第18話
夏美さんの運転で、日向がいるであろうモアイの施設へ急いで向う俺達には、どこか寂し気な空気が流れていた。
だから俺はそんな空気を和らげるように夏美さんに言葉を掛ける。
「夏美さん、運転気を付けて下さいね。飛ばすのはいいですけれど……あと、元気出してください。また会えますから」
「運転はまかせて……はあ、でも日向ちゃん見つけたらふたりとも東京かあ……うわあああん」
いつもの荒い運転は健在だったが、夏美さんはどこか元気が無く萎んでいた。
だから俺は言ってやった。
「あの、夏美さん……俺、またすぐ会いに来ますから」
「え!?ほんと!?今の本当!?」
「ほんとです、だから落ち込まないでください!」
「えっと、それって、私に??ってことで……オッケイ☆?」
「それより、日向が今は一番ですよ!!」
「あ、そうよ、そうよね!!もう、ふふふ。飛ばしちゃうんだから☆日向ちゃんが今一番大事なんだから!!!!今はYO!!」
すると、俺の言葉で元気が出たのだろうか夏美さんはすぐにいつもの調子に戻って運転をする。
きっと、ずっといた日向と離れるのも、俺と離れるのも夏美さんは寂しいのだろう。でも、大丈夫だ。俺はこの宮崎が好きになったから、なんだかんだ仕事を辞めることができたら執筆しながらここにくるさ。
そして、日向が旅館でいつか働く夢を叶えるまでに俺は小説家に絶対なる。
でも、今は日向と一緒に東京に帰れないのでは話にならない。
はやく見つけなければ、急げ俺達。
しかし、目的地付近に近づいた頃、夏美さんは慌てて言った。
「まだ、施設開いてないYO☆?これ、営業時間前?」
「え、もしかして日向は勝手に入ったと?」
「その可能性は高い……ですNE……」
着いて気が付いたのが、日向がいるであろうモアイの施設が営業時間前だってことだ。しかし、そうは言ったって今は日向を連れて帰れなければ意味がない。
どうするか、このまま無理に潜って入るか。
「まあ、でも宮崎の人は優しいから勝手に入っても大丈夫☆ななしぃさん、行ってきて?」
「え?俺一人?」
営業時間前の施設にひとりで入ることに勇気がまだない俺だったが、今はそんなこと言っている暇はない。
「私は行きませんよ?だって、ななしぃさんしか日向ちゃんの心はわかりませんから。ななしぃさんしか、日向ちゃんの心を溶かせなかったんですYO?☆」
そうか、俺だけだったのか。それは初めて知ったことだった。
だからこそ、連れて帰ろう。急がなければ。
「そっか……なら行ってきます!」
だから、俺は夏美さんに言われて急いで車を降りて向かうことにした。
「(私の心も溶かしてほしいです……よ。もう)」
「あ、なんか言いました?」
「いえ、何でもないです!早く行ってきてください!!」
降りてドアを閉めようとした時、夏美さんの声が俺に向かって聞こえた気がしたので、俺が急いで開けて聞くと、何故か顔を真っ赤にして「何でもないから早く行ってきて☆」と言われたので、俺は首を傾げながら急いだ。
日向どうしちまったんだよ。早く空港に行くぞ!!
俺は走りながらCLOSEDが書いてあるバーを乗り越えて中に入り、モアイがいる場所まで走った。
そして、離れていてもはっきりと分かった、オレンジのTシャツを着た、美少女がモアイの上で海を見つめているのが。
「はあ、はあ……二十七の体力が無くなっちまうよ……頑張れ俺……」
俺はひたすら走った。青く綺麗な海が遠いどこか向こうまで広がって見えるモアイの下まで。
「日向あああああ!!帰るぞ、東京……に。降りろ、飛行機行っちまうぞ!」
しかし、俺が到着して叫んでも、日向はモアイの上から遠くの海を見つめていた。
だから、俺は超大きな声で怒った。
「東京が、学校が怖くなったかあああああ!?帰るって約束したじゃねえかあああああああああああ!!」
すると、日向は涙を流しながら下にいる俺に聞こえるように言ったのだ。
「怖くない……学校じゃない……そうじゃなくて……」
「じゃあ、なんなんだよ。他に何かあったのか?」
なんだなんだ?また、別の変な嫌なことを考えてしまったとかか?まだまだ俺が何か言ってやらないと前に進めないのか?
そう俺は考えていると、日向は言った。
「ななしぃとのお別れが寂しい……」
その言葉を聞いて、寂しくなっちまう俺がいた。
俺は寂しくならないようにしていたのに。
我慢していた涙が俺から出てきちまったじゃねーーか。
「バカじゃねーーの。誰がお別れって決めたんだよ。いいか、お前が夢を叶えたら必ず会える。約束する。俺は絶対叶えるからな。安心しろ」
「もし、今ここで日向が一緒に帰らなかったら、夢が叶わないかもしれないぞ?いいのか?」
俺がモアイのてっぺんにいる日向に指差して叫ぶと日向は言った。
「嫌だ!」
「じゃあ、帰ろう。泣くな、安心しろよ。すぐ会えるって」
そうだ、すぐ会える。
「ななしぃも寂しいんだ。泣いてるじゃん」
うるせえよ。
「寂しいよ、でも、これはまた会うためだ」
そうだ、また会うためなんだ。
「そっか、じゃあ帰る……」
そうだ、帰ろう。
帰りたくねえけどな。そりゃ、誰だっていつまでも逃げていたいもんさ。
だって、楽だから。そのほうが。
でも、人生は自分を知って、自分と向き合って進むから楽しくなるんだ。
そして、それをするから新しい自分とたくさん出会えるんだ。
逃げたくなったら逃げたっていい。たまに逃げるくらいなんてことねえ。
でも、寂しくても、なんだろうと、いつかはまた進まなきゃいけねえんだ。
俺たちは前に進んで、もっと自分を見つけて幸せになる為に帰るんだ。
絶対、またいつか会えるんだから。
寂しさに浸りながら腕時計を見ると、時刻は八時二十分とギリギリの時間を指していた。
だから、とにかく急がなければと日向に俺は伝える。
「とにかく今は急げ!飛行機ギリギリだって」
すると、日向は急いでこの巨大なモアイのてっぺんから降りようとしたのだろう、足を滑らせて……。
「え!?やばいってわわわわわわ落ちるあああああああ」
「ちょっえええええええええええ」
――――どああああおおおおおおおん
またしても日向はあの時のように上から落ちて、俺の腹を潰していた。
「おい!?お前なあ!?」
「にひひひひ!ほら、ななしぃ急ぐよ!怒ってる暇はないでしょ!?」
「くっそ、覚えてろよ!いってえぇぇぇ……ケガしたらどうすんだよ!!」
「にひひひ、いい思い出じゃん」
あの生意気で楽しそうな笑顔で。
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