遊部VS能力者至上主義者達
体育館の壁を吹き飛ばし、二つの影が飛び出した。自身のストレスを具現化し、オーラとして見に纏う秋夜。
そして対峙するのは、炎を身に纏った能力者至上主義者の幹部能力者。
「俺の名を言ってなかったな!俺の名は炎て──」
名乗ろうとした炎の能力者の顔面に、秋夜の拳が叩き込まれた。
「うるせええええ!お前の名前なんざ知らねえよ!夏に炎出してんじゃねえええええ!あっっちぃんだよ!」
ブチギレた秋夜に、何を言おうと更にブチギレるのだ。しかし、炎の能力者は口の血を吐き出し、秋夜の腹へ拳を叩き込んだ。
「俺は“炎帝”!覚えておけ、小僧!」
「だから!知らねえっつってんだろおおおおおおおおお!」
殴られた事など気にもしない様子のブチギレ秋夜。
「ダメージゼロか…ま、殺りようはいくらでもあるか!」
一方、体育館の中でも戦闘が始まっていた。
パイルと対峙するのは、緋音と火呂だ。
「あひゃひゃひゃひゃ!蜂の巣になりな!」
緋音と火呂へ向け、ガトリングガンが発射された。緋音が前方へ羽を向け、迫り来る弾丸の雨を防ぐ。その後ろに隠れた火呂が叫んだ。
「なんて攻撃だ!緋音!何かいい策はないか!」
「ないぜ!だが、奴の弾丸だって無限じゃないはずだぜ!弾切れになったら一気に突っ込むぞ!」
応!と火呂が叫ぶ。
しばらくすると、雨が止んだ。今だ!と二人が別々に突っ込む。緋音は走りながら自身の爪を長く、岩すらバターのように切り裂く切れ味へと変えた。火呂も一瞬だけ身体能力を超人化させる能力を用いて、パイルとの距離を一瞬で埋めた。
だが、能力が使えるのは一瞬。その後の使用には一旦呼吸を整えねばならない。
「あひゃひゃ、スキあり!」
ぶん回したガトリングガンで殴られた火呂が、能力者至上主義の能力者達の元へぶっ飛ばされた。
「あひゃひゃー!そいつぶっ殺しておけ「よそ見してるヒマはないはずだぜ!」
パイルの背後に音もなく近付いた緋音が、右手の爪を突き刺そうとした。が、パイルバンカーの武器腕でガードされた。
「あひゃひゃひゃ!そう焦んなくても、処女膜ごとぶっ刺してやるよ!」
「ジョジョの生き血だと…!さては吸血鬼だなオメー!」
「お前…この前のペロペロタイムを邪魔された時にはいなかった奴だな」
マネキンを操る能力者と、ふわぁ〜とあくびをしながらホワイトボードに書き込む影下。
『ペロペロタイムって、いい歳のおじさんが言うとキモいね笑』
「死ねええええええ!」
マネキンが一斉に襲いかかるが、ため息をついた影下が指を鳴らす。その瞬間、マネキンが全て消えてしまった。
『このくだり、さっきやったよね?』
やれやれと歩きながら頭をかく影下。
「うるさいわ!ペロペロタイムを邪魔したお前は、四肢引きちぎってダルマにしてやる!」
再び現れたマネキンを操り、影下へと向かわせ…ない。変態の元に集まったマネキンがくっつきあって、巨大な一つのマネキンとなった。
「グレートマネキンマンだ!こいつも消せるかな?」
『馬鹿って本当直らないんだね』
影下はホワイトボードを捨てると、息を大きく吸った。
「お前みたいな馬鹿は、見ててムカつくんだよ…!」
「中々骨が折れそうだ…だから、“こいつ”を使わせてもらおうか!」
炎をものともせず、ブチギレながら攻撃をしてくる秋夜に対し、炎帝が懐からケースを取り出した。ケースの中から取り出したのは、液体が入った注射器だ。針を首に突き刺し、一気に液を流し込んだ。
