第30話


 俺の記憶が正しければ確かこの時期、母と行ったスーパーでミキを見かけた事があった。


 その時話しかけようとしたが眼帯をして目を怪我しているようだった。またある日はマスクをしていたり、不思議に思ったものの、すぐに忘れていた。


 今思えば何か俺たちには言えない事情があったんだと思う。先生もみんなには風邪と言っているが、何か知ってるはずだ。


 俺は思い切って先生に聞く事にした。


「俺先生に聞いてみるわ」


「何を?」


「ミキの事」


「ミキの何を?」


「なんでもいいじゃん」


「じゃあ俺も行くー」


 そして、俺たちは帰りの挨拶をしてみんなが教室を出たのを確認すると先生の机に向かった。


「お前たちも早く帰れー」


「先生聞きたい事があるんですけど」


 俺は少し怖かったが、勇気を出して言った。


「なんだ?」


「あの‥‥ミキの事なんですけど」


「ミキがどうした」


「風邪って本当ですか‥‥?」


 聞いたその時、先生が一瞬困った顔をしたのを俺は見逃さなかった。


「本当ですかってそんな嘘つくわけないだろ?心配するのはいい事だが、あまり詮索するなよ」


 詮索するなよ?という事はやはり何か知っているのだろう。ただ、先生は簡単には口を割らないだろうから今度は自分で調べる事にした。


「分かりました。さようなら」


「お、おう。気をつけて帰れよ」


 俺があっさりしていたからか先生は少し拍子抜けしていた。


 俺とゆうやは学校を出た。


「おい、りょうや、何がしてんだよ」


 ゆうやは不満そうな顔をしている。


「俺は‥‥ミキが心配なんだよ」


「そりゃ俺だって心配だけどさ、それでも時々学校来るんだし大丈夫だよ」


「うん、分かってる。とにかく今日は遊ぶのやめとくわ」


「おー、分かった」


 ゆうやに言うべきか迷ったが、事を大きくしたくなかった俺は自分の中だけに留めておく事にした。


 ミキの家は俺んちの近くだ。


 ゆうやと解散した後、俺はミキの家に行った。


 ミキの家は二階建てのアパートの一番左端の二階だ。アパートの前に駐車場があり、玄関は裏側にある。


 俺は裏側に周り、外にある鉄の階段を登る。実を言うとミキの家に来るのは初めてだった。


 ピンポーン。


 チャイムを鳴らした途端に緊張し始めた。


 そして、家の中から何やらガタゴト物音が聞こえた。誰か出てくる、そう思っていたが何分経っても誰も出てこない。


 もう一度チャイムを鳴らすか?そんな勇気は俺にはない。


 そろーっと玄関のドアに耳を当てて家の音を聞いてみた。


 微かにテレビの音がする、居留守を使われたんだ。


 ミキはいるのか、それだけでも知りたかった俺はランドセルからノートを取り出しミキに当てて手紙を書いてそれをドアポストに入れてその場を離れた。


 明日は学校に来るのだろうか、そんな事を考えながら沈む夕日を背に俺はとぼとぼと歩いていると、後から走ってくる足音が聞こえた。俺は振り返る。


 

 なんで‥‥?

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