第3話

 俺は炎天下の中、昼飯を食べることもなく日向の案内通りに付いて行き、宮崎の名所のとある神宮へとやってきていた。道中、「昼飯を食べる時間が欲しい、何かおごるから」と最高な提案と共に日向にご飯を食べることのリクエストをしたのだが、どうやら日向様の案内が優先らしく、生意気に「飯より神宮だからよろしく~~」と却下された。

 そんな訳で、俺はムカつきながら、空腹に耐えながら……しょうがないなと頑張ってついて行ってやることにしたのだった。

 しかし、ムカついていた自分が目的地の神宮に着いた時、全ての負の感情を捨て去るくらいの感動に一瞬で染まった。

「ここからの景色素敵でしょ?」

「ああ、すげえ綺麗だな……やべえ……」

 そこは、大きく立派な海が周りに広がる神聖な場所だった。

 太平洋の荒波が打ち寄せる海の上の神聖なる場所からの景色は、とても美しく広く、見るのを辞めたくなくなるくらいだった。また、神宮の赤色が海の青と並べた時に目立っていてより鮮明に輝いていた。

 俺はそんな輝く海の上の神宮で、景色をただただ眺めていた。

「ほら、こんなとこでボーーとしないで!こっちに行くともっと綺麗だからはやくついてきて」

「ボーーっとしてたんじゃない見とれてたんだ!!」

 ムカつく奴だな。初めて来る場所なんだからもっとゆっくり見させろよ。

 俺は腹を立てながらも日向の案内に従い神宮の奥に繋がる赤い橋を渡って、もっと内部へと進んだ。

「うわあ。またここからの景色も絶景だな」

 どこを歩いても絶景しか現れなくて、俺は景色に夢中になりながら日向について行く。

 すると、海を大きく見下ろせる少し飛び出た場所で、日向は何やら置いてあった茶色のたまっころを指差して、何かを言っているのに気が付き俺は首を傾げる。

「え?これがなに?」

日向は何回か話しかけていたらしく、景色に夢中になっていたせいで俺は無視をしてしまっていたようだ。気が付いた時には口をぷくっと膨らませて不満そうな顔が出来ていた。

「これやろうよ、ねえ、聞いてる?」

「あ、ごめん。て、なにこれ?」

「ここから海の方にこの玉を投げて、あそこの丸い窪みに玉が入ったら願いが叶うっていうやつだよ」

 日向の指さす方向を見ると、ここより下に見える荒波が押し寄せる海の真ん中に、大きな岩があった。その岩のてっぺんに丸い穴が開いていて、どうやらこの玉を投げてその穴に入れることが出来たら願いが叶う的なやつだそうだ。この神宮の名物でもあるらしい。

 ここから岩まではまあまあ距離があった。

「難しそうだな……でも、願いが叶うのかあ……」

 しかし、願いが叶うという言葉に俺は今希望が持ててしまうらしい。

「そ、願いが叶う。玉は五個で百円!」

「なるほど、やってやろう。日向もやるか?出すぞ」

「え!いいの!?やるやる!ありがとう!えへへ、わーーい!」

 俺は自分と日向の為に十個玉を買うことにした。日向に五個の玉を渡すと、とにかく喜んではしゃいでいた。こいつは大人に見えてちゃんと子供なのだと、今のはしゃぎっぷりを見て確認できた気がする。

「あ、ちなみにだけど、男は左手、女は右手で投げないと願い叶わないから気を付けたほーーがいいよ!」

「え、俺右利きだぞ。ずる!むずいって!」

 日向もきっと右利きだろう。見た感じだがなんとなくわかる。ちくしょう、俺だけハンデを背負わされたぜ。

「ハイガンバローー!レッツトラーーイ!」

 日向はあまりにも俺を煽るので俺はムキになって玉を投げ始める。

「はいはいやります出来ますよってば!!見てろよ。えっい!あ……くそ…………それ!ってああああああくそ……行くぞえいっ!おおおお、おしい……えいっと!あああああああおしいいいいいくううう」

「ななしぃめっちゃ本気じゃん……どんだけ夢叶えたいの……でも一個も入ってないし、玉あとひとつだよ……」

 生意気なお子様日向は、本気モードの俺をバカにした発言を繰り出しやがった。

 そして、俺があまりに本気で投げるもんだから日向は呆れ気味の顔で今度は俺にこう言い放った。

「いやあ、大人って子供だねえ~~」

「は!?なんだと!?」

「うそうそ~~次は願い事叫びながら投げれば?」

 まったく、人をイライラさせるのが上手な小学三年生だ。そういうところが、変に大人っていうか子供っていうかもういいや!玉はあと一つ、幸運を祈る!自分!


「ずっと、宮崎にいたあああああい!!!!」

 

 そう叫んで投げた玉は、綺麗なアーチを描いて、ポトンっと……見事穴に入ってくれた。


「うおおおおおおおおお!入ったぞ日向!見たか!あそこに入ったぞ!」

 興奮して叫ぶ俺に向かって、日向は若干引いてる顔で言った。

「宮崎にいたいんじゃあん……」

「なんですかその顔は……」

「いや、子供だなって思って」



「うるせえよ」



 子供に子供と言われることが、こんなにも恥ずかしいというか……何とも言えない気持ちになるのは初めてだった。でも、俺はもしかしたら日向よりも子供なのかもしれない。怖がって自分の気持ちに正直に行動できない、さまよう子供だと知っているから。

 ちなみに、日向の投げた玉はというと、全て穴に入るパーフェクトゲームだった。日向曰く、「何回やってると思ってるの?あと、みんな本気すぎぃ……あんまガチになられても~~って感じ」だそうだ。そんなこと言ったら観光客のはしゃいでいる人は全員敵になっちまうぞ。まあ、地元民だし仕方ねえか……自分と常に近い距離にある観光名所は、近すぎてあまり興味を抱けず、観光客のはしゃぐ気持ちが理解できないなんかだろ。

 でも、絶対コイツはローマに行って真実の口に手を入れて抜いた時に「真実だ!」なんて喜んで言ってるからな。その時は「なにはしゃいでるんだよ?子供か?」ってバカにしてやるから覚えとけよ。

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