第26話


 放課後俺はランドセルを玄関に置き、中にも入らず出た。


「早く帰ってくるのよー!」


 玄関を閉める寸前に母が部屋の中から叫んだ。


「わかってるー!いってきます!」


 俺は家の外からそう言って河川敷に向かった。


 走って着いた頃にはミキとゆうやは既に二人でボールを蹴っていた。


「おい、おせーぞ」


 ゆうやが俺に向かって言った。


「おせーってすぐ来たんだぞ?お前ら家帰ってねぇだろ」


「俺はどうせ帰っても意味ないし」


 確かにミキは家に誰もいないって言っていたから帰っても意味がないのは分かる。


「俺はミキに付き合ってやったんだよー!まぁそんな事いいからさ、早くサッカーやろーぜ」


 そう言うとゆうやは俺に向かってボールを蹴ってきた。


 ボールはミキの物で古くてボロボロ、空気も微妙に抜けていて、まともにサッカーが出来るわけではない。ただ俺とゆうやはそれに気付いていても指摘する事はなく、難しいなりにそのボールで遊んでいた。


 そのうち辺りも暗くなっていた。


「やべっ、そろそろ帰らないと怒られるわ!」


 ゆうやが切り出したので俺もそれに便乗した。


「俺も帰ろっかな」


「そっか‥‥」


 すると、ミキは残念そうな顔をした。


「じゃあまた明日な!」


 ゆうやはそんなミキをよそに手を振り家の方に向かって歩いた。


「おう、じゃあな」


 ミキも何事もなかったかのように手を振り家の方を向いて歩き出した。


 土手に上がり俺とゆうやはミキと逆方向に向かって歩く。


 ふと、振り向くとミキの寂しそうな、何か言いたげな背中が小さくなっていく。


 俺たちって毎回こんな寂しい別れ方してたっけ?俺は不思議に思った。


 普通に遊んで解散する。ただそれだけなのに、明日もまた会えるのに。まるで最後の別れのような感覚。


 久しぶりにミキに会えて嬉しかった。それに、こんなに何も考えずに毎日を過ごしてたなんて当時の俺は悩みもなく呑気に過ごしてた。いや、悩みならあったと思う。


 ただ、それは今は重要ではなく、ミキが何を考えて、ミキが何に悩んであんな結果になってしまったのかが知りたい。でもそれはまだ先の事だ‥‥。あと数年後の事。


 家の前でゆうやと別れ、家に入る。


「ただいまー」


「おかえりなさい、手洗いうがいちゃんとしなさいよ」


「はーい」


 なんだか子供の体ってこんな疲れるもんなんだな。バッキバキだ‥‥。


 俺はご飯を食べて風呂に入ると宿題もせずに気付くとリビングのソファで眠りこけていた。


その時変な夢を見ていた。今も夢の中にいるようなものだけど、現実的ではないもっとふわっとしたちゃんとした夢だった。


 俺の脳内は今八割がミキだ。残りの二割は父親の事。


 せっかく俺が戻ってきてるっていうのにとうさんは仕事で遅いし、俺は寝ちゃってるし‥‥。


 まぁ明日起きたらまた会えるか‥‥。

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