第5話


 ピピピピ‥‥ピピピピ‥‥。


 目覚ましの音で目が覚めた俺はすぐにスマホのカレンダーを確認した。


 やっぱり‥‥!更に一年戻ってる!


 昨日まで高三だったのが今は高二の年だ。


 季節は変わらず夏、俺は急いで一階に降りた。


「あら、早いわね」


 母親が朝食の準備をしていた。


「あぁぁ、うん」


「どうしたの?調子でも悪いの?」


「いや、朝飯いいから、学校行ってくる」


「ちゃんと食べて行かないと」


「食欲ないんだよ」


 俺はそう言い、早々と家を出た。


 学校に行く途中でゆうやと会った。


「りょうやおはー」


「お疲れー」


「お前なんか老けた?」


「は?疲れてんだよ」


「さては昨日夜遅くまで変な動画見てたんじゃねーの?」


 ゆうやは笑いながらからかってくる。


 お前は将来間抜けな姿を俺に目撃されんだよ。そう心の中で呟いた。


「ちげーよ」


「しっかしよー、まさかインハイ優勝出来るとはなー、自分でもビックリだよ」


「インハイ優勝‥‥」


 そうだった。この年の夏、俺たちは数年ぶりの優勝を飾ったのだ。


「今日は打ち上げだし楽しみだなー」


「そっか。打ち上げか」


「なんだよ、実感湧かないか?」


「いや、思い出してたんだよ」


「思い出すって何を?」


「いや、ゆうやには言えないけどな」


「俺らの中で秘密とかありえねーから!何隠してんだよ!」


 ゆうやはそう言いながら勢いよく肩を組んできた。


「ま!今日ほんと楽しみだな!」


「おい!話を逸らすなよ!」


「呑気にしてると遅れるぞー」


 俺はゆうやを置いて先々走っていた。


 朝練も終わり、いつも通り眠たい授業を受ける。と言っても俺にとっては二回目だし聞かなくても別にいいのだが。


 窓際の席でボケーっと外を眺めていると他のクラスが体育の授業でグランドを走っている。


 あ。

 そこには愛の姿があった。

 そうか二年の時は違うクラスだったんだっけ、そういえば愛と付き合ったきっかけって‥‥確か愛の方から告白してきて、俺はそれまで知らなかったけど可愛いからってオッケーしたんだよなぁ。


 今思えばこんな俺のどこがよかったんだか。その頃は中身がまともだったからかな。

 

「聞いてんのかー竹内ー」


「はっ、はい」


「あんまボケっとしてると来年の受験で後悔するぞ〜」


「はい‥‥」


 もう後悔してますけどね。先生。


「ぷっ」


 どこかで俺の事を鼻で笑ってるやつがいる。ゆうやだ。今考えてもこんなやつが受かって俺が落ちるなんて夢にも思ってなかっただろうな。


 キーンコーカーンコーン


「お前さ、外の女子見てたろ?」


「見てねぇよ」


「さっき体育してたのって三組だろ?」


「うん」


「ほらやっぱり!見てたんじゃんかよ」


「もぉ!なんだよそれが?」


「俺三組の西野さん気になってんだよね」


 そういえばこの頃はこいつも愛の事好きだったんだ。


「あー、西野さんね」


「ちょっと性格きつそうだけどさ、めっちゃ美人じゃね?」


「そうだなぁ、でも関わる事ねぇし無理だろ」


「実は今日の打ち上げ西野さん誘ってんだよね」


 だんだん思い出してきたぞ。


「そうなんだ」


「なんで驚かねえの?」


「別に好きにすればいいじゃん」


「俺が西野さんと付き合ったらお前なんか相手する時間なくなるかもよ?」


「はい、はい、いいですよ」


「冷てーやつだな!」


 だってどうせ愛と付き合うのは俺なんだからジタバタしたって仕方ない。


 学校も終わり、自主練を済ませてその足で打ち上げに向かうバスケ部。


「汗くせーから一回風呂入りてー」


 ゆうやが服を匂いながら言った。


「どうせ野郎ばっかで肉だろ?気にすんなよ」


「お前だっていつもならそうゆうの気にすんじゃん」


「は?まぁ‥‥どうでもよくなった」


「何かお前変わった?」


「何が?」


「今日のお前は妙に落ち着いてるっていうか、悟りを開いてるようにも見える、うん」


「おぉぉ、余計な事考えてないで行くぞ!」


 よく考えてみれば俺もその頃は体臭とか気にしてたし愛が来るってわかってから臭くないかって心配してたなぁ。


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