遊部VS能力者至上主義者達②
時は遡り。どうしたものか…と黒成はキャバコの煙を吐き出した。
今、目の前では戦いが繰り広げられている。
コピーした能力を用いて、召喚した刀とまるで超人のような身体能力で襲いかかる仁の妹、結衣。そして、杖を用いて応戦する六花。
六花は精密狙撃によるサポートを得意としているが、近接戦が苦手な訳ではない。
杖術というものがある。文字通り杖を用いて戦う術であり、習ったことはない六花であるが、今までの戦いによる経験のお陰か、それなりには戦える。
「ハァ…ハァ…クソ痛ぇや!」
全身切り傷だらけの六花が叫んだ。戦えるといってもそれなりなので、既に全身ズタボロだ。だが、六花の能力である超再生を用いればこんな傷など、ないも同然だ。
「なぁ…黒成」
「なんだよ」
ささっと黒成の方に戻ってきた六花が、コソッと耳打ちをするように話した。
「仁の妹さん、コピー能力らしいよな。俺の能力コピーされたら勝ち目なくね?」
「ああ、ないな」
ふー、と煙を吐き出した黒成が答える。六花の再生能力がコピーされたら、それこそ手がつけられなくなる。
「だからさ、選手交代だ!任せたぞ!」
「はあ!?」
ドン!と突き飛ばされながら、てんめぇぇぇぇ!と叫ぶ黒成。
「サポートはしてやる!あと骨も拾っておいてやる!」
向かってきた黒成に結衣が刀を振るうが、寸前で回避する。
「ちょっと待って!あぶ、あぶなぁぁぁぁぁぁ!?」
黒成の能力、危機回避は命の危険がある攻撃を回避する事が出来る。しかし、確定で回避出来る訳ではないので、死なない程度の怪我は負ってしまう。
「六花、サポートはどうしたんだよ!」
「待て!弾が詰まった!」
ふざけんな!と叫ぶ黒成の胸元を、結衣が掴んだ。
彼女は刀を消すと、腰を落として技の名を告げる。
「
元々コピーしていた能力が発動し、手を伝って衝撃が黒成の全身に伝わる。間髪入れず、二発目の掌底。そしてトドメの三発目を打ち込んだ。
「黒成いいいいい!」
銃でのサポートを諦めた六花が、二人へ向けて走る。動かなくなった黒成を投げ捨てた結衣が、再び刀を召喚する。
杖を振り上げた六花の胸に、刀が突き刺さった。
「く…そ…」
心臓を貫かれた六花の意識が、徐々に薄れていく。
「さぁ、決着をつけようぜ!八坂 仁!」
ナイフを取り出した解放者と対峙する仁。
召喚した刀を構えた仁は、解放者へ向けて走った。
「さぁ来い!このナイフを避けてなぁ!」
解放者が投げつけたナイフを、体を捻って避ける仁。しかし、左腕に激痛が走る。避けたはずのナイフが、左腕に突き刺さっていたのだ。
「何…!?」
痛みに顔をしかめた仁だが、歯を食いしばって再び駆け出す。
「そら!もいっちょ!」
今度は二本のナイフを投げつけた。刀で弾き落とした仁の左腕に、ナイフが二本同時に突き刺さった。
「どうした…俺に近づくんじゃなかったのか…?」
近づいてきた解放者に仁は、右手の力だけで刀を振るうが、口笛を吹きながらナイフでいなされる。
「動きが鈍ってるぜ!」
蹴り飛ばされ、ゴロゴロと転がる仁の腕に、刺さっていたナイフがさらに深く突き刺さる。
「どうした…この程度で俺らに勝とうとしたのかぁ…あぁん?」
その頃、生き絶えた六花に手を伸ばす結衣。
このままでは能力がコピーされてしまう。しかし、その手が触れる前に、黒成がタックルをぶち込んだ。
六花の超再生能力だけは、コピーさせるわけにはいかない。
「おらぁ!まだ終わってねぇぞ!」
口から垂れた血を拭った黒成に、刀を構えた結衣が突っ込んでくる。
振り下ろされた刀を避けた黒成が、結衣の足に飛び込んだ。体勢を崩して転んだ結衣の背後に回り、首を絞めつけ、チョークスリーパーを行う黒成。
しかし、結衣が地面を蹴り付け、黒成の顔面へ頭突きを叩き込んだ。
突然の痛みに驚き、腕の力を緩めた黒成に、結衣の手が触れた。
「あ…」
気付いた時にはもう遅い。今、確実にコピーをされた。
仁の刀を召喚し、達人の如く扱う能力と、たった今コピーされた黒成の超回避能力。
