第10話 緊急事態だよ!全員集合!

 ある日の放課後のこと。特にする事がなかったじんは、部室へ向かおうと校内を歩いていた。

 今日は何をしようか。以前負った怪我は完治し、鬱陶しい包帯ともおさらばした今なら、何でも出来そうな気がしていた。

「あっ、仁!ちょっといいかしら?」

 手を振りながら歩いて来るのは、風紀委員の亜比あびだ。

「どうした亜比。そんなに慌てるとまた汗だくになるぞ?」

「ふふ…わたしを誰だと思っ…暑い……」

 言わんこっちゃない、と汗をダラダラとかく亜比を見てため息をついた。

「それに…こんな事してる場合じゃないわ…学園長が仁を呼んでいるの…!」

「学園長が!?俺、なんかしたかな…?」

 正直なところ、怒られるような事しかしていなし、呼び出されるのなら尚更だ。

「ありがとう、亜比!すぐ行ってくる!」

 廊下は走らないでねー!と亜比に見送られながら、仁は学園長室へ向かった。



 学園長室の立派なドアを前にして、仁はゴクリと唾を飲み込んだ。

 トントン、とドアをノックして仁は扉を開いた。

「失礼します、一年の八坂やさか 仁です」

 部屋の中にいる人物は、この学園の生徒なら誰もが知っている人物。この水無月学園の長、金剛瓦こんごうがわら学園長だ。

 数々の強敵を相手にした仁ですら、学園長のビリビリとした重圧を肌で感じていた。

「来たか…八坂 仁。まぁ、そう身構えるな。茶でも出そうか」

「いえ、お気持ちだけ頂きます」

 一刻も早くこの場から逃げ出したいのに、茶なんて呑気に飲めるか!っと仁は心の中でつっこんだ。

「なんだ、茶は嫌いか…。紅茶と珈琲もあるぞ」

「いえ、茶が気に入らなかった訳ではありません」

 そうか…と残念そうにする学園長。なんなんだこの人は、と仁はますます自分がなぜ呼ばれたのか分からなくなっていた。

「コーラもあるぞ。キンキンに冷えたやつがな」

「だから飲み物はいらねぇって言ってんだろジジイ!?」

 しまった…いつもの癖でつっこんでしまったと、慌てて口を手で押さえたが、既に言葉は吐き出した後だ。

「ふふ…それでいい。身構える必要はないと言っているだろう。いつも通りのお前でいれば良い」

「じゃあ、お言葉に甘えて、これからはそうさせてもらいます。何故、俺を呼び出したんですか?」

 泣く子も黙る威厳はどうしたんだと、仁は学園長を見て思った。なんでも、熊を素手で倒すだとか、能力を持つテロリストを平手打ちで叩きのめしたとか、色んな噂を聞いたことはある仁だったが、怖そうな見た目からくる噂話だろうな、と仁は気を緩めていた。

「話があるのは、君が作った部活についてだ。なんでも、困った人を助け、報酬として金品をもらっているそうだな…」

「ええ、たまにもらわない時もありますが、大体もらっています」

 やはり部活についてか、と仁は納得した。思い当たる節といえば、まぁこれだろう。

「学園長として…君が部活を作るのは許可したが、今のまま活動を続ける気でいるのなら、残念だが廃部にさせてもらおう」

 なんの権限があって、と仁は言おうとしたが相手は学園長だ。彼の気分次第では何もかも失いかねない。

「何か、気に触るような所があったんですか?」

「ああ、“(仮)部”とはなんだね」

 そういえば、遡ること今から二ヶ月ほど前になるか、高校生活が始まった時だった。新しく部を立ち上げる時に名前を決めていなかったので、部名を(仮)部と書いて提出したのだった。

