第14話
「階段はどこにあるんだ」
重い扉を開き城の中に入った後、時々技と攻撃を受けながら聖女の奥義を使い続けていた。
「こんなの拾ってる暇も惜しいんだが、見逃せないのは貧乏性なのか」
森などに出る魔物と違い、この城の中の魔物は死ぬと体は消えたまに物を落とす。
まるで迷宮の魔物みたいだ。いや、この城が迷宮そのものなのかもしれない。
落とす物は魔石だったり、骨だったり、肉だったり、あと何故か回復系の薬や装備も落とす。迷宮以外の魔物は薬や装備を落としたりはしないから、やっっぱりここが迷宮寄りの空間なんだろう。
「鑑定とマジックバッグを持ってなきゃ流石に無視する量だよなあ」
装備も薬も何故か上級の物ばかり、今のところ出てくる魔物はそう強い奴じゃないのに不思議な話だ。最初は何か落ちても無視していたんだけど、薬を拾った時に試しに鑑定をしてみたら、上級回復薬と出たので拾い始めたんだけど、人真似を使う機会を得る為、技と攻撃を受けているから生命力の回復薬は減る一方な筈なのに、逆に薬の数が増えている。
「何でも無駄ってないんだなあ」
人真似は意識していなくても、視界に入っている奴が技を使えば覚えられる。
城で無理矢理覚えさせられた技の他は、日常や冒険者の依頼を受けている時に覚えた物が多い。鑑定もその一つだ。しかもギルドの買取り担当が使っていた上級鑑定。覚える時は魔力をごっそり持って行かれて、そんなに魔力量が多くない頃だったから大変だったけど。大抵の物は詳細まで確認出来るし、すでにこれも極めているからとても使い勝手が良いものになっている。
「鑑定が出来なきゃ何の薬か分らなくて拾っても使えなかっただろうし、人真似様々だよな」
人真似は所詮人真似で、俺は誰かの技を真似することしか出来ないと悲観していた時の方が多いけど、客観的に見れば便利な能力なんだろう。
「少し休憩するか」
リアナとリクリアーナのお陰で人真似を使いこなせる様になったけど、やっぱり違う天性技能が良かったと心のどこかで思っている。
小さい頃は狩人に憧れた。
貧しい村だったから王都の様な肉屋なんて存在してなくて、肉を食うには狩りをするしかなかったけど、農夫の天性技能では思う通りに狩りをするなんてのは難しく、大抵の村人は罠を仕掛けて小物を狩る程度だった。
だけど、たまに村にやってくる狩人はあっという間に猪や鳥を仕留めて来る。その姿が格好良くて、俺も出来るなら狩人になりたいと思ったのだ。
「覚えればなんでも出来る。でも、なりたいものにはなれない」
俺に魔法使いの天性技能があれば、もっともっと強くなれたのかもしれない。
俺に剣士の天性技能があれば、もっともっと強くなれたのかもしれない。
そういう思いは未だにあるけど、仕方が無い。
「ふう。疲れてくると碌な事考えないな」
休憩場所に決めた場を、一時だけ聖属性にし魔物が近付けない且つ攻撃を跳ね返すという技、聖者の休み所を使い自分の周囲を安全地帯にする。
迷宮にはこういう安全地帯が所々にあって休憩所の様に使われているけれど、さすがにここにはそんな物はないから、休みたくなると自分で即席の安全地帯を作っていた。
魔物が一定の距離を置いてそれ以上は近付いて来ないのを確認すると、床に座りマジックバッグからパンと干し肉と水を取り出し食べ始める。
「地下は確認したけど何も無かったし、そうなると上に続く階段がどこかにあるはずだよな」
城の一階部分、最初に扉を開けて入った場所は太い柱が何本も立っているだだっ広い空間だった。
濃い瘴気が充満していて見え難くはあったが、不自然な程区切られた場所が無いただただ広いその空間を俺は階段を探し歩き続けていた。
「地下への階段はすぐに見つかったんだけどなあ。隠されてるのかな」
地下にあったのは倉庫に使われている感じの部屋と鉄格子で作られた牢屋に厨房、それに過去に使われていたらしい大量に埃をかぶった粗末なベッドや家具が置かれた部屋が数カ所あるだけだった。
部屋を一つ一つ開き、その度に出てくる魔物を退治して部屋を浄化して歩いたが、他の階段は見つからなかった。
「ここって元は人間が使っていた城なのかな」
力が強い魔物は人型をしているし知能も高いけど、瘴気を力とする魔物に食事は必要ない。地下にあった厨房も埃をかぶった状態だったし、食料庫っぽかったところには何かが入っていたらしい樽や木箱が朽ち果てた状態で置かれていた。
「牢屋には人骨っぽいのがあったよなあ。でもかなり古そうだったな」
固い干し肉を口に含んだ水でふやかしながら食べる。保存重視で作られた干し肉は固いし塩っ辛いから、水がないと食べるのが難しい。
パンは焼きたての物を買って保存していたから、こっちは柔らかいしほんわりと温かい。時間経過が無いマジックバッグのお陰だ。
「腹が一杯になったら眠くなってきた」
上を目指すにしても少し休憩が必要だった。
階段をいつ見つけられるか分らない事を考えたら、これからどれだけ長い時間歩き続けなければいけないか見当も付かない。
聖者の休み所の技の効力は、使い始めてから一定時間完全な安全地帯になるけれれどそれから徐々に効力が落ちてきて魔物からの攻撃を通す様になる。
「少しだけ寝るか」
膝を抱えて目を閉じる。本当に眠るわけじゃない。
ほんの少しの時間でも目を閉じているだけで、体の疲れは取れる筈だった。