「知ってるか…能力には限界があるが、それを無理やり超えることが可能なのが、この薬だ!」
炎の勢いが更に増え、軽く手をかざしただけで周囲の草木が一瞬で燃え尽きる。
「くらえ!“
火力を増した炎が、物凄い勢いで秋夜へ迫りくる。
「暑いからやめ…あちちちちちちちちゃあ!?」
ストレスのオーラで炎を防ぐ秋夜だったが、炎が更に勢いを増し、秋夜の肌を軽く焦がした。
「アッハッハァ!いいねぇその表情!所詮ガキの能力なんてその程度よ!」
腹を抱えて笑う炎帝を、秋夜が睨みつける。しかし、その体から出るストレスのオーラは弱まりつつある。
「じゃあな、お前はスープじゃなくウェルダンだ小僧!」
炎の塊が秋夜へ投げつけられ、直撃した。
「やった!骨も残らないくらいに燃え尽きやがったかぁ!?」
しかし、炎が消えて現れたのは、再びストレスのオーラを纏った秋夜だ。
「ストレス解放“20%”…悪いけどお前の限界なんか、足元にも及ばねぇなぁ!」
街一つを焼き尽くす炎を、正面からまともに受けたはずの秋夜はピンピンしている。むしろ、キレが更に高まっている。
「おいおいおい…!まだ本気じゃなかったのかぁ!?」
「本気なんて出さねぇよ!殺したら面倒になるからな!」
ストレスのオーラをジェット噴射のように操り、一瞬で距離を詰める秋夜。
「“
秋夜の右手をストレスのオーラが包み込み、巨大な黒の拳となった。炎帝も負けじと拳を突き出すが、ぶつかった瞬間に纏っていた炎が掻き消され、腕が骨ごと砕け散った。
「ぐぎゃあああああああああ!?」
激痛に、炎帝が叫ぶ。うるさい!と秋夜に殴られ、炎帝は気を失った。
「さて、残りの敵は…」
後方からの殺気に気付いた秋夜が振り返る。複数の能力者が秋夜をジッと見つめていた。
「もうちょっと暴れさせてもらおうかな…!」
秋夜VS炎帝 秋夜の勝利
「なぜだ!なぜオレの攻撃が通らない!」
緋音は爪を用いた連続攻撃を繰り出すが、全て武器腕に防がれていた。
「あひゃひゃ!パワーもスピードも中途半端なんだよ!」
攻撃を防いでいたガトリングガンが、勢いよく外れた。中からは3本爪の巨大な手が現れ、緋音の胴体をがっしりと掴んだ。抜け出そうと緋音は体を動かすが、びくとも動かない。
「さぁて、どこを突き刺してあげようか…!」
緋音をニマニマ見つめるパイルの背後に、火呂が跳んできた。
「復活の俺様によるスーパーナッコゥ!」
叫びつつ、火呂は無防備なパイルの頭を蹴り飛ばした。ナッコゥ!とは?
「大丈夫か緋音!まだ戦えるか!?」
「ああ…だが、今のままでは勝てない!“アレ”を使うから、時間を稼いでくれ、火呂!」
四つん這いになった緋音が、獣のような声で叫んだ。
「具体的にはどれくらい稼げばいいんだ!?」
「10秒…あれば…イイ…!」
緋音の体が、骨が、筋繊維が、ミシミシと悲鳴をあげている。その痛みに耐えるように歯を食いしばる緋音の口から、血が噴き出た。
「あひゃひゃ!何をしようとしてるか知らないけど、今度はお前の番かい?」
「ああ!友が時間を稼いでくれと言ったんだ!俺様は止められんぞ!」
サングラスを外した火呂の目が、真っ赤な光を放つ。
「
ぽいっと捨てたサングラスが地面に触れるより前に、火呂はパイルの目の前へ移動していた。
(また一瞬で距離を…だが、こいつは一呼吸置かないと能力は使えない…!)