「八坂…儂が何故、お前を呼んだのか。それは、お前が部の名前をきちんと決定せぬまま、二ヶ月もほったらかしにしておったからだ!」

「……え、そんな理由で呼ばれたの、俺…?」

 他にどんな理由がある…と、学園長は椅子にふんぞり返って座った。

「てっきり、金銭をもらうのがダメだったのかとばかり…」

「ああ、そんなことか。気にせず、今まで通り金をもらっていいぞ」

 学園長の予想外の回答に、えぇ…と困惑する仁。

「ともかくだ。漢なら自分が作ったものに見合う名をつけてこい。期日は今日までとする」

 今日まで!?と目が飛び出さんばかりに驚く仁。

「ああ、今日までだ。本来なら3日以内に然るべき名前にせねば廃部にしている。早急に仲間達と決めることだな」

 学園長も、案外寛大なようだ。この学園の掟は自由と規律。自由を守る為には、規律を重んじなければならない。

「なるほど…俺達に二ヶ月も猶予をくれたのも、学園長にも考えがあるって訳か…」

「いや、単純に忘れておった」

 えっ?と仁は目を見開く。頭をぽりぽりと掻きながら、学園長はすまんすまんと謝った。

「全部活動の予算費を担当している者から、変な部活があると報告があってな。儂も人間だからな。ミスはある」

 いやいやおいおいと、仁は納得出来ずにいた。

「じゃあ、二ヶ月泳がせたのは何か考えがあるとかそういうのではなく…?」

「ああ、儂のミスだ!」

 言い切ったよこの人!?と仁は驚きを隠さずにいた。

「一々ミスを気にしていてはビッグになれんぞ八坂。さぁ、仲間と共にふさわしい名を決めてこい!」



「という訳で、部の名前を決める事になった」

 学園長室を出た仁は、急いで部室に集まるよう仲間達に連絡した。

 結果集まったのは、六花ろっか黒成くろなりの二人だ。

「緊急事態って言うから、杖使わないで走って来たのによぉ…走り損じゃねえかチクショウ…」

 あぢーと、六花はチャックを開くと、中から義足が出てきた。以前までのとは別の、夏仕様の金属をあまり使っていない義足だ。超再生能力を持つ六花は、痛みにはめっぽう強いが、暑さには人並みに弱い。

