能力者至上主義者達の主張
『…と、いう訳で俺達の計画にまんまと騙されてくれてありがとー!お陰でムショに入れられた仲間や、強力な助っ人まで仲間になってくれたよ〜!死んでくれた老害達に感謝だね』
今、日本中のテレビやインターネット配信は、この能力者至上主義者のリーダー、
放送は止めたようと思えばいつでも止められるが、それが出来ないのだ。何故なら彼等は今、都内で1番の大きさを誇る小学校を占拠し、教職員を含めた総勢700人近くを人質に立て篭もっているからだ。この放送を止めたら、人質を少しずつ殺していくと脅されれば、映像を垂れ流すしか他ない。
『さてと、仲間達も帰ってきた事だし、そろそろ俺達の計画について話そうか。まず、日本には働けないのに悠々と生きてる老害が多い!そいつらに金を使って、若い芽を潰すつもりなんだろうなぁ!お偉いさん方はさ…。だから、俺達の要求は働けないし働いてもゴミ同然の60歳以上の老害を日本から駆逐する事だ。出来ないなら、ここで囚われてる未来ある子供達の解体ショーを全世界に配信するけど、そんなの勿体ないよな…?だから、俺達の“けじめ”が終わるまでにとっとと決めやがれ馬鹿政治家共!あ、勿論議員の方々にも“定年退職”してもらうつもりだから、腹括ってね』
カメラは切り替わり、体育館が映し出された。
体を拘束された仁が、俯いたまま動かずにいる。
『さて、まずはこいつの処刑を行う!』
「さぁ、目を覚ませ。八坂 仁」
解放者の声に、仁はゆっくりと顔を上げた。
「ナイフ野郎…。お前は死んだはず、だよな…?俺に負けて無様に死んだお前が、何故ここにいる…?」
「一々勘に触るガキだぜ!お前から言ってやれ、“パイル”!」
特徴的な笑い声と共に、機械音が鳴り響いた。
現れたのは、異形な姿をした女だ。
上半身は胸当て以外がほぼ露出しているが、そんな事よりも火傷だらけの皮膚が痛々しい。
そして、機械音が鳴り響くのは、両肩から先の機械の腕だ。華奢な身体とはバランスが取れないゴツゴツとした機械で構成された腕は、右がガトリングガン、左がパイルバンカーになっている。
「あひゃひゃひゃひゃ!お前に会うのが楽しみで夜も寝れなかったよ〜!八坂 仁!」
女が笑う度に、口角から伸びる縫い目から血が滴る。そんな事を気にせず、女は笑い続けた。
「お前は…一年前に父さんを殺した女か」
「あひゃひゃ、覚えててくれたかい。アタイもあんたの顔は忘れられなかったよ〜」
能力者となった仁に両腕を切り落とされ、苦しみながらゆっくり死ぬ程度に体を刺しまくったはずだが、今も元気に生きている。
「お前に両腕を切られて滅多刺しにされたが、身体を焼いて止血してパイルは助かったんだ…。今日は大切な同胞達を殺したお前を処刑して、俺達は再び立ち上がる!そう、全ては能力者達の為に!」
おおー!と周りの能力者至上主義者達が雄叫びを上げる。
やれやれ、と仁は顔を背けた。
「そんな態度でいられるのも、今のうちだぞ八坂 仁。処刑人の登場〜」
解放者が指差す先には、無表情で仁を見つめる結衣が立っていた。
「結衣!なんでそんなイカレた連中と一緒にいる!返事をしてくれ!」
必死に仁が問いかけるが、結衣は表情を変えない。
「無駄無駄…今、彼女はワターシの能力で催眠術をかけられている…キミーの声は届かないよ」
結衣の隣に、怪しげな男がやってきた。
男は結衣に近付くと顔をペロリと舐めたが、表情は変わらない。
「貴様…!その汚い舌を切り落としてやる!」