火呂は腰を落とし、間髪入れずに技の名を叫んだ。
「
一呼吸置かずに攻撃してきたことに驚きつつも、武器腕で拳を防ぎはしたが、どんどん勢いをますパワーにより、体育館の外まで吹き飛ばされた。
「おいおいおい!一呼吸置くのはどうしたんだよぉぉぉ!?」
地面にぶつかり、ゴロゴロと転がりながら体勢を立て直したパイルの目の前に、腕を組んだ火呂が立っていた。
「俺様は一瞬だけ任意の力を限界突破できるが、一瞬だけなのは体力の消耗が激しいからであって、“一瞬しか発動出来ない訳ではない”。この瞬間も体力はどんどんなくなるが、時間稼ぎならちょうどいいだろう」
「そうかよ…なら、ちゃちゃっと倒せないと、時間切れで殺されちゃうよ!」
左手を地面に突き刺したパイルが、蹴りを放つ。しかし、火呂に爪先を掴まれ、動きを封じられた。
「今の俺様には何をしても無駄だ…」
「どうかな…」
火呂が違和感を覚えた瞬間、掴んでいた足から杭が飛び出し、火呂の手と腹部に突き刺さった。
「元々アタイは“手足の先から杭を出す”能力者だ。こういう使い方もあんのよね!」
杭が収納され、火呂が崩れ落ちた。
「さてと、アンタを殺して残りのガキも殺さないとね」
「ハハハ…それは無理だな。もう時間稼ぎは十分そうだからな…!」
体育館の壁をぶち破り、体毛に覆われた巨大な獣が現れた。
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
獣の正体は、身体の構造を変化させた緋音だ。普段は人をベースに身体の構造を変えているが、今のベースは獣だ。強靭な体躯と体毛、ドス黒く変色した爪と牙。今の緋音を見て、華奢な少女だったとは誰も思わないだろう。
「おいおい…アタイあんなのと戦うなんて聞いてないよ」
しかし、その表情は幾分か楽しそうだ。左手を体育館へ向けると、先程取り外したガトリングガンが飛んで戻ってきた。ガトリングガンにはスラスターが組み込まれており、離れていても戻ってくるように出来ているのだ。
「そのデカい図体じゃ避けれないだろ!今度こそ蜂の巣になりな!」
銃弾の雨が緋音に当たる。しかし、鋼のような硬度を誇る体毛に防がれ、効いているようには思えない。
「ヴオオオアアアアアアアアアア!」
再び叫んだ緋音が、パイルに向けて突進してきた。
だが、彼女は焦らずに両足から杭を出して、体を地面に固定した。
確かに、あの体毛に防がれてはどんな武器も通用しないだろう。しかし、眼球は別だ。柔らかい眼球さえ貫ければ、そのまま脳を破壊する事だって可能な筈だ。
「来い、化け物!お前の眼球ごと、脳を貫いてやる!」
迫る緋音に、パイルバンカーを向けようとしたが、腕が動かない。見ると、火呂が腕にがっしりとしがみついていたのだ。
「言っただろ…時間稼ぎが俺様の仕事だって…!」
「てんめぇえええええええええ!」
緋音が振るう剛腕が、パイルと火呂に叩きつけられた。あまりの勢いに、固定していた両足が引きちぎられた。
「って、俺様ごとかよーーーーーーー!」
「ヴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」
緋音&火呂VSパイル 緋音の勝利(火呂、瀕死の重傷)
もう一つの戦いにも、決着がつきそうであった。
体育館を突き破るほど巨大化したマネキン使いの変態能力者と、ホワイトボードを捨てた影下の対決。
「さあ、かかってこいやー!」
「消滅しろ」
影下が、言葉にした瞬間にマネキンが消え去り、変態が地面に叩きつけられた。
「え、どういうこと!?」
「そのまんまだ。大体のものは念じただけで一時的に消せるが、言葉に出した場合は別だ。“対象をこの世から完全に消し去る”。これが、俺の能力だ」
再びマネキンを作り出そうとするが、何故か能力が使えない。
「言っただろ。お前の能力は消滅した。今のお前は能力者でもなんでもない、ただの変態だ」
「ふざけやがってガキが…!ぶっ殺す!」