「わぁも急いで来たからなんも買ってきてねぇ…」

 腹減った…と部室にあった来客用の茶菓子を食べる黒成。事態が事態な為、注意はしないがあまり食べられるとただでさえ少ない予算がどんどん無くなってしまう。

「一応全員には声をかけたが、とりあえず今はこのメンバーで部の名前の案を出そうか」

 何かいい案はあるか?と仁は二人を見る。

「そうだ、“依頼解決部”とかどうだ?」

 六花のひらめきに、却下と黒成が否定する。

「なんでだよ!?やんのかデカブツ!」

「やんねーわ!あんまり漢字多いと、部の名前書く時とかに書き辛い。やるとしても、“いらいかいけつ部”にすべきだと思う!」

 小学生か!と六花がつっこむ。

「黒成はいい案はないのか?」

 仁の問いかけに、そうだなぁ…と黒成が考える。

「そうだ、“黒成の一味”とかどう?」

「一生ひとつなぎの財宝追っかけてろ!」



「なにやら、私のいない間に楽しそうな話をしているようじゃあないか」

「お待たせしたな〜仁。いちゃもんつけてきた奴がいたから、死なない程度にぶっ殺してきたぜ〜」

 扉を開け、華乃かの緋音あかねが入ってきた。

「おお、お二人さん。“黒成海賊団”入らない?」

「ここ海ねーだろ!?」

 スパーンと、仁に頭をはたかれる黒成。

「ほう、私は大体察したぞ。学生を辞めて偉大な海に行く気だな?」

「海はいつだって偉大だよ!お前のせいで、話がややこしくなったじゃねぇかー!」

 期限今日までなんだぞー!と仁に頭を揺さぶられる黒成。

「…なるほど、この部活の名前を決めていたのかー。ワタシ、良い案があるぞ」

 カキカキと、紙に文字を書く緋音。

 出来た!と掲げた紙に書いてあるのは…。

「“ブラッディ・ヘノシディオ”…?」

 紙に書かれた内容を読み上げた六花が、首を傾げた。

「そもそも意味が分からないが、ブラッディの意味は分かる。英語で血塗られるってやつだよな…。ヘノシディオってなんだ?」

「知らんのか六花。なら、私が教えてやろう!ヘノシディオとは、スペイン語で虐殺という意味だ」

 つまり、血塗られた虐殺という部名だな、と華乃が言う。

「いや、ないな。“血塗られた海賊団”とかならまだしも」

「いつまで海賊ネタ引きずってんだよ!?海賊団になる訳じゃないからな!?今日までに部活名決めなきゃいけないんだからな!?」

 現実に戻ってこい!と、仁と六花に頭を揺さぶられる黒成。

「緋音…君の案は素晴らしいが、あまり物騒な名前だと依頼人が来なくなってしまうよ。ここは私の考えた、“華乃と仲間達による愉快な実験部”にしないか?」

 余計に人集まらんわ!と仁に間髪入れずにつっこまれた。



「おお!今日は随分と人数が多いなぁ!宴でもあるのか!?」

「…緊急事態って言ってたから来たけど…みんないるんなら僕要らないよね…帰ろうかな…」

『まぁまぁ、話だけでも聞いてから帰ろう』

 続けて火呂ひろ秋夜しゅうや影下かげもとが現れ、ついに全員が揃った。

「なるほど!部の名前を決めていたのかぁ!俺様抜きでずるいぞ!」

 まだなんも言ってねーよ!?と仁がつっこむ。

「ははは!来る途中に鼓膜を強化したからなぁ!俺様の前でコソコソ話は出来ないぜ!」

「なら、話は早い。何か案を出してくれ」

 う〜ん!と火呂は首を傾げたまま、黙ってしまった。

「「まだ決まってないんかい!」」

 仁の召喚した刀、そして六花の杖が火呂の頭に叩き込まれた。

「あ!今ので閃いたぞ!“悩める者よ、集まれ。ここは救われる場所、名はエデン部”とかどうだ!」

「いや長ーよ!?聖書から引用したようなフレーズだなおい!?」

「ははは!俺様自身が聖書みたいなものだからなぁ!」

「ダメだ、この馬鹿サングラスは放っておこう。秋夜は何かないか?」

 ぼ、僕!?と話を振ってきた仁に対して、異様に驚く秋夜。

「…僕なんて、どうせゴミみたいな部活名しか出せないよ…ゴミみたいな奴が考えた部活名なんて、粗大ゴミで捨てられるよ…」

「つまりそれって…“ネガティ部”?」

「上手いこと言ったような顔すんな黒成!腹立つなぁ!」

 ムキー!と怒る六花だが、その肩をぽんっと緋音が掴んだ。

「ワタシは嫌いじゃないぞー」