「おお〜怖い怖い。でもザーンネン。キミーの声は全部届かないよん。ワターシの催眠術でね!」
怒り狂った仁が刀を召喚しようとしたが、激しい頭痛に顔をしかめた。
「チッ…能力者拘束用の手錠か…」
ご名答、と解放者が口笛を吹く。全身を拘束した上で、仁の右手首には手錠がつけられていた。能力者拘束用手錠は、能力を使おうとする脳波を察知して、対象の体内に波長を流し込む。それが頭が割れるほどの激しい頭痛を引き起こし、能力が使えなくなるのだ。
「さ、時間も押してる事だし、小学生の皆んなもお家に帰りたいだろうし、処刑しちゃう?」
解放者が周りに問う。仁が周りを見ると、見たことのある連中が近くにいた。
以前、六花と共に戦った銀行強盗のリーダー格。炎を操る能力者だ。
「よぉ、はらわた小僧。今日こそ美味しいスープにしてやるからな」
ナイフを取り出し、ぺろぺろと舐める炎使いの能力者。俺と被るからやめろよ〜と、解放者が笑う。
そして、その隣には街でマネキンを作り出して暴れていた変態能力者がいた。
「あの時はペロペロを邪魔しやがったなクソガキ…お前を処刑したら、妹を全身ペロペロしてやるからなぁ〜」
相変わらず気持ち悪い奴だ、と仁はオエーと舌を出した。
そんな仁の顔を、解放者が蹴り上げた。
「ほら、泣けよ。泣いて俺達を馬鹿にした事を後悔しな」
対して仁は、口の血を解放者の靴に向かって吐き出した。
「やだね…俺を動けないようにしないと満足に喋れないカスどもの言う事なんて、なんで聞く必要がある?」
ふざけやがって!とナイフを取り出した解放者を、パイルが止めた。
「あひゃひゃ!そうやって怒らせて、拘束を解こうったって無駄だよ。アタイ達も馬鹿じゃないからね」
「あひゃひゃ〜って笑ってる奴が馬鹿じゃないって、斬新なキャラ設定だな。ぜってー家では普通に笑ってんだろ」
仁は挑発を続けるが、窮地に立たされている事に変わりはない。
「まぁいい、こいつの処刑が終わる頃には、お偉いさん方も答えを出してくれるだろう。宴の準備が終わり次第、こいつを殺して盛り上がっていこーぜー!」
仁が拘束されてから3時間ほど経過した頃だろうか。体育館内はすっかり様変わりして、まるでお祭り騒ぎのように盛り上がっていた。
「さぁ〜て、始めようか処刑!さぁ、結衣。刀を出すんだ」
解放者の声に頷き、結衣は刀を召喚した。
「本当凄いよ、お前の妹は。義妹だっけ?どっちでもいいけど、腹にナイフ刺されて死にかけの状態で能力に目覚めて、家族の仇である俺達にコキ使われてるだからなぁ」
刀を持った結衣が、ゆっくりと仁に近づく。
「さぁ、結衣。そいつの首を切り落とすんだ」
結衣が刀を振り上げる。仁はその様子を、黙って見守っていた。
「結衣…お前が生きていてくれて、本当よかったよ」
結衣は表情を変えぬまま、刀を振り下ろした。
鮮血は飛び出なかった。かといって、ドス黒い血も流れ出なかった。スカッと、空を切ったのは結衣の手から刀が消えていたからだ。
『遅くなったね、仁』
ホワイトボード片手に、影下が現れた。ホワイトボードが消え、その手にはクラッカーが握られていた。
結衣に向けられたクラッカーが、パン!と勢いよく飛び出す。その瞬間、結衣は遥か彼方へと吹っ飛ばされていた。
「ははは!私の発明品、“超スーパークラッカー”の威力は絶大だな」
いつの間にか、華乃が現れていた。華乃だけではない。遊部のメンバーが、仁の周りに集結していた。