「グルルルル」
「ギャギャギャ」
俺の周囲を囲んでいる魔物の声が聞こえる。
目を閉じていても、気配は嫌と言うほど感じる。
森とは違い、城の中の魔物は力が弱い奴でも躊躇なく襲ってくる。
今は聖属性の見えない壁に阻まれて、近付けないけれど隙あらばと様子を窺っているんだろう。
「グギャギャ!! グギャ!」
俺に近付きたいのに傍に寄れなくて苛立っている声が聞こえる。
魔物の声はどんどん大きくなり、数も増えていく。
「グルルルッ!! グオオオオッ」
一際大きな鳴き声が聞こえた後、俺の周囲を守る聖属性の壁が大きく揺れた。
「なんだ」
顔を上げると大型の狼の様な魔物が、見えない壁にぶつかって侵入を阻まれていた。
「ったく。少し位休ませろって」
ほんの少しの睡眠すら取れない現状にげんなりしながら聖女の奥義を使う。
奥義のお陰で周囲の魔物は一掃出来、幾つか魔石の様な物が落ちているのが見えた。
「はあ。休んでないで動けってことか」
ため息をついて立ち上がり、魔石を拾いながら周囲を見渡す。
意識を集中すればマジックバックに勝手に魔石等は入っていくけれど、今はその意識を集中する方が難しかった。
食事の休憩はこれで九回目、眠れていないし長い時間の休憩も取れていない状態だから、飯だけは早めに取るようにしている。生命力は薬で回復出来ても精神疲労は回復しないからだ。
「二日くらいは過ぎたのかな」
腹の減り具合と食事の回数を考えると、その位時間は過ぎているのかもしれない。
何故かある程度の明るさがあるから行動には支障がないけれど、城の中には窓がないし、例えあったとしてもこう瘴気が濃ければ日差しなんて分らないから昼なのか夜なのかさえ判断出来ない。
「どうしたらいいのかな」
だだっ広い空間といっても、殆ど歩き尽くして後は最奥にある不気味な像の辺りしか残っていない。
聖女の奥義の浄化は長い時間有効な様で、技を使った場所が増えてきたお陰でこの場所全体の瘴気も大分薄くなってきたから、見通しも良くなってきた。
「あれ? あの像の辺りだけ、やたらと瘴気が濃い?」
閉じられた空間ではないから、浄化した方へ瘴気は流れてくる。だから一部分だけ視界が悪くなる程瘴気が溜まっているというのはおかしな話だった。
「あそこか」
立て続けに像に向かって聖女の奥義を放つ。
大きな角を二本生やし、口には大きな牙も生えている。不気味な像は聖女の奥義で粉々になり、後にはぽっかり空いた空間と古そうな絨毯が敷かれた階段が見えた。
「随分大きな階段を隠してくれてたもんだな」
人が十人並んだまま上れそうな幅広の階段は、ゆるい曲線を描きながら二階へと続いている。これをあの像が隠していたんだろう。
「やっと二階だ」
喜び勇んで階段に駈け寄ったら、人型の魔物が下りてくるのが見えた。
「おやおや、騒がしいと思っていたら大きなネズミが入りこんでいましたか」
「お前は」
「随分と好き勝手にやってくれたものですね。これはお仕置きが必要です」
何色といえばいいんだろう。濃い青、それとも濃い緑? 判断が付かない色をした肌を持った魔物は、黒く長い髪を鬱陶しそうに掻き上げながら階段を下りると不愉快そうに周囲を見渡した。
「襲われたから相手をしただけだ」
「不法侵入者を攻撃するのは当然でしょう。さあ、大人しくなさい」
会話が出来る魔物と戦ったのは数回だけ、どれも馬鹿みたいに強かった。
四人でやっと勝てた様な相手に、俺一人で勝てるのか。
ちらりと不安がよぎったけど、この程度の魔物に負ける様なら魔王と戦うなんて夢のまた夢って奴になる。
「大人しくなんて出来るわけないだろ」
攻撃は最大の防御だと百合は言っていた。
俺と違って百合は頭がいいんだ。
「くっ!!」
俺が放った聖女の奥義の威力は、魔物を一撃で倒すまではいかなかったらしい。
「どれ位で倒れる?」
魔物が放ってきた攻撃を、俺は避けずに受ける。
魔力量も生命力量も上がりに上がっているし、試練の間でもっと凄い攻撃を受け続けていたからこの程度なら余裕で耐えられた。
「人間風情がっ」
「お仕置きを受けなきゃいけないのは、お前の方なんじゃないのか」
魔物の様子を見ながら、技一覧を確認する。
今まで細々と受けてきた攻撃と、人型の魔物の攻撃のお陰で人真似炎獄が打てるまでになっていた。
「あいつの魔石はどこだ」
鑑定で確認すると魔物は二個の魔石を持っているのが分った。
頭と人間でいう心臓の辺り、狙うなら頭だな。
「ふざけた真似を」
「これで終わりだ! 人真似炎獄っ!!」
頭目掛けて人真似炎獄を放つ。
詠唱しないより、した方が命中率も威力も高い。
魔物は凄まじい炎を避けきれず、技の衝撃で壁まで吹っ飛んでいった。
「やったか」
念の為、聖女の奥義を放ちながら魔物に近付いていく。
ぴくりともしない魔物は、やがて姿が塵の様に消え後には大きな魔石が残っていた。
「デカいな。これ」
拾い上げて鑑定すると、魔人の魔石と出た。
「魔人かあ。そういえば力の強い魔物は魔人って言われるんだったな」
拾い上げた魔石をマジックバッグに仕舞い、やっと次だとため息をつく。
「まさか二階には魔人がうじゃうじゃいるとかじゃないよな」
うんざりしながら、俺は一人階段を上り始めた。
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