第25話


 小学校に着く頃にはすっかり当時の俺に戻っていた。


「ハハッ!それな!あいつ将来ろくな大人にならねぇんだろうな!」


 ミキは笑いながら言った。


「‥‥ぜってぇそうだよな!」


 会話が楽しくてつい俺は戻ってきている事を忘れかけていた。


「てかさ、今日も来るだろ?」


「来るって?どこに?」


「はぁー?河川敷だよ!サッカーすんだろ?来てくれねーとつまんないだろ〜」


「お、おう!もちろん行くよ!」


 そうだ、俺は小学生の頃はよくミキとサッカーをしていた。思い返せばミキの友達は俺とゆうやだけ、俺たちが行けない時は遅くまで一人で遊んでいる。


「てかさ、なんで俺らがいない時もずっとサッカーしてんの?」


 俺は本当何気なく気になった事を聞いた。


「かあちゃん帰ってくるまで家入れねーから」


「なんで?」


「なんでって前言わなかったっけ?仕事してるからだよ」


「聞いたっけ?わりぃ忘れてたわ、でも鍵渡してもらえば入れるんじゃねーの?」


「は?これも前言ったと思うけど鍵一個しかねーの」


「そぅ、なんだ」


 俺は心の中で鍵が一個しかないなら作ればいいのにと思ったが、その言葉を飲み込んだ。何故ならミキの家は母子家庭で生活が苦しいように見えたから、鍵を作るのにもお金はかかる。


「だから!ぜってぇ来てくれよな!」


「分かったよ!」


 そして、懐かしい校門をくぐる。


 わぁー!みんな幼ねぇー! 

 俺はテンションが更に上がった。


「なんかりょうや今日やけにテンション高いな!」


 下駄箱で上履きに履き替えながらミキは言った。


「そ、そうかな?いつもと一緒だろ?」


「一緒じゃないよ、いつものりょうやはもっと落ち着いててたまにノリも悪くて」


「ノリが悪くて悪かったな」


「冗談、冗談!って言いたいところだけどこれマジで!」


「俺そんなノリ悪いかな?」


 自覚はあった。ただノリが悪い理由は単純にカッコつけてただけだ。この頃の俺は早く大人になりたくてわざと落ち着いてみせていたのだ。


 しかし、この下駄箱のなんとも言えない臭さが当時の記憶を蘇らせるには十分だった。


 久しぶりの教室に向かう。クラスの場所は半分忘れてたけどミキに着いて行けばたどり着ける。階段の段差が小さいな、そんな事を考えながら一歩一歩上っていく。


 教室に着くと、ゆうやは先に行ったにも関わらずまだ姿がなかった。


「あれ?ゆうやまだ来てねぇのかな?」


 俺が独り言のように呟くとミキは言った。


「いるじゃん、あそこ」


 そう言って指を差した先には、中庭をうろうろするゆうやの姿が。


「おーい、何やってんのー?」


 俺が廊下から中庭を見下ろしながら叫ぶとゆうやはこちらを一回も見ずに下駄箱の方に向かって行った。


「フフッ、ぜってぇゆうやのやつまだ気にしてんだぜ?」


「気にしてるって何を?」


「さっきの事だよ、まさかりょうやが泣くとは思ってなかったんだろうな!俺も正直驚いたし」


「だから、あれはあくびで」


「分かってるよ!そんな事で泣くわけないもんな!」


「当たり前だよ」


 そうこうしている間にゆうやが教室に現れた。


「なぁ、ゆうや?俺が泣いたのはお前のせいじゃないからな、あくびが出ただけだからな」


「え?そうなの?」


「そんな事で泣くわけないじゃんかー」


「はっ、だよな!なーんだ!」


 先程まで目も合わせなかったゆうやの表情がパッと明るくなった。


「お前も今日河川敷来るだろ?」


「あったりめー」


 よかった。なんか面倒臭いけど、ゆうやは意外と繊細で気にするタイプなんだな。

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