「仁!俺様がその鎖を引きちぎってやろう!ふんぬ!」
火呂が力任せに、仁の体を拘束していた鎖を引きちぎり、一呼吸置いて手錠をもぎ取り、真っ二つにしてポイっと捨てた。
「形成逆転だ!ワタシ達が来たんだからな!」
「う〜ん、わぁ来てよがったのがな…」
「そ、それを言ったら僕だって…。あ、足がガクガク震える…!」
自信満々に笑う緋音と、腕組みをして場違い感を訴える黒成、そして両足をガクガク震わせる秋夜だ。
「待たせたな、仁」
杖を片手に、手を差し出す六花。
「助かったぜ、相棒」
仁は立ち上がり、解放者へ目線を向けた。
「ふざけるな!勝手な事をしやがって…見張りの能力者達はどうしたんだよ!?」
「ああ、それなら全員氷漬けになってるぜ★」
一緒に潜入してくれた風紀委員の二人により、人質の生徒達を見張っていた監視の能力者は全て倒されていた。
そして、生き物部の人達や家庭科部の人達、そして遊部に依頼をした生徒達が協力して、子供達は避難を始めていたのだ。
「ふざけやがって…ガキどもが…!まとめて焼け死にやがれ!」
炎使いの能力者が、遊部全員を飲み込むほど大きな火炎を作り出し、力任せに投げ飛ばした。
「さ、秋夜。出番だぞ」
黒成に連れられ、皆んなの前にぽいっと放り投げられた秋夜が、ひいいいい!と叫びながら、首のチョーカーについたダイヤルを弄った。
その瞬間、秋夜の身体が黒いオーラに包まれた。秋夜が手をかざすと、纏っていた黒のオーラが迫り来る炎とぶつかり合い、そして鎮火した。
「あっっっっちいじゃないか!クソッタレが!ぶち殺す!」
華乃の発明品。平常時でもスイッチ一つで能力が使えるストレスコントロールチョーカーだ。難点は、一度発動するとキレ終わるまで秋夜が元に戻らない。
「あひゃひゃひゃ!面白いガキ共だ、アタイと戦ってくれるのは誰だい?」
「オレと」「俺様だ!」
緋音と火呂が、パイルと向かい合う。
「足引っ張るなよ、火呂!」
「任せろ!奴の足を引っ張って転ばせる作戦か!?」
微妙な空気が流れた。
「さぁて、ボクの相手は誰がしてくれるんだい…?」
マネキンを引き連れた変態能力者の前に、影下が現れた。
『仁、こいつは任せて』
変態能力者に背を向けたまま、仁へメッセージを送る影下。
余裕そうな影下に、ふざけるなとマネキンの群れが襲いかかるが、指を鳴らした瞬間に、マネキンが全て消え失せた。
『焦んなよ三下』
「本当〜に!ペロペロタイムの邪魔しやがって…!」
「仁、怪我はないか?」
「ああ、ちょっと体が痛いくらいだ」
パキパキと骨を鳴らす仁。
「来たぞ、あれが妹か」
黒成が指差す先には、吹っ飛ばされた結衣が立っていた。
「あれくらいだば気絶しねぇが」
「よし、妹のことは俺達に任せて、あの親玉を倒してこい」
結衣と対峙する六花、そして黒成。
「ああ、決着をつけてやる」
仁は、不適な笑みを浮かべる解放者を睨む。
「始めようぜ…ガキ共皆殺しにしろぉぉぉぉぉ!」
「さて、私は非戦闘員だし後方支援でもしようかな…」
サポート用のアイテムを創り出そうと能力を使う華乃に、何者かの手が伸びる。
「ワターシを忘れてなーーーいぃーーーー?」
「うびゃあああああああああああああ!?!?」
頭を触ろうとする催眠能力者から、危機一髪逃げ出す華乃。
「私のそばに近寄るなああーーーーーーーーッ!」
遊部VS能力者至上主義者達、開幕。
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