走ってきた変態の攻撃をたやすく避けた影下。カウンターの拳を顔面に叩き込んだ。
「ぼへぇ…」
後方に倒れそうになった変態の胸元を掴み、影下が顔を覗き込んだ。
「俺の大事な友達に手ぇ出したんだ…ただで済むと思うなよ!」
一発、二発、三発と立て続けに顔を殴り、変態を投げ捨てる影下。
「ち…くしょう…殺しやがれ…!」
「言われなくても殺してやるよ、じっくりとな」
パチン、と影下が指を鳴らした。その瞬間、変態は息苦しさを感じた。
「な、なに…を…した!」
「お前の周りから空気を取り除いたのさ。今、お前の周りは真空状態。さて、人が真空の中にいたら何が起こると思う…?」
よくSF映画では、真空中に放り出された人間が凍りついたり、目玉飛び出て体が破裂したり、血液が沸騰したりして死んだりする描写がある。
「答えは、“今は特に何もない”。おっと、息を止めると肺が使い物にならなくなるぜ?お前はやがて酸欠に陥り意識を失い、自分でも気づかないまま死んでいる…。残りの時間は神様にでも祈る事だな」
「嫌だ…死にたく…な…」
変態が意識を失ったことを確認した影下は、能力を解除した。再び空気が変態の周りを包み込んだ。
「これに懲りたら、反省して社会貢献でもするんだな…」
その時だった。獣の咆哮の後に、火呂の声が聞こえた気がした。
声の方を見ると、緋音らしき獣が叫び、敵らしき女と火呂がぶっ飛ばされていた。
「何やってんだ緋音ぇぇぇぇぇぇぇ!?」
影下VS変態 影下の勝利
「待て待てーい!ワターシから逃げ切れると思うなーよ〜!」
催眠能力者に追われていた華乃が、必死に能力で色々な発明を行うが、パニックでガラクタばかりを作っては投げ捨てていた。
「チクショウ…だから私は現場には行きたくないって言ったんだ…!」
パワードスーツを作ろうかと考えたが、時間がかかりすぎる。作り終えるより前に、敵に催眠術をかけられるのがオチだろう。
「よし…あれしかないか!」
そう言って振り返った華乃の手には、スプレーが握られていた。
「くらえ!そっちが催眠術ならこっちは催涙スプレーじゃ!」
プシューと吹き出した真っ赤なスプレーが、催眠能力者の顔面に吹き付けれた。
しかし、涙も咳も出さずに、華乃の首をガシッと掴んだ。
「残念〜。ワターシの催眠術は、ワターシにもかけれるんですよ…。催涙スプレーが平気になると催眠術をかければ、そんなの効きマーセン」
「ぐっ…そんなの…反則じゃ…」
もう片方の手で華乃の頭に触れ、催眠術をかけた。
「さぁ、アナータはワターシのしもべとなりーます!かかれ、催眠!」
……しばらくの沈黙の後。
「残念だけど、催眠ならかからないね」
「ナニー!?なぜ、ワターシの催眠術が効かない!?」
ゴシゴシと催涙スプレー塗れの目を擦り、再び華乃を見た。その頭には、アルミホイルのようなものが巻き付いていた。
「ふふふ…私特製“催眠術防止アルミホイル”だ。都市伝説も、案外馬鹿に出来んもんだな」
「なら、そのアルミホイルを剥がして催眠術をカケールまでー!」
しかし、華乃の手にはクラッカーが握られていた。
「こいつの威力は知ってるよね」
パン!!と勢いよくクラッカーが発射された。中に詰まっているのは紙切れではなく、当たれば金属バットに殴られたくらい痛いゴム弾だ。
「ぐきゃああああ!」
吹っ飛んだ催眠能力者にもう2、3発クラッカーを撃ち込む華乃。
「ふっふっふっ、他とは
華乃VS催眠能力者 華乃の勝利
一方、体育館でも決着がついていた。
ボコボコに叩きのめされ、血を吐き出す黒成。
その傍では、刀で心臓を貫かれた六花が絶命していた。
そして、そんな二人を気遣う余裕もないくらいに追い込まれた仁が、肩で息をしていた。左腕にナイフが何本も突き刺さり、ぶらんと力なくぶら下がっていた。
「どうした…この程度で俺らに勝とうとしたのかぁ…あぁん?」
六花&黒成VS結衣 結衣の勝利
仁VS解放者 解放者の優勢
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