元々同じ一族で、どうやら、先に入った集団が作った国があるから、我々も後に続こうってなったのかも知れないねと、私は言った。


間髪入れずに夫は、そもそも、秦氏は、天皇によって集められた小部族の連合体だよ。


でも、秦氏の族長クラスは、いわゆる救世主の信仰を持っていたみたいなんだよね。


京都の太秦にある広隆寺には、国宝の弥勒菩薩があるよね。


ああ、あのアンニュイな感じの?


そうそう、あのアンニュイな感じの。


笑いながら、そもそも、弥勒菩薩って56億7千万年後に衆上を救うと言う仏だよね。


これは、元々が仏教の考え方ではなく、仏教の中に取り入れられた救世主の信仰なんだよ。


秦氏は、聖徳太子を支えていたグループだけど、聖徳太子って、産まれた時から喋るとか、沢山の人の話を聞き分けるとか、超人的な能力を持っていた上に、家畜小屋で産まれた事も、出生がキリストと類似しているって事だからね。


じゃあ、聖徳太子はキリストって事?


まあ、そうとも言えるんじゃないかな。


あと、秦氏と関係が深い神社に、宇佐八幡宮があるよ。


夫は、隋の時代を記した歴史書である「随書」に、大和訪問使節の裴世清(はいせいせい)が筑紫を出て、次に行ったとされる国に、秦王国があると力説し、その場所が九州なら、宇佐がそれに該当するだろうと言った。


宇佐で祀られていた神は、八幡神と言い、ご神体は八本の幡(はた)であると言う。


宇佐神社の始まりは、秦氏が信仰した渡来神を祭った神社だが、元々は、神奈備山の香春岳(かわらだけ)を祀っていたらしい。


詳しく語る夫に、若干引きながら、私は随分詳しいねと言った。


夫は、かつて叔父さんと二人でこの宇佐八幡に来た事があるからだと答え、そもそも、八幡神って第十五代の応神天皇な事なんだよねと、話しを続けた。


その第十五代の応神天皇は、別名を胎中天皇(はらのうちにましますすめらみこと)と言って、産まれる前から天皇になる宿命を背負った天皇だったそうだ。


この応神天皇の父親は、仲哀天皇ではなく、住吉神の子と言われており、これも、神の子であるキリストの出生と一致する。


夫は、お茶を一口含んだ。


少し考えながら、応神天皇を産んだ神功皇后は、聖母(しょうも)と言われており、この人は、聖母マリアに該当する。


神功皇后は三韓征伐と言って、朝鮮半島を攻めたと伝わるが、その時、既に応神天皇を身籠っており、出産予定日をとうに過ぎてるのに、腹に石を巻いて、応神天皇の出産を遅らせ、新羅、百済、高麗を見事、服属させた事から、神功皇后は、聖母(しょうも)と称されたと言う。


夫がそう語るのを聞き、私は予定日を大幅に過ぎたり、異様な出産をした子は、鬼になると言う民話を思い出していた。


じゃあ、弓月君(ゆずきのきみ)に率いられて来た秦氏は、キリスト教を信仰するイスラエルの人って事なの?


だとしたら、やっぱり道教の方士徐福とは無関係なんじゃないかなと私が言うと、それがそうでも無いんだなと、夫が嬉しそうに言う。


徐福は、イスラエルのヨセフ族の関係者だと言う説があるんだよ。


私がヨセフ族について尋ねると、ヨセフの子孫の事だよと言った。


ヨセフってのは、兄達にめっちゃ虐められるも、夢を解き明かす事でエジプトの宰相まで上り詰めたと言う、創世記に登場する人物だよ。


徐福も、もしかしたら、ヨセフと同じように、夢占博士として始皇帝に重用されていたのかもね。


ちなみに、ここの麓からすぐ近くに、ヨセフのお墓と言われてる心敬塚(しんけいづか)と言う古墳があるよ。


そんな馬鹿な、と私は思ったが、夫は、まあ、ヨセフが生きた時代とは開きがあるから、ヨセフのお墓ではないとは思うけどね、と言った。


でも問題はそこじゃない。


そもそも、そこがヨセフの墓だと言われたのはそんなに昔の話しじゃない。


そう言い出した人も明らかにヨセフの時代と、この古墳が作られた時代に隔たりがあるのは分かっていたと思うんだよね。


だとしたら、ここがヨセフの墓だと言わしめる、何かしらの力学が働いている筈だから、僕としては、そちらの方が気になるかな、と笑った。


ただ、徐福は様々な技術者や五穀の種を持って、船に乗って富士山にやって来たのだから、さしずめ大洪水の後に、アララト山に漂着したノアのようだよね。


じゃあ、その後、富士山の噴火で追い出されたと言う徐福の末裔は、エデンの園を追放されたアダムとイヴになるのかな。


笑顔でこちらを見る夫に私は、日本神話に記された、大山祇命についてもう一度、詳しく話して欲しいと言った。


大山祇命のエピソードの概要はこうだ。


天孫降臨の後、邇邇芸命(ににぎ)は、それはそれは美しい木花咲耶姫(このはなさくやひめ)と出会った。


木花咲耶姫(このはなさくやひめ)の父親である大山祇神(おおやまづみ)は、天孫との出会いを喜び、美しい木花咲耶姫(このはなさくやひめ)と醜い姉の磐長姫(いわながひめ)を天孫の妻にと差し出した。


しかし、邇邇芸命(ににぎ)は美しい木花咲耶姫(このはなさくやひめ)だけを娶り、醜い磐長姫は大山祇神(おおやまづみ)の元へ送り返してしまった。


大山祇神(おおやまづみ)は嘆き、木花咲耶姫(このはなさくやひめ)を差し出したのは、天孫の子孫が花のように繁栄するように。


磐長姫(いわながひめ)を差し出したのは、天孫の子孫が岩のように永遠でいられるようにと誓約を立てたからである。


大山祇神(おおやまづみ)は、磐長姫(いわながひめ)を送り返したことで、天孫の子孫の寿命は木の花が散るように儚くなるだろうと告げた。


以上が、夫が語る大山祇神(おおやまづみ)のエピソードである。


私は、この逸話を聞いて、二つある禁断の果実の一つを食べた事で、人類に寿命が出来てしまったと言う聖書の逸話を思い浮かべていた。


私が聖書と、大山祇神(おおやまつみ)にまつわる神話がとても良く似ている、と夫に話すと、夫は急に真顔になって、そうだね、確かに同じような話しだねと短く答えたるのだった。

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