「私も賛成したいが、あまりマイナスなイメージを出してもな…やはりここは“華乃の愉快な人体実験教室”にしないか?」

「お前は真理の扉に全身持っていかれて死んじまえー!」

 仁のつっこみに、酷い…と華乃は涙を浮かべた。

「すまん、言いすぎた…。焦ってたとはいえ、死ねだなんて軽々しく口にしてしまった…」

 いいんだ仁、と華乃は白衣のポケットから何かを取り出した。

「私特製、“女の涙に男は弱ーい”だ。好きなタイミングで涙が流せる優れものだ。今日中に部活名が決まるとは思えんから、これで学園長を泣き落としてこい」

 一生泣いてろ性別不明がぁー!と、仁は“女の涙に男は弱ーい”を奪うと、窓から投げ捨てた。

「しかし、こうも人数が揃って決まらんものか…俺はもう出せる案がないぞ?」

 六花の言葉に、同じくと黒成が言う。

「やはりここは海賊になるべきじゃないのか!」

「お前まだ海賊ネタ言って…!?もしかして頭のバンダナって、海賊のバンダナなのか…?」

 仁の問いに、いかにも…と黒成は腕を組みながら、いつのまにか咥えていたキャラメル味のタバコ風のやつ、通称キャバコの煙を吐き出した。

「おおー!キャラメルの香り!なぁなぁ、これ終わったらクリームブリュレ食べにいかないかー?」

 クリームブリュレと聞き、かつての生クリームの暴力を思い出した仁は、口を押さえた。

「大丈夫か、仁。この“吐き気を抑えるドリンク”、飲むか?」

 華乃が差し出すドリンクを、仁は慌てて受け取ると吐き気と共に胃に流し込んだ。

「助かった華乃…デメリットはなんだ?」

「デメリットは、一時間以内に水を4リットル以上飲まないと胃の内容物と消化中のブツ、そして腸を彷徨っているであろうウンコが、全部口から出てくるぞ」

「だったらここで吐き出したほうがマシだったわぁー!?」

 なんちゃうことしてくれやがんだ!と仁に服を掴まれた華乃が、やん…と色っぽい声を出す。

「本当に時間がないんだろ!?遊んでる場合か、仁!」

「うるせえ六花!これが遊んでるように見えるなら、相当節穴だぞ!一度目ん玉抉り取って新しいのに変えたらどうだ!」

「ちょうどいい、ワタシ目ん玉食べたい気分なんだー。せっかくだし三つくれ、六花。お団子にしようー!」

 サイコパス!?と六花は杖を床に叩きつけ、仕込み銃を構えた。

「だから遊んでる場合じゃねぇんだべ?ここは“黒成海賊団〜悪魔みたいに美味しい料理が食べれるよ部”で決まりだべ!」

「いや、私は海賊なんて認めない!だって海賊になったら私も戦うんだろ?非戦闘員舐めんなよ!」

「…僕、多分敵から逃げ回る役とかだろうな…いや、そもそも船に乗せてもらえるかどうか…船酔いとかしそうだし、船降りろとか言われそう…」

 自分の発言で傷つくネガティブな秋夜。

「なぁみんな!影下が案があるらしいぞぉ!」

 火呂の怒声のような大きな声に、部の中が一斉に静まりかえった。

『ありがとう、火呂。声が出せないから中々案が言えなくて』

「気にするな友よ!困った時はお互い様だぁー!」

 文字を消し、ホワイトボードに書き込む影下。

『さっき遊んでる場合じゃないって言ってたけど、なんだかんだみんなで遊んでる時が一番この部っぽくて一番しっくりきた。けど、“遊んでる部”とか聞いたことないし、ふさわしくないと思う』

「確かに、そうだな…」

 仁の言葉に、こくんと影下が頷く。

『それでね、さっき黒成が言ってた“ネガティ部”ってやつ。あれが凄くいいと思った』

「いや〜それほどでも〜」

『褒めてないよ』

 ガーンと、ショックを受ける黒成。

『発想が良いなって思った。遊んでるけど、遊んでるだけじゃない部活。略して、“遊部”』

 遊部…と全員が口に出した。

「遊部か、確かに俺達らしいな!」

 堅苦しいのは割に合わないからな、と六花は仕込み銃を床に叩きつけ、杖に戻した。

「ワタシもいいと思うぞー。なんかいい響きだし…」

 隙あり!と六花の眼球二つを瞬時に引きちぎり、モグモグと咀嚼を始める緋音。

「私は…まぁ、部の名前なんて何でもいいか。このメンバーが笑って過ごせる部なら、なんだって構わない。だが、なんか妙にしっくりくるのはなんでだろうな?響きか?響きがいいのか?」

