番外編 オールランチニッポン
『
昼休み。水無月学園では正午に昼の休憩時間を設けている。時間は一時間。持ってきた弁当を食べる生徒や、購買で人気の惣菜パンを奪い合う者。食堂でのんびり食べる生徒もいる。
そして、昼の休憩時間中は、放送委員によるラジオ番組のようなものが放送されているのだが、なんと!前日のカラオケで放送委員の全員が喉を潰すという大失態。
ガラガラ声の放送委員長に依頼を受けた遊部の部長、
そして、そのやりとりを聞いていた華乃が引き受け、今に至る。
しかし、実際に放送を聴いた仁は、まずい事をしてしまったのではないかと今更不安になってきた。
『さぁ〜ついに始まってしまいました私、華乃がパーソナリティを務めさせていただいておりますオール“ランチ”ニッポン。“ナイト”のニッポンとは無関係ですからね。私が何となく命名しただけなので。さてさて、皆さんお昼ご飯を美味しく食べているかと思いますが、食べてない人はいないかな?ご飯を食べないと元気が出ないだけでなく、ウンチが出ませんからね。健康なウンチを…失礼しました。食事中ですよね。糞便を、肛門から出せるようにして下さいね〜』
言い直す以前に、なんちゅう事を言ってんだと、仁は頭を抱えた。
『さて、早速ですがお便りきていますね〜。どれどれ…あんまり面白いお便りきてないですね。もっと刺激的なお便りが欲しいので、私の能力で作った発明品で、今からお便りを募集したいと思いま〜す。じゃじゃ〜ん!って、ラジオだから見えないか。その名も“悩める人の悩み抽出機”〜!この発明品はですね、この学園内で悩みを持つ人の悩みを抽出して、紙に印刷してくれるんですよね。デメリットは、個人のプライバシーが守られないってとこだけど、別に構わないよね!恨むのなら私にラジオを任せた放送委員の人を恨んでね!』
華乃の能力で作り出すものは、今の科学力では作れないものも平気で作り出す。人の悩みを抽出するくらい訳ないだろう。
だが、お届けする内容によっては、とんでもない恨みを買うことになりかねない。
だが、華乃にも空気を読む事くらいは出来るだろう。破天荒に見えて、案外まとも…ではないなと、仁は席を立つと教室を出た。
『さぁ〜て、最初のお悩みは…一年の女の子からですね〜ラジオネーム、アサヒさんからのお悩みです。“私は風紀委員に所属しています。とある目つきの悪い生徒と交流があるのですが、顔を合わせる度に口論を起こしてしまいます。どうすれば仲良くなれるのでしょうか?”だそうです!』
近くの教室から聞き覚えのある少女の悲鳴が聞こえたが、今はそれどころではない。仁は放送室へ走る。
『なるほど〜甘酸っぱい悩みですね〜。青春と恋の味がします〜。ふむ…正直、私は人を好きになる事がなくてですね…私自身が、男でも女でもなく“私”なので…難しいですね。でも、人の恋バナは好きですよ!恋も愛も、そこには必ず性行為がありますからね〜。生徒諸君、避妊はしたまえ!10代で子持ちは大変だぞ〜!』
華乃の暴走が止まらない。しかし、この学園は無駄に広いせいで放送室はまだまだ先だ。
「そこの君!廊下は走らない!」
「この放送が聞こえてないのか馬鹿教師が!むしろ感謝しやがれ!」
すれ違い際に注意してきた男性職員(37歳。独身。好みのタイプは笑顔が素敵なひと)に暴言を吐き捨てる仁。
『とりあえずアサヒさん、お悩み解決に性行為してみたらどうですか?私が開発したアダルトグッズをお送りしておきますので、眼帯の彼と和解した際はぜひお使い下さい〜』
男の方も名指しされているじゃないか。仁はまた一人、学園の生徒が犠牲になる事に胸を痛めていた。
『さてさて…エッチな話はこれくらいにして。まだまだそういう話を始めるには早いですからね!あ、そうそう。お悩み相談と関係なく、学園内の男女の自慰行為と、勉学における成績の関係性を調べようと思うんですが、興味あります?私はあります!』
早く華乃を止めないと、同じ部活の自分まで変態扱いされてしまう。仁は焦りと怒りとその他もろもろがごっちゃになってしまい、訳が分からなくなりそうだった。
『私の意見なんですけど、成績上位者って自慰行為の回数が多いと思うんですよ。だって馬鹿って、ヤることしか頭にない猿じゃないですか。当然ヤることヤってれば自慰行為なんてしないと思うんですよ。なので、私の予想は頭が良い人ほど自慰行為を行うと思っています!』
その偏見はどこからくるんだ!と仁は走りながら叫んだ。そろそろ放送室だ。華乃の暴走をいち早く止めねば。
『学園長はどう思います?』
思いがけない華乃の言葉に、仁は走るのを辞めてしまった。今、学園長って言った?
『まぁ概ね、瑛明の言う通りだろう…。だが、儂は別に自慰行為をしようが性行為をしようが、特に問題はないと思っておる…この学園では自由こそ全て!自由なき生活に、なんの意味がある!』
真っ昼間から何言ってんだ学園長!?と仁が一人でつっこむ。
『おっしゃる通りです。さてさて、学園長が熱弁している間に次なるお便りが届いていますね。またまた一年生の女の子、ラジオネームはトリイさんです。“私は今付き合っている人がいるんですが、彼とは別に私を好いていてくれる男の子がいるんです。ですが、最近はストーカーのような事をしたり、私が捨てたゴミを集めて机に並べたりと、悪行が目立ちます。どうすればいいでしょうか?”。なるほど…愛を超え憎しみを超越し、宿命となるやつですね。てっとり早く解決するなら去勢するか、私が発明した“性別カワ〜ル”で女の子にするのどちらかですね。学園長はどっちがいいと思いますか?』
『そうだなぁ…儂はそこに愛があるのなら、大抵の行為には目を瞑ろう。だが、相手を困らせるのは、最早愛ではない!エゴだよそれは!』
仁はトボトボと、教室へ帰り始めた。途中、暴言を吐いてしまった教員に謝り、仁は考えるのを辞めた。
この学園はもう終わりだ。
その後も華乃と学園長による偏見、ど下ネタトークが学園中に響き渡った。
『はい、あっという間の一時間でしたね。午後の授業も頑張りましょう!学園長から何かお知らせなどはありますか?』
『そうだなぁ…特にないが、時に瑛明よ。今回のラジオはどうだった?』
『非常に楽しかったですね。今回限りという事で、何も気にせず発言できたからでしょうか?』
『そうかそうか、お前さえよければ毎週ラジオをやるのはどうだ?オールランチニッポン、既存のラジオに捉われないこの番組…終わらせるには惜しい』
『…わかりました。じゃあ週一放送でギャラは…ああ、そんなに?交渉成立です。では、華乃のオールランチニッポン、来週も聞いてくれるかな〜?』
「いい訳ないだろーーーーーー!」
『いいとも〜』
「あんたも大概だぞ学園長ーーーーー!」
仁の叫びは、楽しそうに笑う二人には届かない。そして、今日の放送で沢山の生徒から恨みを買った華乃と学園長だが、バチが当たるのはまた、別のお話。
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