第32話


 あれから一週間後、ミキが学校に来た。


 ギプスはもうしていない。


「おはよ」


 机に座っていた俺にミキが言ってきた。


「もう、大丈夫なの?」


「うん!ほら、この通りだよ!」


 ミキはそう言って腕をぶんぶん回した。


「ならよかった」


「あのさ‥‥この前はなんかごめん」


 ミキは少し言いにくそうに、そして申し訳なさそうに俺に謝ってきた。


「別にミキが謝る事じゃないし」


「せっかく来てくれたのにあんな事言って‥‥俺ってサイテーなやつだ」


「気にするなって!!そうだ、今日遊ぼうぜ!」


 俺はミキをどうにか元気づけようと精一杯の笑顔で誘った。


「ありがと‥‥」


「ゆうやは俺から誘っておくからさ!」


「うん!」


 ミキの顔に笑顔が戻った。


 しかし、本当は内心気にしていた。俺に出来る事はないって言葉がずっと引っかかっているからだ。


「ところでゆうやは?」


「あー、今日おせーな」


「一緒に来なかったの?」


「うん。いつまで待っても来ないから俺一人で来たんだよ」


「珍しいな」


 そんな話をしていると、遅れてゆうやが登校してきた。遅れてと言ってもまだ朝の会の前だから遅刻にはならない。


「わりー!」


 そう言いながら息を切らしているゆうや。


「なんかあった?」


 俺が聞くとゆうやは息を整えてから話し出した。


「おう、ミキおはよ、もう大丈夫なのか?」


「うん、おはよー」


「なんで俺が遅くなったかと言うと‥‥‥」


 なんか深刻な話をするんだと俺とミキも思ったと思う。しかし、ゆうやの口から出たのは意外な言葉だった。


「実は‥‥‥俺のとうさんからミニバスしてみないかって誘われたんだよ」


「「ミニバス??」」


 俺とミキは声を揃えて言った。


「とうさんの友達がミニバスのコーチしてるらしくてさ、お前ら遊んでばっかなんだったら試しに行ってみたらどうだって」


 そうだ、これがきっかけで俺たちはバスケを始めたんだった。


「俺は行ってみようかな、ミキも行くだろ?」


「俺も行ってみたい!」


「じゃあとうさんに言っておくよ!」


「で、それが遅れた原因か?」


「だって俺が家を出ようとしてる時に話しかけてきたんだよー」


「てか、ミニバスっていつ?」


「今日だよ」


「今日?」


「だから出る前に言ってきたんだと思う」


「俺は大丈夫だけど、ミキは?」


「俺もどうせ暇だから大丈夫だよ」


「じゃあ決まりだな!帰って着替えたらすぐうち来いよ!」


「了解ー」


「わかった」


 こうして俺たちは放課後真っ直ぐ家に帰った。


「ただいまー」


「おかえり」


「ちょっとかあさん話があるんだけど」


「なに?」


 俺はミニバスに誘われた事を話して母の承諾を得る事が出来た。


 とりあえず動きやすい格好に着替えてゆうやの家に向かった。


 ゆうやの家に行くとミキは既に来ていた。


「おー、勢揃いだな」


 ゆうやの父親がそう言いながら嬉しそうに家から出てきた。


「こんばんは」


「こんばんは」


 ゆうやのとうさんは今とあんまり変わらないな。こう言っては悪いが昔から老けていて強面だ。


「じゃあ早速行くか」


「「はい」」


 俺たちはゆうやの父親の車に乗り込んだ。


 ゆうやが助手席で俺とミキが後ろの席に座った。車内はとてもタバコ臭かった。


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