六花の超再生がコピーされても終わっていたが、全てが終わったと思った瞬間だった。
突然、結衣の動きがおかしくなった。突然体をビクビク動かしたかと思うと、再び黒成に突撃してきた。
「ちくしょおおおおおおおおお!」
ヤケクソで腕を振り上げ、結衣の首元へ目掛けてラリアットを叩き込もうとした。その瞬間、またしも結衣の刀を持つ腕がビクビクと痙攣し、黒成の攻撃だけがクリーンヒットした。
「どういう事だ…わぁの能力がコピーされたのに、逆におかしぐなってらじゃ…!?」
「ゴホ…お前の能力は…超回避能力…だろ」
杖本来の正しい使い方で歩いてきた六花が、咳き込みながら言った。
「どういう事だ?」
「…命の危険がある攻撃を避ける能力が、上手い具合に噛み合ってんだろう…“相手の命を狙わない攻撃”には反応出来ないんだろうな…!」
点と点が線で繋がった。確かに黒成は死にそうになった事は何度もあるが、死んでないからここにいる。
その理由は、殺す気で襲いくる敵の猛攻を掻い潜ってきたからだ。
「つまり今…仁の妹は攻撃が避けられない…やるぞ、黒成!」
「わがった!」
振り回される刀を回避した黒成と、息を整えて駆け出す六花。
「うおおおおおおおお!どうとでもなれラリアットぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
「杖アタック!」
巨体から繰り出されるラリアットと、杖による打撃。
その二つがクリーンヒットし、結衣はついに倒れた。
「「よっしゃあ!」」
勝者、満身創痍の2人
「さぁ、俺を殺すんじゃなかったのか?八坂 仁!」
ジリジリと近寄ってくる解放者。仁は舌打ちをして、使い物にならない左腕へ目を向けた。
避けたはずのナイフや、叩き落としたナイフまでもが左腕に突き刺さった。ここから考えられるのは、この一年で敵はとんでもないくらいに能力を強化してきたこと。
仁が体得した八坂刀心流は、基本的に両手を使って行う。片手が使えない今は、がむしゃらに刀を振るうことしか出来ない。
しかし、それでは通じない相手だということはさっき分かった。
だからといって、ここで大人しく殺されるつもりはない。
仁は鞘を召喚した。普段は刀だけを召喚しているが、実は鞘だけを召喚する事も出来る。
ネクタイを引きちぎり、鞘を握った左手をグルグルと巻いて固定した。
「まだ、抵抗してくれるのか〜。殺し甲斐があって楽しいなぁオイ!」
刀を鞘に収め、仁は深く腰を落とした。瞳を閉じて、感覚だけを研ぎ澄ます。
近づいてくる解放者は、手のナイフをくるくると回している。
「八坂刀心流…居合!」
解放者が射程距離まで近づいた事を肌で感じ取った仁は、勢いよく刀を引き抜いた。
「
一年前、目の前の相手を一刀両断した技を繰り出す仁。
しかし、疲労困憊。今にも気を失いそうな重傷の中、斬撃が当たるわけもなく、容易く避けられた。
「終わりだ…な!」
解放者がナイフを高く掲げ、仁へ向けて振り下ろした。
目の前に迫るナイフをなんとか避けた仁だが、右肩に深く突き刺さった。
「ぐああああああああああ!!!!」
「ははははは!い〜〜〜〜い悲鳴だ!そうだった!いきなり殺すには勿体なかったなぁ!」
ナイフを引き抜き、再び振り下ろそうとした。しかし、銃声と共にナイフが弾き落とされた。
「仁!逃げろ!」
仕込み銃を構えた六花が、ナイフを撃ち落としたのだ。
「邪魔すんなよクソガキがぁ!」
解放者の投げてきたナイフを、六花は容易く撃ち抜いた。が、打ち落としたはずのナイフは六花の右目に突き刺さっていた。
「ど…」
後方へどさりと倒れる六花。しっかりと殺した事を確認した解放者が、仁へと歩み寄った。
「手間取らせやがって…残りの連中もぶち殺さなきゃだし…まぁ、お前さえ殺しておけば他は楽勝か」
しゃがんだままどくどくと血を垂れ流す仁にはもう、ナイフを避けることも、攻撃を行う事も出来ない。
解放者がナイフを、仁へ向けて振り下ろした。
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