第10話 生命の神秘

朝、チョコフレークを食べていたら何やらガリッと口の中で音がした。?となって見ると歯の詰め物が取れていた。折角そして凄く久しぶりの美味しいチョコフレークなのに、バナナも入っていたのに、取れた詰め物のせいで台無しになり私はどんよりした気分で歯医者を予約する事になった。



引っ越してきてから初めて私は歯医者に行く。以前の所は何回も通っていたのでどうと言うことはなく先生にも慣れていたけど、今回はこの街初めての歯医者。どんな先生かも分からず、どんな治療法を取るのかも分からず、評判は?とかそんな事を調べてから1番口コミの良い近所の歯科医院に予約を入れた。初めての歯医者は子供の頃の凄く痛い治療のトラウマがある。しかし、実際行ってみたら、感じの良い若いお姉さん先生が担当となった。



今月は私の誕生日。2年前に楽天で見つけた2年越しの思いの詰まった豪華で美味しそうなフルーツケーキを注文して大好きなピザも注文して、今年は盛大に祝おうと決めていた。誕生日プレゼントは自分でも自分に用意しようと決めていて、また今月から推しのライブが始まるからそのツアーグッズで何か気に入ったものを1、2個プレゼントとして買おうと思っていた。でも想定外の歯医者。歯の治療って結構お金がかかる。



治療室に通されイスに座る。もう緊張感でいっぱい。口から心臓が飛び出そう。まな板の上の鯉状態になり「えーい、もうどうにでもなれ!」と腹を括り口を大きく開ける。削る器具が入ってきた。「今月からしばらくお金がかかるなぁ。誕生日のご馳走でしょ、自分用のプレゼントでしょ、歯医者代でしょ。そうだ夫に24色色鉛筆セットと大人の塗り絵を貰おうと思っていたけど、現金って言ったらなんて言うかな?姉と母もプレゼント何が良い?って言ってたけど現金って言ったらどんな顔するかなぁ?みんな、現金を下さい、現金を!現金だよ!現金!下品だなぁ」と治療しながらそんな事を考えていたら、妙に可笑しくなってきて笑いそうになった。歯が削られているのに顔がニヤけてきて危ないから「考えるのよそう。現金とか考えるな、私」などと思っていたら余計可笑しくなってきて、込み上げてくる笑いを堪えるのに必死だった。歯を削られているのにニヤけている私はきっとアブナイ人だっただろう。先生にはどう映っていたのだろうか。


人間って極度の緊張状態になると笑いたくなるものらしい。自己防衛反応というものらしく、緊張やストレスを和らげる仕組みがあるそうだ。しかし、「現金!」で笑うとは。下品な発想で生命の神秘を感じてしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る