 発明家兼研究者として解明したい!と、華乃は鼻息を荒くしていた。

「わぁもそれでいいよ。遊部だったら書きやすいし」

 それより腹減った…と、黒成はお腹を触っている。

「俺様も賛成だ!遊部!まぁ被ることはまずないだろうなぁ!」

 アッハッハ!と大きな声で笑う火呂。

「…僕も、それでいいと思うよ…ネガティ部とかだったら…僕だけの部活になっちゃうだろうし…」

 …結局孤独こそ僕に残されたものなんだね…と再びネガティブスイッチが入る秋夜。

『仁。部活の名前、遊部でいい?』

 影下がホワイトボードを見せながら、仁を見つめる。

「ああ、決まりだな。今日からこの部活の名前は“遊部”!部長はこの俺、仁!異論はないな!」

 いや、ある!とほぼ全員に言われ、えっ?と仁は素直に驚いた。

「この良い流れのまま、終わるやつじゃないの?」

「部の名前に異論はないが、どう考えても部長は俺だろ?仕込み銃と義足と超再生能力…話のネタにも困らないだろ?」

 いやメタイな!?と驚く仁。

「いや、ワタシこそ部長に相応しいと思うぜ。戦闘力でいったらワタシが一番強いからなー!」

 あとおかわり!と再生した眼球を再び狙う緋音と、させねぇよ!?と鋭い爪を杖で防ぐ六花。

「私が部長になれば、もっとスマートに依頼解決が出来るぞ。私の発明品でなぁ!」

 そうすれば、私も実験が出来てwin-win〜と華乃が、よからぬ事を企んでいる。

「いや、わぁこそ部長だろ。仁よりほら、身長高いし」

 テメェそこで身長のくだりだすかぁー!と刀を振り回してくるが、黒成は危機回避能力で何とか避けた。

「俺様こそ部長だろう!人の上に立つ者は高貴で立派で生徒の模範となる者!つまり全条件を満たしている俺様こそ部長に相応しい!」

 サングラスにボタンを全部開けたワイシャツと、生徒の模範になれるか微妙な火呂。

『仁もよくやってるよ。でも能力の強さなら負けないよ!だから部長やらせてね!』

 文句を言おうものなら、口を消されてしまいかねない。そんな雰囲気を、深く被ったフードから醸し出す影下。

「…僕は部長は仁でいいと思うよ。どうせ僕がやったって…みんなを傷つけて終わるだろうし…」

 そこは部長目指そうぜ!?と仁がつっこむが、秋夜は既にネガティブ全開だ。聞こえているか定かではない。

「…まぁ、確かにみんなの意見も分かる。今時刀一本で戦うなんて、大正時代の主人公とかじゃなければ、ヒットしないだろうな。だからこそ、俺は今後も部長としてお前達に頼りたい!それが、俺が部長でいたい理由だ」

 仁の言葉に、みんな茫然としていた。

「俺、なんか変なこと言ったか?」

「いや、真顔で恥ずかしい事を平然と言えるのは凄いな〜って感心してたわ」

 はぁ!?と刀をつきつける仁と、冗談だよと笑い出す六花。

「まぁ!俺様風紀委員の仕事もあるからな!部長は今まで通り仁でいいか!」

「それより腹減った…」

「ワタシも腹ペコだ。飯行こうぜ!」

 緋音は鞄を持つと、一目散に部室を出ていった。

「じゃあ、一番最後に来た人の奢りということにしようか」

 華乃は発明品のスケートボードを空中から出すと、アデューと言い残して部室を出ていった。

「ずるいぞ!華乃!一番は俺様だぁ!」

「ちょっと待ってよ…なんだかんだ、僕が払わされる気がするから、早く行かないと…」

「まぁ、最後じゃなければ遠慮なく食えるからゆったり行こうかな」

 火呂に着いていくように秋夜も部を出て行った。黒成は、どうやら奢られる気満々のようだ。

「仁、これから部活の名前の申請しに行くんだよな?」

「ああ、六花。俺達、友達だよな?」

 もちろん!と六花は荷物を持つと、窓から飛び降りた。

「テメェ六花!再生するからって卑怯だぞ!?」

 はぁーとため息をついた仁は、戸締りを確認してから部室を後にした。

「ま、部長として最後に出るのは当然か…」



「ほう…遊部か。面白い名を考えたな」

 再び学園長室を訪れた仁は、部活の名を書いた申請書を金剛瓦に提出した。

「よかろう、今日からお前達の部活は遊部。これからも期待しているぞ」

「そりゃどうも学園長。早速なんですが、予算下さい」

「もう金欠か。儂が納得する理由があるなら、いくらでも予算を出してやる」

 理由か…と仁は考えようとしたが、辞めた。

「これから部活の名前が決まったパーティをするんです。おそらく俺の奢りになると思うので、5万円ほど下さい」

 この人を前に、下手な言い訳は通用しないだろう。そんな仁の考えを悟ったのか、学園長は大きな声で笑い始めた。

「はっはっは!正直で良い!だが、予算で出すとなるとややこしくなるから、後で領収書を持ってこい。儂が出してやろう」

 ありがとうございます、と仁は頭を下げた。

「じゃあ、仲間達が待ってるのでもう行きます」

 失礼します、と学園長室を出ようとした仁。

「待て、八坂」

「儂も混ぜろって言いたいんですか?」

 そんな野暮な事はせん、と学園長は笑う。

「仲間は大切にする事だな。いつか、お前を助けてくれるだろうからな」

「いつも助けられてますよ」

 そう言い残し、仁は出て行った。

 仁が出ていくのを見送ると、金剛瓦は机の引き出しから、一枚の書類を取り出した。

「八坂 仁…。一年前の国内最大のテロ事件の中心にいながら、生き延びた少年…。お前は儂に、どんな物語を見せてくれるかな」



 こうして部の名前も決まり、彼等の物語はいよいよ始まる。

 後に起こる大事件までのタイムリミットは、あと少し。

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